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 スキー場のコース外で起きた事故の救助費用は、スキーヤーの自己負担。

 長野県内のスキー場などでは、こうした独自のルールが定められているのをご存じですか? 例えば、良質の粉雪で全国からスキーヤーが訪れる長野県野沢温泉村では、条例で救助費用の自己負担を定め、最高で30万円を請求した例があります。いまやスキーは登山以上に、自己責任が求められる厳しい状況になっています。

 冬のアウトドアスポーツの代表は、スキーやスノーボードです。最近は、ゲレンデではなく、雪山の大自然を楽しむ「バックカントリー」が人気を集めています。しかし、スキー場と違って管理されていない自然が相手であり、天候急変などで危険度は増し、遭難事故も相次いでいます。自治体やスキー場は事故防止策を打ち出していますが、登山と同様にスキーヤーやスノーボーダーの自覚がかぎといえそうです。

 1月12日午後、長野、福島両県のスキー場付近で、外国人客が相次いで遭難しました。両県警によると、フィンランド人とオーストラリア人計12人が一時戻りませんでしたが、福島で遭難したオーストラリア人の男女6人は夜になって保護されました。

 同日午後2時半ごろ、長野県野沢温泉村豊郷の野沢温泉スキー場から「客の6人がコース外滑走をして身動きが取れなくなった」と飯山署に届けがありました。長野県警のヘリが、山林の斜面にいる6人を発見し、無事を確認。署によると、いずれもフィンランド人男性で、別の場所にいた友人に電話で「急な斜面を下って引き返せなくなった」と説明したとのこと。長野県警は13日朝、山林にいた6人をヘリでつり上げて救助しました。

 県警による救助は無料ですが、野沢温泉スキー場の場合、パトロール隊による救助は自己負担となります。今季も昨シーズン同様に、スキー場関係者はコース外滑走の遭難を心配しています。

 北アルプスは八方尾根や遠見尾根などバックカントリーに適したルートが多く、起点がスキー場となることが多いです。昨年1月16日、北アルプスの遠見尾根のスキー場からバックカントリーのために入山した早稲田大山岳部OB3人のパーティーが行方不明になりました。長野県警はヘリコプターによる救助活動を続けましたが、捜索は困難を極めました。結局、6月になって3人は雪に埋まった状態で見つかり、死亡が確認されました。雪山は雪崩や低体温症などの危険があり、ベテラン登山家のパーティーが3人とも死亡する痛ましい結果となりました。

 最近、バックカントリーの遭難事故で目立つのが、広大なゲレンデでコース外の樹林帯などスキー場が立ち入りを規制している管理区域外での事故です。元々スキー場から離れた場所を指すバックカントリーに対して、こちらはコースとコースの間などゲレンデ区域内なので、「サイドカントリー」と呼ぶことが多いようです。

 バックカントリーは本来、ゲレンデのように圧雪されていない天然の斜面を滑る行為で、雪山登山の一つのジャンルとして「山スキー」と呼ばれてきました。しかし、現在はスキー板の改良で、一般スキーヤーも楽しめるようになってきました。

 以前は、新雪の斜面を滑るには、特殊な技術が必要でした。しかし、現在のように幅広のスキー板だと、経験が浅くても手軽に滑ることができます。手つかずの良質なパウダースノーを求めて、長野県野沢温泉村や白馬村のスキー場ではシーズン中、長期滞在する外国人観光客が目立っています。こんな状況を受け、最近は外国人スキーヤーのコース外事故も増えています。

 昨年1月18日、長野県山ノ内町のスキー場「竜王スキーパーク」で、アルゼンチンの男性スキー客2人(ともに50代)が、雪崩に巻き込まれて死亡しました。長野県警中野署によると、2人は標高1700メートル付近の上級者コースから外れた区域を滑走した後、ロープウェーの支柱近くの斜面で雪崩に巻き込まれたと見られます。

 外国人スキーヤーが多い長野県北部の野沢温泉村の「野沢温泉スキー場」はゴンドラ2基、リフト21基、36コースの広大なゲレンデで知られています。その分、ゲレンデといえども整備されていないコース外は雪崩や沢に迷い込む危険があります。そこで、野沢温泉村は2010年に「村スキー場安全条例」を制定しました。スキー場でのルールを明確にし、コース外での遭難者の救助費用を自己負担にしました。無料で配る日本語と英語のコース地図に条例を明記しているほか、パトロール隊員たちもスキーヤーらに注意を呼びかけています。

 こんな状況について調べようと、昨年2月3日、野沢温泉スキー場へ現地取材に行きました。スキー場の最上部、毛無山(1650メートル)の山頂付近に向かうリフトから目撃した光景には、言葉も出ませんでした。コース外の林で新雪の斜面をスキーヤーやスノーボーダーたちが次々降りてきました。吹雪で視界が悪く、「大丈夫太だろうか」と心配になりました。

 リフト終点から約50メートルのコース脇には、赤いロープが張られ、「ゲレンデ外で遭難多発?」と書かれた看板が設置されていました。近くにスキー場の管理区域外(コース外)を示す看板も並んでいました。竹竿を×印に組み、立ち入り禁止を訴えているのに、コース外への踏み跡がありました。踏み跡をたどり、樹林帯に入る2人組のスノーボーダーを見ました。

 野沢温泉村と同様の取り組みは、長野県内の他の自治体でも行っています。白馬八方尾根など村内に5カ所のスキー場がある白馬村は、「白馬ルール」を設けました。立ち入り禁止区域の滑走を禁止し、パトロール隊の指示に従うことを求め、違反者にはリフト券の没収や救助費用を請求することにしています。

 これまで説明したように、ゲレンデでもコース外では死亡事故も起き、単独滑走で骨折して動けなくなれば、低体温症の危険もあります。登山以上に、より慎重な行動が求められるレジャーといえます。また、コース内滑走でもトレーニング不足だと転倒して骨折するなどの事故も起きます。都会に住む人たちは電車に乗る場合、ひと駅手前で降りて歩くなどふだんからなるべく体を動かすよう心掛けてスキー場に来てほしいと思います。

<アピタル:近藤幸夫の山へ行こう・健康と安全>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/climb/(近藤幸夫)

近藤幸夫

近藤幸夫(こんどう・ゆきお) 朝日新聞山岳専門記者

1959年。岐阜市生まれ。信州大学農学部卒。86年、朝日新聞入社。初任地の富山支局で、北アルプスを中心に山岳取材をスタート。88年から運動部(現スポーツ部)に配属され、南極や北極、ヒマラヤで海外取材を多数経験。2012年から日本登山医学会の認定山岳医講習会の講師を務める。現松本支局長兼山岳専門記者。