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 まずは、問題です。糖尿病には様々な合併症がありますが、その代表的な合併症である糖尿病網膜症患者1人当たりの入院医療費(年間)は、およそいくらぐらいでしょうか(全額自己負担の場合)。

 ①約36万円

 ②約47万円

 ③約69万円

 今回は、糖尿病の費用について考えましょう。そこには、これまでの記事で取り上げてきた胃がん、脳出血、急性心筋梗塞と比べて、より特徴的な面が2つあります。それは、治療期間が非常に長期にわたる可能性が高いこと、そして、合併症の費用負担も生じる可能性が高いことです。その結果、より多くの費用が必要となる可能性が高いのです。

 では、まず、糖尿病という病気の特徴を簡単に確認しましょう。糖尿病は、すい臓で作られるインスリンというホルモンの不足や不十分な作用により、血液中のブドウ糖が細胞に適切に取り込まれなくなり、高血糖状態が続くという病気です。慢性的な高血糖は、全身にさまざまな悪影響を及ぼします。たとえば、尿の量が多くなったり、のどが渇きやすくなったり、体重が減ったり、疲れやすくなるという症状が出てきます。また、合併症を生じることも珍しくありません。代表的な合併症は、糖尿病網膜症、糖尿病神経障害、糖尿病腎症などです。また、糖尿病が危険因子となり、脂質異常症や高血圧といった危険因子と絡み合って動脈硬化が進行し、脳卒中や心筋梗塞などの発症につながっていきます。このように、糖尿病はさまざまな病気と関連性の高い病気といえます。また、治療は、食事療法、運動療法、薬物療法が中心となりますが、合併症の出現や進行を抑えるためにも、多くのケースにおいて一生涯必要になります。

 糖尿病の医療費に関しては、一生涯付き合っていかなければならない病気という特性上、かなりの高額になることが予想できるでしょう。ただ、症状の程度や進行度、年齢、薬物治療の必要性、合併症の有無などによって、大きく異なります。そこで今回は、合併症の数だけに焦点を当て、糖尿病の発症後の経緯の一例をあげて、その費用を試算したいと思います。

 <例>

 60歳で糖尿病発症(合併症なし)

 →60歳から66歳まで合併症なし(7年間)

 →67歳から69歳まで合併症1つ(3年間)

 →70歳から72歳まで合併症2つ(3年間)

 →73歳から75歳まで合併症3つ(3年間)

 →76歳から78歳まで合併症4つ(3年間)

 合併症の数や種類別の糖尿病医療費に関しては、医療経済研究機構の「政府管掌健康保険における医療費等に関する調査研究報告書」(平成17年3月)のデータを利用しましょう。少し前のデータとはいえ、医療費を考える上で目安になると思います。

 グラフに示す医療経済研究機構の医療費データを使って、<例>の場合の直接医療費(全額自己負担の場合)を計算すると、次のようになります。

 60歳から66歳までの医療費=24万6590円×7年間=172万6130円

 67歳から69歳までの医療費=29万5290円×3年間=88万5600円

 70歳から72歳までの医療費=45万6130円×3年間=136万8390円

 73歳から75歳までの医療費=49万1350円×3年間=147万4050円

 76歳から78歳までの医療費=60万5260円×3年間=181万5780円

 これらの額を合計すると、約726万円となります。なお、この直接医療費の算出に当たっては入院を伴わない医療費データを含んでいるため、もし入院が必要となれば、合併症によってはもっと多額の医療費が必要になると考えられます。ちなみに、糖尿病網膜症を合併する患者1人当たりの入院医療費(年間)は約47万円、糖尿病神経障害の場合は約30万円、糖尿病腎症の場合は約36万円です(いずれも、全額自己負担の場合)。

 病気になれば、直接医療費(病気の診断や治療のための費用)以外に、直接非医療費(交通費などの費用)、間接医療費(収入の減少などの費用)がかかるという話を以前しました。糖尿病は、非常に長期にわたる通院が必要な病気であり、食事療法、運動療法、薬物療法を続けることになるため、直接非医療費も間接医療費も相当な額になるでしょう。糖尿病の直接非医療費は、一人一ヶ月あたり、9200円から14200円程度という研究報告もあります。この費用が10年間も必要となれば、約110万円から約170万円もの経済的負担となります。間接医療費も相当な額になることは容易に想像できます。

 今回試算した糖尿病の費用は、あくまで目安額であり、個々のケースによって違いもあります。しかし、糖尿病にならないように気を付けることはもちろん、合併症が起こるなど病状悪化とならないように注意することは、健康のためだけでなく経済的な負担の軽減のためにも大切だといえるでしょう。

 (問題の正解;②)

▼参考資料

・2型糖尿病における直接非医療費の研究, 糖尿病49(8), p.679-684, 2006.

・政府管掌健康保険における医療費等に関する調査研究報告書, 平成17年3月, 医療経済研究機構

<アピタル:健康にまつわるお金の話・医療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/money/(アピタル・古川雅一)

アピタル・古川雅一

アピタル・古川雅一(ふるかわ・まさかず) 東京大学大学院特任准教授

東京大学大学院特任准教授、京都府立医科大学非常勤講師。京都大学大学院経済学研究科修了後、京都大学経済研究所、立教大学ビジネスデザイン研究科を経て現職。専門は、医療経済学、行動経済学。博士(経済学)。テレビ、ラジオ、講演を通じて時事問題や学術研究の解説に努めている。主な著書「ねじれ脳の行動経済学」他。