(社説)中国反スパイ法 不透明さが過ぎないか

[PR]

 企業の駐在員にとって任地国の情報を収集するのは基本的な業務である。では、いかなる行為が法に触れるのか。自分も突然拘束されないか。そんな疑問や不安が広がるのは当然だ。

 北京に駐在する日本企業社員が中国の反スパイ法違反などの容疑で拘束された。アステラス製薬の現地法人幹部で、約20年に及ぶ中国勤務で顔も広い人物だっただけに、現地の日本人社会に強い衝撃を与えた。

 中国外務省は「スパイ活動に従事した疑いがある」と明言したが、容疑事実など具体的な情報は明らかにされていない。中国当局には、公正な法手続きにのっとり、日本大使館員との面会を早急に実現させるなど、人権にも十分に配慮した対応を求めたい。

 中国の反スパイ法は、2014年に施行された。経済発展を最優先してきた過去の政権から、国家安全を重視する習近平(シーチンピン)政権への姿勢転換を象徴する法律の一つといえる。以来、スパイ行為に関わったなどとして拘束された日本人は、今回を含め計17人にのぼるという。

 中国外務省は「日本側は自国民への教育と注意喚起を強めるべきだ」というが、問題はこの法律の規定があいまいな上、適用の仕方も不透明なことだ。

 スパイ活動を禁じる法律は中国以外にもある。通常想定されるスパイ活動は、外国の国家機関による組織的な情報収集であり、中国の反スパイ法もその定義に基づいてはいる。だが条文に「その他のスパイ活動」との項目もあり、拡大解釈される余地があるとの懸念が施行当初から指摘されてきた。

 今回拘束された社員は中国の中央・地方政府や研究機関、国有企業と様々な交流をしてきたはずだ。そこでのやりとりが疑われたのか。あるいは取り締まりの対象となった中国人がいて、その関係者とみなされたのか。真相は不明だ。

 状況が不透明なだけに現地の日本企業社員の萎縮は避けられず、各企業の本社側でも中国リスクを意識せざるをえない。ひいては日中関係全般に冷や水を浴びせることになろう。コロナ禍が落ち着き、人の交流が徐々に再開している折、なおさら影響は無視できない。日中両政府は解決に向けて十分な意思疎通を図ってほしい。

 中国が公的機関の秘密を法律で守ること自体は必要だとしても、違反行為の類型は詳しく示される必要がある。政府と企業の付き合い方のルールも明示すべきではないか。景気を上向かせるため外資誘致に取り組むべき時に、外国企業が警戒感を強める事態は、中国にとっても大きなマイナスになる。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

連載社説

この連載の一覧を見る