(社説)学術会議改革 独立性維持こそ財産だ
政府が日本学術会議に組織改革を求める方針を公表した。今後の議論には、学術会議の独立性こそが、政府や社会に向けての提言に資する財産だという認識がぜひとも必要だ。
政府方針の主な柱は、(1)政府や産業界と問題意識や時間軸を共有した連携や助言機能の強化(2)会員選考で外部の推薦を受けることや、選考に意見を述べる第三者委員会を設けること(3)活動や運営の徹底した透明性や外部評価委員会の強化――などだ。いずれにも疑問がある。
学術会議が存在する意義は、短い時間軸で考えがちな政治の判断や、目先の利益にとらわれやすい経済の論理からは一歩引いて、長い時間軸と広い視野で、高度な専門知を集めながらビジョンを示すところにある。政府や産業界が容易に発想できない課題発掘や政策提言こそが求められ、時の政権から独立した立場からの視点や多様性が損なわれるのは好ましくない。
政府の考えを支持しそうな人々を多く集めてお墨付きを得ようとしているように見える審議会も少なくないが、そのような役割にとどまってしまえば、高度な専門家集団としての学術会議を生かし切れない。
会員選考への第三者の関与のあり方にも強い違和感がある。
振り返ってみれば、この問題は、菅義偉前首相が学術会議の推薦した会員候補6人を任命しなかったことが発端だ。任命拒否に非難の声が高まると、学術会議の改革に論点を転化した。
会員選考にあたっては、多様な視点も確保するべきではある。ただ、選考の透明化を論じるのであれば、まずは政府が、6人の任命拒否の過程や理由を説明して範を垂れるべきだろう。仮に、第三者委員会が政府の意向をくむメンバーばかりになったとしたら、同様の問題が違う形で起きるおそれもある。
活動や運営への透明性の確保や外部の意見を聴くことは必要だが、これらの改革は学術会議が主体的に行うべきで、実際に取り組んでいる。政府の意に沿うように外部評価委員会の構成や権限を改めれば、独立性を根幹から損なってしまう。
政府方針では、組織のあり方については、国の機関として存続させ、一部で提言された政府から独立した法人とはしなかった。ただ、3年と6年後、改革状況を踏まえ必要があれば検討する、と含みを持たせている。
学術会議は、政府方針を8日と21日に開く総会で議論する。政府は、具体的な内容を詰め、通常国会に関連法案の提出を目指すという。学術会議の存在意義を改めて認識しつつ、学術会議の意見を十分に踏まえたうえでまとめる必要がある。
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。