(社説)修学支援制度 若者の選択肢 狭めるな
経済的な理由で大学や専門学校への進学をあきらめないですむように、若者を支援する「修学支援制度」の拡充を政府が検討している。制度は20年度に始まり、返済不要の給付型奨学金の支給と、授業料などの減免が柱だ。いまは低所得層の学生が対象だが、これを中間所得層にも広げようとしている。それ自体は望ましい方向だ。
しかし、対象の広げ方や大学への条件のつけ方が問題だ。
岸田首相が議長を務める政府の「教育未来創造会議」は5月、子どもが多い家庭や理工・農学系学部の学生に限り、中間所得層にも支援を広げるよう提言した。この線に沿って24年度から見直すため、文部科学省が有識者会議を設置し、今月中に報告書をまとめる予定だ。
多子世帯の支援強化には異論はない。だが、政府が重視する「成長分野」の学部だけ支援を手厚くするのには、違和感がある。家計が苦しい学生が、本当に学びたい分野への進学を断念することを誘発しかねない。
また、対象となる大学などの要件を厳格化する方針にも、懸念の声があがる。
文科省は、「直近3年度全ての収容定員充足率が8割未満」の大学を対象から外す考えだ。経営難の大学の延命に利用させないためというが、「充足率8割未満=経営困難」ではない。また、対象外になるのは、地方大学が多いとみられている。大学生の「地方に学ぶ場がなくなる」との声や、子どもの貧困対策に取り組む団体の「子どもの選択肢が狭くなる」との声にも、耳を傾けるべきだ。
学生への支援に絡めて、政府が求める改革を押しつけるやり方も目につく。制度の対象となるために大学が政府に提出する書類には、入試科目の見直しや、全学的なデータサイエンス教育の取り組みの記載を求める。「必須要件ではない」とするが、書類は公表義務があり、大学は圧力を感じるだろう。
政府は制度開始時にも、対象大学に、企業などで実務経験のある教員の授業が全体の1割以上、といった四つの要件をつけた。「大学自治への介入」といった懸念の声を無視し、実際に対象校を絞り込んでいる。
政府は、多様性が重要だとさかんに訴える。だが、追加する方針の要件は、大学の個性を薄め、幅を小さくする方向のものばかりだ。方針通りになれば、大学の教育内容に大きな影響を与える可能性がある。見直しの24年度実施にこだわり、拙速に結論を出すべきではない。
制度の本旨は、学生の経済的な不安を減らすことにある。政府の求める改革を大学側に強制する手段としてはならない。
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