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 前回は頚髄(けいずい)損傷の原因についてお伝えしま 前回は頚髄(けいずい)損傷の治療と社会復帰についてお話ししました。今回は脊髄(せきずい)損傷に対する最新の研究や臨床試験について紹介します。

 頚髄も含めた脊髄は一度強く損傷を受けると再生することは困難です。京都大学の山中伸弥教授によるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の発見は、脳や脊髄、そのほかの臓器の再生への新しい扉を開ける可能性があります。そのため、全世界で再生医療への関心が大いに高まっています。

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 脊髄損傷後早い段階の急性期の治療として、わが国で公的医療保険が認められているのは副腎ステロイドの投与だけです。

 これは、脊髄損傷後に起こる炎症を抑える目的の治療法です。しかし、効果については賛否があります。最新のアメリカ脊髄損傷協会のガイドラインでは、副作用を考慮してステロイド使用を推奨していません。

 一度傷ついた神経組織は再生しませんので、ステロイドに代わる脊髄損傷急性期治療薬の研究や臨床試験が行われています。日本では、顆粒(かりゅう)球コロニー刺激因子(G―CSF)や肝細胞増殖因子(HGF)が注目されています。

 再生医療研究に大きな衝撃を与えたのが幹細胞の発見です。

 1999年、骨髄にある幹細胞には様々な細胞に分化する幹細胞があることが発見されました。現在、骨髄から採取された間葉系幹細胞を脊髄損傷患者に投与する臨床試験が行われています。

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 人工的に幹細胞を作る研究も進められ、98年にES細胞(胚(はい)性幹細胞)の作製が発表されました。これは、ヒトの受精卵から作られ、どのような細胞にも分化できるので、万能細胞と呼ばれます。ES細胞から腫瘍(しゅよう)になりにくい神経幹細胞を作り、人為的に脊髄を損傷させたマウスに移植したところ、運動機能が回復したことが報告されています。

 しかし、ES細胞は受精卵から作製するため、倫理的な問題があります。その問題を解決できる可能性があるのがiPS細胞です。患者自身の細胞から作製できるので、倫理的な問題や免疫拒絶も回避できます。

 実際にマウスや霊長類のマーモセットの脊髄損傷に対して、iPS細胞をもとに作った神経幹細胞(どのような神経組織にもなれる幹細胞)を移植する方法の有効性が報告されています。

 しかし、iPS細胞は万能細胞であることから腫瘍化のリスクが懸念されており、安全性の確立が求められています。

 弘前大学でも2014年8月に脊髄損傷への臨床応用に向けた基礎研究がスタートしました。

 細胞移植だけでなく、リハビリテーションの実践と継続も重要と考えられています。

 細胞や移植組織が生着しただけで、情報伝達の役割を担っている神経系の機能がただちに修復、再生するわけではなく、長期間にわたるリハビリテーションによって新たな神経回路がつながり、手足が動くようになると考えられているからです。

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 映画『スーパーマン』の主役として知られたクリストファー・リーブ(2004年に52歳で死去)は、95年の落馬事故で首から下が動かなくなって以来、講演や脊髄研究のための資金募金活動を精力的に続け、自ら臨床試験に参加したり、リハビリテーションを続けたりしながら、医療研究を精力的に支援しました。

 彼は次のような言葉を残しています。

 「自分は、実際、楽観主義者である。私の傷ついた脊髄から下の脊髄は健在のはずでいつでも動き出す準備は整っている。自分は残された人生を今のままの状態で過ごすつもりはない」

 また歩きたい。その思いを実現するのは最新の科学だと信じています。

 (弘前大学大学院医学研究科整形外科学講座助教 熊谷玄太郎)

<アピタル:弘前大学企画・骨と関節の病気 予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/

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