(社説)日比首脳会談 安保偏らぬ関係深化へ
ともに海を隔てて台湾と隣り合い、米国の同盟国として安全保障上、重要な国というにとどまらない。民主主義の価値を日本と共有し、約1億の人口を擁する成長国である。そのフィリピンと広範に連携し、アジア地域に安定した秩序を築いていく基盤としたい。
昨年6月に就任したマルコス大統領が初来日し、9日に岸田首相と会談した。自衛隊がフィリピン国内で人道支援や災害救援の訓練を行う際の手続きを簡略にする取り決めに署名するなど、協力強化で合意した。
両首脳は、「自由で開かれたインド太平洋」の理念を確認した。東・南シナ海の状況への深刻な懸念も表明した。名指しは避けたが、海洋進出を強める中国が念頭にあるのは明白だ。
注目すべきは、二国間だけでなく米国も含めた安保協力の促進がうたわれたことだ。3カ国での防衛協議や共同演習などを進めるという。
フィリピン前政権からの大きな転換といってよい。ドゥテルテ大統領は領有権を争う中国に強い異議を唱えなかった。一方で強引な麻薬対策への批判に反発し、対米関係は悪化した。
これに対し、マルコス氏はバイデン米大統領と会談するなど関係修復を図ってきた。米軍の駐留拠点を5カ所から9カ所に増やすことでも合意した。
領有権を否定した国際法廷の判決を無視して南シナ海で軍事拠点化を進めるなど、中国は力による現状変更をいとわない。歯止めをかけるには、「法の支配」の国際連携が必須だ。その意味でフィリピンが足並みをそろえたのは歓迎したい。
一方、中国はフィリピンにとって最大の貿易相手国だ。対抗一辺倒ではすまない事情にも留意する必要がある。実際、マルコス氏は先月、北京を訪問して習近平(シーチンピン)国家主席と首脳会談を行うなど、米中一方に偏らないバランス外交に腐心している。
軍事偏重の関係強化で米中の覇権争いを加速させるのは望ましくない。中国との歴史的、経済的な結びつきが深い立場をいかし、緊張が紛争にエスカレートしないよう外交努力を尽くすことが日本、フィリピン双方の利益になると認識すべきだ。
フィリピンは、若年人口が多く今後の成長も見込まれる。とはいえ貧困率は18%と高く、経済格差も深刻だ。外国への出稼ぎに依存し、安定成長には国内産業の育成が欠かせない。
日本には南部ミンダナオで独立をめざす武装組織との和解を仲介し、20年以上にわたり和平を支援してきた実績もある。安保に偏らず、民生安定やインフラ整備、民主主義支援など、多角的な関係を深めたい。
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