(社説)東京五輪談合 被害は広く国民に及ぶ
大会運営の根幹にまで腐敗が進んでいたのなら、病巣の本体をえぐり出し、あしき構造と決別する必要がある。
東京五輪・パラリンピックをめぐる談合事件で、東京地検特捜部がきのう、大会組織委員会の大会運営局元次長と、広告最大手「電通」や落札企業の担当者ら、合わせて4人を、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで逮捕した。
テスト大会の実施計画をめぐる会場ごとの競争入札では、26件を9社・1共同企業体が落札した。特捜部の調べでは、組織委元次長らが電通側と事前に落札予定業者を調整し、大半はその1社だけが参加。同じ業者が本大会の運営も随意契約で受注しており、入札・随意契約を通して違法だった、とされる。その規模は計400億円を超す。
東京大会をめぐり、特捜部は組織委元理事が絡んだ汚職事件の捜査を先行させ、大会スポンサー企業関係者ら計15人を起訴している。今回の動きは、利権に群がる個人・企業の犯罪から、巨額の公金が動く国家的事業の構造的な問題へと、捜査の焦点を移すものだ。不正の全容解明につなげねばならない。
招致前から国民の負担の重さへの懸念が強かった東京大会で、開催する側は「コンパクト五輪」「経費の見直し」を掲げていた。その裏で、テスト大会段階から競争を阻み、自ら経費を押し上げていたとすれば、深刻な裏切り行為だ。
大会の経費は、招致時に示された約7300億円から組織委が公表した約1兆4200億円に膨らみ、会計検査院は昨年、それより約2800億円多い約1兆7千億円と認定した。談合は、具体的な被害者がいないかのように見える犯罪とも言われるが、公金が支出された事業で仕組まれれば、その被害が広く納税者に及ぶのは明白だ。
大会の開催・運営に深く関わった電通は、汚職で現役社員が罪に問われることはなかったが、談合では中心的な役割を果たしたとみられている。
公共性の高い組織と企業の間には、緊密に協力する事業であっても、越えてはならない一線がある。今回、だれの、どのような働きかけや意思決定がそれを崩したのか、とことん精査すべきだ。スポーツ事業に限らず、そこに官・民の癒着を防ぐカギもあるのではないか。
「一社応札」で選ばれた会社と引き続き随意契約する状況が問題であると、内部でチェックできなかったのか。政府、東京都、日本オリンピック委員会(JOC)、そして解散したものの組織委の会長・事務総長らは、説明責任からいよいよ逃れられなくなった。
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