(社説)歩道事故多発 自転車道の確保を急げ

[PR]

 歩道を行き交う人が巻き込まれる事故が多発している。新しい乗り物も登場して不安の種が増えるいま、交通ルールの徹底と環境整備が急がれる。

 まず、自転車の無軌道な運転が相変わらず目立つ。警察庁の統計では昨年、歩行中に自転車に衝突されて亡くなったのは3人、重傷者を合わせると312人。コロナ下から人々の活動が戻る中、4年ぶりに増加に転じた。事故の現場は歩道や路側帯が全体の45%と最も多い。

 自転車は車道の左側走行が原則であり、狭い歩道で速度を出すのは論外だ。歩道を徐行する場合でも、「自転車通行可」の標識がある▽13歳未満か70歳以上▽安全確保のためやむをえない――などの定めがある。法規の周知が改めて必要だ。

 改正道路交通法の施行により、4月1日からは自転車に乗る人もヘルメットの着用が「努力義務」になる。未着用では致死率が2倍以上になるという統計分析もある。車両に乗る自覚、そして自らの命とともに歩行者の安全を守る意識を高めるためにも普及を図りたい。

 さらなる懸念は、街中で増える立ち乗り式の電動キックボードだ。7月1日以降、最高速度が20キロを超えない車体は「自転車並み」の扱いになる。6キロ以下に制御していることが車体のランプ表示などで視認できれば歩道も例外的に走れる。

 電動キックボードが絡む事故は昨年までの3年間に全国で74件。昨年9月には、酒に酔って運転した男性が転倒して死亡している。一方、昨年末まで1年4カ月間の指導取り締まり状況をみると、現行法では通行禁止の歩道を走るなどの通行区分違反が4割超と最多だった。

 自転車もキックボードも車道の危うさを避けようと歩道に入り、歩行者を危険にさらす姿が浮かぶ。高齢者の移動支援や荷物の宅配を担うロボットも、近く歩道を走り始める。この状況を改善するには、自転車道の確保を加速しなければならない。

 国土交通省によると、計画に基づき整備できた自転車の通行空間は全国で総延長3600キロ程度と、予定の5分の1にとどまる。ニューヨークは東京23区(約430キロ)の5倍、パリは2倍と明らかに進んでいる。

 日本はクルマ優先で道路整備を進めた結果、都心では自転車道の確保が難しくなっている。自治体は危険度が高い地域を調べ、通行帯の整備を順次進める必要がある。自動車の通行制限や沿道の無電柱化など、まちづくり全体の中で自転車が走る空間を生みだしてほしい。

 脱炭素社会への重要課題でもある。政府は新たな交通体系の大きな絵図を描き直す時だ。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません