【動画】銚子電鉄に乗って沿線を巡ってみた。=白井政行、山本晋撮影
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 【若松真平】銚子電鉄(千葉県銚子市)が自主再建を断念――。2月初め、こんなニュースが流れました。発生から2年となる東日本大震災が理由の一つといいます。しかし、被災地が東北だけではないと頭でわかっていても、震災と銚子電鉄の関係がピンときません。そこで、長さ6・4キロの電車に乗って沿線を巡ってみました。いたるところに震災の「傷痕」が残っていることに気づかされました。

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 銚子駅の東隣にある仲ノ町駅。駅舎の左右がしょうゆ工場に囲まれていて、駅に降り立つとほんのりと甘い香りがする。

 平屋建ての駅舎の隣に、さびたトタンで覆われた建物がくっついている。入り口には「銚子電気鉄道株式会社」の看板。扉には「仲ノ町駅売店入口 お気軽にお入りください」と張り紙があった。

 中に入ると経理課長の飯田康之さん(42)が出迎えてくれた。「見苦しい建物で恐縮です。こちらが本社です。ぬれ煎餅(せんべい)の売店も兼ねています」

 天井は低く、歴史を感じさせる木の梁(はり)は黒光りしている。奥の方にはぬれ煎餅の入った段ボール箱が見えた。

 「鉄道会社ではなく、ぬれ煎餅の会社と、よく言われます」と飯田さん。2011年度の収支を見せてもらった。収入をみると、鉄道が約8500万円なのに対し、「ほぼ、ぬれ煎餅の売り上げ」という副業が3億4200万円。赤字続きの鉄道を、ぬれ煎餅の売り上げで支えていた。

 なぜ、自主再建を断念し、市などに財政的な支援を仰ぐことにしたのですか?

 「震災の影響で観光のお客さんが減りました。お客さんが減ると、ぬれ煎餅が売れなくなります。13年度、14年度に車両更新があるんですが、それをまかなうめどが立たなかったんです」

 利用客は10年度の約62万人から、11年度は約48万人に。12年度も前年並みの見込みだ。

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 銚子電鉄を一躍有名にした出来事について尋ねた。

 「7年前のホームページの書き込みですね」

 06年、利用客が低迷するなか当時の社長による横領事件が発覚。年末の車両検査費用のめどがたたず、運行中止の寸前まで行った。社員がホームページに書き込んだメッセージが事態を変えた。

 「電車運行維持のためにぬれ煎餅を買ってください」「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」

 ネット掲示板やブログなどで話題となって全国から注文が殺到。検査費をまかなえた。

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 震災による乗客減に苦しむ今回。支援の輪は、06年ほど広がらなかった。

 「震災で大きな被害を受けた三陸鉄道や被災した方のことを考えると、ホームページで助けてくださいと訴えることはできませんでした」

 利用客が減って煎餅が売れないのであれば、販路を広げるしかない。大手百貨店などでも売るようになったが、経費がかかるため利益は目減りした。自主再建への道は遠かった。

 「これまで、ほぼ自力で踏ん張ってきた姿を多くの市民や鉄道ファンが応援してくれていたと思います。『行政に助けてもらうなら、もう応援しなくていいや』って思われることが心配です」

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 記者が訪れたのは2月下旬。外川駅から銚子駅まで、端から端へと6・4キロ乗車した。

 外川駅16時36分発。乗客は10人ほど。かつて地下鉄の銀座線で使われていた年季の入った車両には、銀座線の停車駅がそのまま貼られている。窓にはぬれ煎餅の価格表もある。

 10駅中5駅が無人駅。途中乗り降りするのは、地元の人とみられるお年寄りが中心だ。従業員と親しく話をする乗客もなく、車内改札も淡々としていた。

 観光列車をイメージして乗り込んだが、設備も対応もそういった感じはしなかった。かといって、地元の足として地域に密着しているかといえば、そうでもなさそうだ。

 銚子市の観光プロデューサーを務める向後功作さん(50)は、2010年まで銚子電鉄の社員だった。立場上、あえて厳しい言葉でこう話す。

 「鉄道事業をどうするかという根本的な部分が解決できなかった。これからは地元に密着したイベントや話題づくりが必要ではないでしょうか」