(社説)南西諸島防衛 住民を守る備えなのか

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 沖縄を中心とする南西諸島の島々に、中国をにらむ防衛拠点を次々と築き、敵基地攻撃も可能な長射程のミサイル配備に向けて動く。一方で、リスクを含めた地元への説明は後回しで、戦争を未然に防ぐ外交や、住民保護の努力は不十分だ。これで本当に、島の人々の命と暮らしを守り抜けるのだろうか。

 陸上自衛隊が16日、沖縄県石垣島駐屯地を開設した。2016年の与那国島、19年の宮古島奄美大島に続く。日本最西端で台湾まで100キロ余りの与那国島には沿岸監視隊、それ以外の3島には警備部隊とミサイル部隊などが置かれた。防衛省は長い間の防衛の「空白地帯」が解消されたとしている。

 自衛隊の南西シフトは、海洋進出を強める中国を念頭に置いたものだ。それぞれの島の自治体の首長や議会は、住民に反対意見が残る中、受け入れを決断してきた。国の安全保障に対する協力というだけではなく、人口減少対策や地域振興への期待もあるだろう。

 しかし、そうした人たちを含め、住民の間に今、疑念や不安が広がりつつある。岸田政権が昨年末、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を含む、安保政策の大転換に踏み切ったからだ。

 防衛省は国産の12式地対艦誘導弾の射程を、約200キロから約1千キロに伸ばす計画だ。3島の部隊も持つミサイルで、長射程化後の配備も視野に入る。敵の着上陸を防ぐための「防御的な装備」とされていたのが、他国に届く武器となれば、相手側の攻撃目標になりかねない。

 与那国島には新たにミサイル部隊を置くことが発表された。沖縄本島沖縄市に新設される弾薬庫は、長射程ミサイルの主な保管場所に見込まれている。住民の理解を得る努力を抜きに、なし崩しに軍事的な備えを先行させることは許されない。

 有事の際に、住民をどう守るのかの検討もこれからだ。沖縄県は一昨日、石垣市与那国町など先島諸島5市町村の住民約11万人と観光客ら約1万人を、九州に避難させるなどの図上訓練を初めて実施した。

 しかし、攻撃を受ける恐れもある中、必要な多数の航空機や船舶を速やかに確保し、安全に運航できるのか。長期にわたるかもしれない避難先での生活を、どうやって支えるのか。住民から「現実的とは思えない」との声があがるのも当然だ。

 沖縄は先の大戦で激しい地上戦の舞台となり、多くの県民が犠牲となった。旧軍が住民を守らなかったという意識も残る。戦禍を避ける確かな方法は、戦争を起こさないことだ。政府は地域の緊張緩和のための外交に全力を注がねばならない。

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    佐藤優
    (作家・元外務省主任分析官)
    2023年3月21日6時31分 投稿
    【視点】

     沖縄の民意、沖縄メディアの主張について、よく情報を収集した上で書かれた優れた社説と思います。 ちなみに、3月21日、沖縄の地元紙「琉球新報」は、「先島避難図上訓練 危機あおる机上の空論だ」と題する社説を掲載しました。沖縄の動静を知る

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