(社説)施政方針演説 反省なき「決断」の強調

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 国民的議論を経ていない「決断」を、事後的に説明する場だと心得ているのなら、国会軽視もはなはだしい。「結論ありき」での方針転換への反省がなければ、岸田首相が今回も掲げた「信頼と共感の政治」は看板倒れのままとなろう。

 通常国会がきのう召集され、首相が施政方針演説を行った。

 冒頭、政治とは、慎重な「議論」「検討」の上に「決断」したことを、国会で「議論」し、実行に移す営みだとの考えを示した。「検討」「決断」「議論」のすべてが重要かつ必要だと言いながら、政府の「決断」に力点があるのは明らかだ。

 昨年末に政権が相次いで打ち出した、安全保障政策と原発政策の大転換に対する自負が透けてみえる。しかし、いずれも、「決断」に至る過程には、大きな瑕疵(かし)がある。「慎重の上にも慎重を期して検討」したという首相の言葉は、とても額面通りには受け取れない。

 首相は今の日本が「歴史の分岐点」に立っているとの認識を示したうえで、まず、「防衛力の抜本的強化」を取り上げた。防衛予算の大幅増や敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有、南西諸島の防衛体制の整備などを列挙、「1年を超える時間をかけて議論した」と述べた。

 しかし、大半は政府・与党内の見えないところで行われ、首相が公には「検討中」を繰り返したことから、国会ではまともな議論にならなかった。異論にも丁寧に向き合い、多角的な検討が尽くされた形跡はない。

 自ら「大転換」と位置づけた安保政策には、1項目を割く一方で、原発の積極活用では、廃炉となる原発の建て替えや運転期間の延長などに簡単に触れただけ。なし崩しの転換を象徴するような扱いであり、これでは、福島の被災者をはじめ、幅広い国民の納得は得られまい。

 去年の施政方針演説では冒頭で詳述した、新型コロナ対策はすっかり後景に退いた。この春に感染症法上の位置づけを見直す方針などが示されたが、医療現場の逼迫(ひっぱく)は続き、死者もなお多い。分類変更のリスクを含め、国民への丁寧な説明が必要なことを忘れてはいけない。

 閣僚の辞任などがあった「政治とカネ」や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる問題は、結語の前に取り上げ、「信頼こそが、政治の一番大切な基盤」と考える政治家の一人として、「ざんきに堪えない」と述べた。ただ、再発防止に取り組むといっても、具体策は明確でなく、教団と政治の関係の全容解明にも言及はなかった。もはや終わった問題だと片付けるなら、信頼回復はおぼつかないと心すべきだ。

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