(社説)ICCと日本 国境なき「法の支配」を
戦時や紛争下における集団殺害や人道犯罪など、国際法が定める重い罪を犯した個人の刑事責任を問う国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)が創設されて、今年で20年になる。
ロシアのウクライナ侵攻をうけ、戦争犯罪などの捜査を現地で進めるなど、活動が注目を集めるなか、節目の年を迎えた。
犯罪行為の責任者の不処罰を許さず、そのことで将来の紛争も防ぐことは、平和、人権といった普遍的な価値を守ることにつながる。日本は年間約30億円を負担する最大拠出国であり、法の支配を世界の隅々に届ける協力をさらに深めるべきだ。
国際法廷としては、第2次大戦後、指導的立場にあった戦争犯罪人を連合国が裁いたニュルンベルク裁判、東京裁判が知られるが、「勝者の裁き」との批判があった。1990年代の旧ユーゴスラビア紛争、ルワンダの虐殺などでは、国連が国際法廷を設けた。ICCはその流れをくみ、初の常設国際法廷として02年、有志国で発足した。
対象犯罪が起きた疑いがある場合は関係国が捜査・訴追するのが原則だが、その能力や意思がない場合に補完する役割を担う。各国の司法制度がもろい、あるいは容疑者が政治指導者という場合でも、訴追・裁判をめざす「最後の砦(とりで)」は不可欠だ。
ただ、その道のりは平坦(へいたん)ではなかった。123の国・地域が加盟する一方、米国、ロシア、中国などの大国は、自国兵士の訴追を警戒し、非加盟のままだ。初期に捜査が集中したアフリカ諸国からは批判を浴びた。スーダン・ダルフール紛争のときのように現職大統領に逮捕状を出しても身柄拘束できない、自国が対象になると脱退する国がある、など課題は多い。
ロシアのウクライナ侵攻では、欧州連合(EU)の司法機関や市民団体が証拠の収集・記録でICCや関係国に協力している。ウクライナ、ロシアの当局もそれぞれ捜査に動いているが、公平さの確保にはICCがかかわっていく必要性は高い。
07年に加盟した日本にも、新たな役割が求められている。10月にはホフマンスキー・ICC所長が来日し、政府が運営を担う「国連アジア極東犯罪防止研修所」を加盟国の捜査官らの研修に用いる協力で合意した。
ICCで働く日本人は、検察官出身の赤根智子判事ほか十数人と、人的なつながりは深くはない。紛争国の言語や法制度に精通するハードルは高いが、ウクライナ情勢をめぐっては、法務省が検察官2人を派遣するなど、関係強化を模索している。
司法面での国際協力を、世界の人々の平和なくらしに生かすきっかけとすべきだ。
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