(社説)JAXA不祥事 組織の問題点洗い出せ

[PR]

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙飛行士が所属する部門が実施した実験で、データの捏造(ねつぞう)や改ざんに相当する行為が複数見つかったと発表した。JAXAの報告書には、研究ノートがほとんど作成されておらず、後から確認することができなかったという信じられない記述も出てくる。態勢の立て直しが不可欠だ。

 2016~17年に計5回実施されたこの実験は、宇宙での長期滞在を念頭に専用施設で2週間過ごしてもらい、血液や唾液(だえき)などのデータや精神状態の変化を調べるものだ。応募した約1万1千人から選ばれた40人が参加したといい、多くの善意と信頼を裏切った。

 日本は先月、国際宇宙ステーション(ISS)の30年までの運用延長に参加すると同時に、月を回る軌道に建設される新たな基地への飛行に日本人が搭乗することで米国と合意し、公表した。将来の月着陸も視野に入れ、新たな飛行士の選抜も進めている。その足元で、このようなずさんな実験がなされていたとは、驚くだけでなく不安にもなる。

 実験の責任者らは動機や理由について「業務多忙」を挙げているという。計1億9千万円の公的な研究費が使われており、到底許されない。計画は事前の内部審査で2度不承認になった後に承認されており、この段階で問題を把握できていた可能性もある。個人の責任に帰するのではなく、組織の問題として捉えるべきだ。

 3人いた責任者の1人は来年にISSでの長期滞在が予定されている古川聡飛行士だ。古川飛行士の直接の関与はないといい、会見でJAXAの佐々木宏理事は「研究実施責任者の資質と宇宙飛行士の資質は異なるものと思っている」と述べた。だが、ISSに滞在する飛行士は委託を受けた様々な実験や研究を代表して行う立場にある。自ら責任を持つべき研究を十分に管理できない人に、信頼して託すことができるだろうか。

 結果として論文発表には至らず、JAXAは「研究不正には該当しない」と説明した。ところが、報告書によれば、共同で参加していた企業が18年、自社の商品紹介と合わせて結果の一部を先行して発表していた。この点も極めて不適切だ。

 政府やJAXAは現在、産業の裾野を広げるため、さまざまな分野の企業参入を積極的に支援している。ISSも30年以降は民間主体の運用に移行する方針が打ち出され、今後いかに企業を取り込めるかが成否のカギを握る。企業との共同研究におけるルールを改めて確認し、順守の徹底を求めたい。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【10/25まで】すべての有料記事が読み放題!秋トクキャンペーン実施中!詳しくはこちら

連載社説

この連載の一覧を見る