(社説)中期財政試算 疑わしい「黒字化実現」
政府が中長期の財政試算をまとめた。財政健全化目標が達成可能だとするが、大型の補正予算を組まないのが前提とされ、実現性は疑わしい。コロナ禍で失われた財政規律を立て直し、肥大化した歳出を着実に見直すことが求められる。
政府は、国と地方の基礎的財政収支を25年度に黒字にする目標を掲げている。昨年末に防衛費の大幅拡充を決めたため、従来試算より収支が悪化する懸念が高まっていたが、内閣府が先週公表した最新の試算は、半年前とほぼ同じ中身だった。
23~25年度の実質経済成長率を平均1・8%と想定すると、基礎的収支は25年度も1・5兆円の赤字になる。だが、今まで同様の歳出効率化を続ければ、1・1兆円の黒字に転じ、目標が達成できるという。
だが、額面通りには受けとれない。試算には多くの非現実的な仮定があり、実際には、目標の達成は極めて難しいと考えざるを得ないからだ。
そもそも今年度の基礎的収支は、約49兆円もの記録的な赤字に陥る見通しだ。それがわずか3年で大幅に持ち直すと試算する最大の理由は、近年急膨張した補正予算を今後は編成しないと想定したことにある。
岸田首相は、コロナや物価高騰の対策が補正予算の大部分を占めていると説明したうえで、今後「減額していく」と述べている。だが、補正予算に計上されているのは、それだけではない。半導体の生産支援や研究開発の強化、農林水産業の生産性向上など、各省庁の目玉政策も毎年盛り込まれてきた。
つまり近年の補正予算は、当初予算の金額を小さく見せるために計上しきれなかった事業を実施する「抜け道」になっている。与野党の財政規律がまひするなか、抜本的に補正予算を縮小できるかは、疑わしい。
試算は、防衛費増額にあたって政府の計画通りに安定財源が確保できることも前提にしている。だが、防衛費向けの増税には自民党内で反対論が根強く、歳出改革も具体的な中身が固まっていない。
今後3年間で平均1・8%の経済成長との前提も実現は危うい。それに基づく税収見通しも過大な可能性がある。
中期試算は、できるだけ客観的な見通しを示すことで、財政健全化に必要な歳出歳入両面の改革を政府に迫るためにある。今回の結果からは、緊急対応で増やした予算を平時に戻すことが必須なのは明らかだ。
政府は、政策の優先順位を洗い直し、具体的な対策を詰めるべきだ。達成困難な現実から目を背けて対応を先送りするならば、試算の意味は無い。
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