(フォーラム)自治会・町内会、曲がり角:1 課題は

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 自治会町内会の運営が曲がり角を迎えています。加入率が低下し、高齢化で役員の担い手も不足。実情を聞くと、自治会に入っている人も入っていない人も、様々な思いがあるようです。生活様式が多様化するいま、地域をどのように支えていけばいいのでしょうか。

 ■委員掛け持ち、偏る負担 広報誌配布や集金・夜でも電話

 負担が一部の人に偏っている。自治会・町内会の役員を担う人たちの間には、そんな不公平感が漂う。

 アンケートに回答した京都市内の50代男性が取材に応じてくれた。約40世帯が加入する町内会の会長をしており、2月中旬、次年度の会長と役員数人のなり手を探し、引き受けてくれそうな家庭を個別に回った。だが、すんなりとはいかなかった。

 「役員をやるくらいなら、町内会をやめます」

 「もう2回も会長をやったから」

 最終的に何とか決まったが、「僕もやめますわ、と言いたくなった。役員決めが一番大変」とぼやく。数年前から毎年度、何らかの役員をやってきた。来年度は再び体育委員をする。町内会対抗グラウンドゴルフ大会など行事が多く、会長と並んで敬遠される。同じ人が何度も役員を引き受ける状態が続いており、負担が偏っていると感じる。

 市の広報誌の配布は月2回。寄付集めも年に何回かあり、そのたびに会合に出て説明を聞き、希望者を把握し、組長が集金して会長が預かる。「役員だけプライベートな時間が削られ、不公平感がある。共働きなので、両立も負担です」

 やめられるものならやめたいと思ったことも。だが、「近所づきあいがないと、お年寄りの独居もわからず、いざというときに助けてあげられない」と踏みとどまっている。

 3年前から自治会長を務める埼玉県ふじみ野市の男性(74)も、アンケートで悩みを打ち明けた。年度末が近づくと行政から依頼された「委員」の推薦に頭を悩ませるという。

 委員は多岐にわたり、10種類ほどに上る。住民の生活や福祉の相談相手となる民生委員、夏・冬休みにパトロールをする青少年育成委員……。それぞれ、年数回の会議や定期的な報告書の提出を求められる。民生委員は「電球が切れた」「ゴミの運搬を手伝って」と夜でも電話がかかり、精神的な負担もある。会社勤めだと時間を割くのは難しい。

 「『こんなに時間がとられると思わなかった、だまされた』と言われるのはつらい」

 男性も三つの委員を掛け持ちする。役員4人と評議員16人がいるが、ほとんどが委員も担う。

 3年前と比べると会員世帯は50ほど減り、いまは約300世帯。ここ3年で転入してきた若い世代15世帯のうち、加入したのは3世帯にとどまる。「自治会は負担の割にメリットが少ない。加入の有無による不公平感をなくして、行政も依頼を減らさないと、担い手は出てこない」

 ■次第に疑問、退会へ 近所付き合いは変わらず

 一方で、運営や活動内容に疑問を感じ、距離を置く人たちもいる。

 関西地方の60代女性は、20代後半で結婚して今住む町に引っ越し、自治会に入った。自治体に委託されたごみ集積所の清掃当番や広報誌の配布などを担ってきた。

 高齢者にパソコンを教え、ケガをした子どもを見かけたら声をかけた。「何かの縁で隣り合った人たち。助け合うのは当たり前だった」

 だが、次第に運営に疑問が募った。高齢者も多いのに、一律に清掃活動への参加が求められた。自治会に入っていないと、小学生の集団登校班にも入れてもらえなかった。入退会は自由なはずなのに、「実質的に加入が強制されていた」という。

 不明朗な会計処理に疑問を感じて、5年ほど前、退会を決めた。自治体が、自治会を出先のように使っているように見えた。

 退会後も近所付き合いは変わらず続けている。「誰もができる範囲でできることをする形であるべきだと思う。入っていない人が入りたいと思える自治会が理想だ」

 関東地方の60代女性は、会費が月2千円の自治会に入っていた。以前住んでいた地区は会費が年数千円だったので、高いと感じた。

 年数回の草刈りにごみ集積所の清掃などの当番があった。会費は、役員報酬や飲食代などに過度に充てられていると感じた。「お金を払うだけで、何の恩恵もない」。高額な会費について自治体に問い合わせたが、「自治会は独自に運営しているので何も言えない」と言われた。

 疑問に感じたのは会費の使途だけではない。水害で自宅が雨漏りしたが、自治会から支援はなかった。近所の高齢者も同じだった。「意味のないお金は支払いたくない」と数年前、悩んだ末に退会を決めた。

 一部の人から「辞めると孤立する」と言われたが、退会後も生活に不便はない。ごみ集積所の清掃当番は続けており、近所の人との関係は良好だ。「自治会に入っているいないに関わらず、顔の見える人たちとの付き合いを大切にしたい」

 ■全国に30万、解散・合併も

 「町内会」「区会」などとも呼ばれ、全国に約30万ある自治会。その運営方法や活動内容は、法律などで定められているわけではない。多くは任意団体で、その区域に住む人であれば誰でも加入、脱退できる。

 だが、全員加入が暗黙の前提になっている自治会も多い。東京都立大の玉野和志教授(地域社会学)によると、そんな仕組みは大正から昭和にかけて形成された。都市化によって多くの人が都市に流入し、隣近所に誰が越してくるか、不安を感じる人が増えたためだ。「親睦を深めて自分を守ろうとする意識が生まれ、全員加入が前提になった」。世界的に見ても珍しい仕組みだという。

 戦時中は国民統制の地域組織「隣組」の形で機能した。戦後、GHQが解散命令を出したが、1952年のサンフランシスコ講和条約の発効に伴い、各地で次々と復活した。

 行事を通じた住民同士の親睦、災害時の助け合い、高齢者や子どもの見守りなど、活動は幅広い。広報誌の配布やポスター掲示、国勢調査の調査員や民生委員などの推薦、募金活動など、自治体からの業務委託も受けている。「行政にとっては、自治会が地域活動を担ってくれるのは助かる。95年の阪神淡路大震災の頃から、防災面でも自治会加入の推奨が加速した」と玉野教授は話す。

 課題は、加入率の低下と担い手不足だ。624市区町村を対象にした調査で、政令指定都市では2010年度の自治会加入率は77%だったが、20年度には70%に下がった。集合住宅を中心にした未加入者や役員ができない高齢者が増えたことなどが主な理由だ。共働きや一人暮らし世帯の増加など、多様化する生活スタイルに運営方法や活動があっていないことも背景にある。

 解散や合併するところも出てきている。22年の調査では、東京都49区市の自治会などの地縁団体の数は、6年前と比べて144減っていた。

 ■「電子化を」「楽しめる交流も」

 アンケートは、10代から90歳以上まで幅広い世代から回答が寄せられました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/172/で読むことができます。

 ●回覧板と集金を電子化して 回覧板の大半は数カ月遅れの学校便り。インターネットの掲示板やメーリングリストに移行してよいと思います。また、会費の集金に来られても不在のこともあり、現金を準備する手間もかかります。自治会が銀行口座をもっていれば、振り込みや送金で十分。(神奈川、男性、20代)

 ●仕事が多すぎる 班長を経験し、驚くほどの仕事があると知った。さまざまな会費の集金や役員会出席、配布物の受け取りと受け渡し。一斉清掃と出欠の確認、不参加者が払うお金の集金。葬儀の連絡と役割分担。スポーツ大会参加と弁当の手配……。土日が休みでない人やシングルマザー・ファーザーがやるのは不可能に近い。簡略化を訴えたが、農家で多人数世帯が多く、理解されなかった。(鳥取、男性、60代)

 ●自治会頼み立ち行かない 個人が自治体にもの申しても限界がある一方、自治会長の立場で言えば検討いただけることは経験済み。自治体側から見ても、個人からバラバラと申し出があっても重要度を推し量ることが難しいと思う。だが、いつまでも自治会というボランティア頼みでは早晩立ち行かなくなる。(兵庫、男性、60代)

 ●存在意義が話題に 40軒ほどの自治会は高齢化が進み、最近の活動は回覧板と慶弔、冬の夜回り程度です。街灯の管理は数年前に市に移管され、町会の存在意義について毎年、話が出ます。防災や災害時の役割も期待されるところですが、同じ自治体内で加入者・非加入者間で差がでるのもどうなのかと悩ましいです。(東京、女性、50代)

 ●みんなが楽しめる活動を 私が所属する町会では、消雪装置の設置や菜園活動を通して若い世代が交流している。菜園の収穫物を高齢者に配り、世代間のゆるやかな交流も図っている。みんなが楽しめるサークル的活動がこれからの地域活動の中心になるのでは、と考えている。(石川、男性、30代)

 ◇「自治会・町内会」は、2015年のフォーラム面でも取り上げたテーマです。「とにかくなり手がいない」「入会している高齢者に負担が増える」「行政からの下請け事業が多すぎる」……。当時、寄せられた悩みや不満が、今回もあまり変わっていないことに驚きました。長く変わらない課題が、その解決の難しさを示しているようにも感じました。

 一方、この間、日本社会の高齢化が進みました。65歳以上の高齢者の割合は、15年の26.6%から22年には29.1%に。自治会に参加する人たちの負担は相対的に大きくなり、課題はより深刻さを増しています。

 人口が集中する東京も例外ではありません。23区内を町・丁目単位で調べると、高齢者が人口に占める割合が5割を超える「限界集落」に匹敵する地域は、20年で15カ所ありました。コロナ禍で思うように活動できず、解散する自治会もあります。

 では、自治会は不要なのでしょうか。今回のアンケートでは、防災活動や災害時の助け合い、地域の安全を守る役割が、多くの人に期待されていることもみえてきました。

 これまでの運営や活動がいよいよ難しくなってきた今こそ、その役割や形、行政との関係を見直す好機です。そのために自治会に入っている、いないに関わらず、自分が住む場所をどんな地域にしていきたいかを考えることが大事だと思います。篠健一郎

     ◇

 自治会・町内会についての体験談やご意見を、メールdkh@asahi.comメールするまでお寄せください。

 ◇アンケート「鉄道のローカル線問題、どう考えますか?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。

 ◇篠健一郎、片田貴也、沼田千賀子が担当しました。

 ◇来週12日は「自治会・町内会 曲がり角:2」を掲載します。

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    おおたとしまさ
    (教育ジャーナリスト)
    2023年3月5日16時14分 投稿
    【視点】

    今日は午前中、周辺自治会と合同の防災訓練があった。私は自治会の防災部長としての参加だ。 記事中、「会社勤めだと時間を割くのは難しい」とある。しかし、私のような自営業者は、仕事の手を止めて自治会活動に関わっていると、その時間分の収入が減る。

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