(社説)高市元総務相 大臣の資質が問われる

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 新年度予算が成立し、国会は後半に入った。防衛費の増額や原発の運転期間の延長、少子化対策など、議論すべき課題は山積しているが、うやむやに終わらせてはならないことがある。

 放送法の政治的公平をめぐる解釈の変更問題だ。安倍政権下で首相補佐官総務省に執拗(しつよう)に迫った様子を記した行政文書が明らかになり、野党が予算委員会などで追及を続けたが、経緯の解明は不十分なままだ。

 首相官邸が関与していたにもかかわらず、岸田首相は総務省に丸投げし、ひとごとを決め込んだ。当時、総務相として従来の見解と異なる国会答弁をした高市早苗経済安全保障担当相が、文書を「捏造(ねつぞう)」と断じ、本物なら議員辞職すると表明したことで、高市氏の問題に焦点があたったことも影響した。

 高市氏は一時、「言葉がきつすぎる」といって、捏造という表現を控える考えを示したが、すぐにまた捏造と繰り返すようになった。総務省の調査で「あった可能性が高い」とされた大臣へのレク(説明)も、なかったと主張し続けている。

 レクの結果をまとめた文書には、日時、場所、出席者も具体的に記載されている。高市氏に内容の確認はしておらず、本意でない要約になっている可能性は否定できないが、レクそのものがなかったという言い分には無理がある。

 総務省は内容の正確性は確認できなかったというが、その大きな理由は、8年前のことで関係者の記憶がないとされる点にある。それを、捏造だと言い張ることが、公文書や行政そのものに対する国民の信頼をいかに失墜させるか、高市氏にはわからないのだろうか。

 政治主導が強まり、政策決定過程を検証するうえで、政治家の言動を記録することの重要性が増しているというのに、官僚の萎縮を招く恐れもある。

 質問を重ねる野党議員に、高市氏が「私の答弁が信用できないなら、もう質問しないでください」と言い放つ場面もあった。予算委員長から異例の注意を受けて撤回したが、国会に対して説明責任を負う閣僚の自覚を欠く発言というほかない。

 一方、総務省の内部文書を入手し、問題を明らかにした立憲民主党の小西洋之参院議員にも苦言を呈したい。

 憲法審査会の運営を揶揄(やゆ)し、それを伝えたフジテレビの報道姿勢を過去にさかのぼって批判、放送法に抵触しているなどと主張したことだ。放送に対する露骨な介入ととられ、自らの政治姿勢に対する信頼も損ないかねない。人々の関心が解釈変更問題からそらされるのは、本意でないはずだ。

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