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 ナオコさん(49歳・会社員)たちの世代にとって、親の介護はとても身近な問題です。親の介護をまぬがれる、あるいは先延ばしにする唯一の方法は、親世代の高齢者自身が健康に気をつけて、なるべく介護を受ける状態にならないようにしてもらうことに尽きます。ただ、予防のために利用できるサービスはあるのでしょうか。

 ナオコさんも40代後半になってから、「親の介護をしている」という友人や知人が多くなりました。週末になると実家に帰省して親の面倒をみている人もいれば、子どもの手が離れたので親と同居して介護を始めた人もいます。介護保険サービスを利用しても、家族の肉体的、精神的、経済的な負担は逃れられないのが現実です。介護と仕事の両立も深刻で、つい先日もナオコさんの会社の同僚が親の介護のために退職しました。「政府は"介護離職ゼロ"の方針を掲げたけど、施設に入れるのも費用がかかるし、そもそも施設が足りないし、家族介護の負担が減らせるとは思えないわ……」とナオコさんはため息をつきました。

 ナオコさんと夫のマサオさん(53歳)の親は幸いなことに4人とも健在です。マサオさんの親である義父は脳梗塞の後遺症で介護が必要な状態で、義母が一人で面倒をみています。ナオコさんの両親は年老いてきたものの、大病もせず何とか自分たちで暮らしてくれています。今のところ、介護とほぼ無縁の生活を送っていますが、4人の親は80歳前後となり、明日誰かが病で倒れてもおかしくありません。ナオコさんは、自分も親の介護と背中合わせの状態に置かれていることを、あらためて自覚したのでした。

 「うーん、私が介護をできる限りまぬがれる、先延ばしにする方法はたった一つ。それは親に健康で長生きしてもらうことしかないわ。どんな手立てがあるのかしら……」

 近年、「健康寿命」という言葉があちこちで聞かれるようになりました。健康寿命とは、WHO(世界保健機関)が提唱し始めた概念で「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことです。2013年の日本人の健康寿命は男性が71.19歳、女性が74.21歳でした。

 一方、健康寿命と平均寿命の差をみると男性が9.02年、女性が12.40年です。この期間は体にいろいろな問題が出てきて介護などを必要とする「健康とはいえない期間」を意味します。つまり、これらの数字からいえることは、単に長生きするだけでなく、健康でない状態で過ごす期間をできるだけ短くし、健康寿命をどれだけ延ばせるかということです。

 「日本女性は長生きでいいなんて思っていたけど、まさか男性より4年近くも要介護状態が長いなんて……。健康寿命を延ばすためには、どんなことをすればいいのかしら」とナオコさんは、はたと考え込んでしまいました。

 厚生労働省の国民生活基礎調査によると、高齢者が要支援や要介護の状態になる原因の第1位は「運動器の障害」であることがわかっています。「老化は足から」とよくいわれるように、骨や関節、筋肉、神経など「運動器」と呼ばれる器官は確実におとろえていきます。そして、自動車でいえばエンジンやタイヤの役割をはたす運動器に障害をきたすと、だんだん動けなくなり、体も弱って介護が必要になってくるというわけです。このような状況に陥らないためには筋トレを中心とした運動に励み、足腰を鍛えることが大切になってきます。

 ナオコさんは、高齢者における運動の重要性は理解できたものの、一抹の不安があります。というのも、ナオコさんの母親は数年前から右膝を痛め、歩くときも足をひきずっているような状態だったからです。「運動させて悪化したら元も子もないわ」とナオコさんは思うのですが、このまま動かないでいると足腰は弱る一方です。どうしたらいいのでしょう。

 高齢者が安全になおかつ効果的に運動するには専門家の指導のもとで行うのが安心です。なかでもナオコさんの母親のように運動器の障害をすでに抱えている高齢者は、医師のアドバイスをきちんと受けたいもの。日本整形外科学会が公認する「ロコモ チャレンジ!推進協議会」では、運動器の障害のために立ったり歩いたりする機能が低下した状態(ロコモティブシンドローム:運動器症候群)の知識に詳しく、ロコモ予防の啓発活動に取り組んでいる整形外科専門医を「ロコモアドバイスドクター」として登録し、ホームページで検索できるようにしています。こうした医師に相談するのも1つの解決策になります。

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解決策①

 高齢者が安全に効果的に運動するには専門家の指導のもとで行うのが安心。日本整形外科学会公認の「ロコモ チャレンジ!推進協議会」のホームページでは、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の知識にくわしい整形外科専門医を検索できる。

●日本整形外科学会公認ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「ロコモチャレンジ!/ロコモアドバイスドクター検索」

https://locomo-joa.jp/supporter/別ウインドウで開きます

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 ナオコさんはさっそく関西に住んでいる母親に電話をかけ、医師のアドバイスを受けたうえで運動を始めるようにすすめました。すると、母親は「私だって動いたほうがいいことくらいわかっているわよ」と反論してきました。聞けば、テレビ番組などで運動が紹介されるたびに取り組んでいるようですが、どうも長続きしないようです。「やっぱり運動教室に行かなくちゃ続けられないねえ……」。それは、身に覚えのあるナオコさんも同感です。

 かといって母親は、若い人が大勢通っているフィットネスクラブやトレーニングジムを利用するのは気がひけるといいます。「だいたい費用が高いでしょ。介護が必要になったとき、あなたたちに迷惑をかけないように年金も貯めておかないとね」と母親。(いやいや、お母さん、介護状態にならないように今、運動するのでしょう。これは先行投資よ)とナオコさんはいいたかったけれど、将来に不安を感じて費用を惜しむ母の気持ちもわかります。

 年金暮らしの高齢者が日常的に利用できて費用のかからない運動教室を探したいときは、住んでいる自治体の担当窓口(介護保険課介護予防係など)もしくは地域包括支援センターに問い合せてみましょう。2006年、介護保険法の改正に伴い、高齢者が地域で自立した生活を長く続けられるよう介護予防や生活支援サービスの提供を目的に「地域支援事業」が創設されました。このメニューの1つとして多くの自治体では無料の運動教室を開催しているので、利用したいもの。近年は、地域ぐるみの活動が推進されるようになり、自治会単位で住民が中心となって運営されている運動教室もみかけるようになりました。

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解決策②

 高齢者が日常的に利用できて費用のかからない運動教室を探したいときは、住んでいる自治体の担当窓口(介護保険課介護予防係など)もしくは地域包括支援センターに問い合わせ、地域支援事業で行われている運動教室を教えてもらおう。

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 また、介護保険の要介護認定で「要支援」の判定になったときは、運動型デイサービスが利用できます。週1~2回、トレーニングマシンなどを使った筋トレを中心に、理学療法士などによる運動指導が行われています。この場合、介護保険が適用されるため、利用料の1~2割負担で済み、1割負担の場合1カ月の自己負担額は要支援1で約2500円、要支援2で約5000円です。ナオコさんの母親のように、すでに運動器に障害があり、日常生活に支障を来している場合は要支援に認定される可能性があります。地域包括支援センターの医療ソーシャルワーカーや看護師に一度、相談してみるのもよいでしょう。

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解決策③

 介護保険の要介護認定で「要支援」に認定されると運動型デイサービスが利用できる。介護保険が適用されるため、利用料の1~2割負担で済む。運動器に障害があり、日常生活に支障を来している場合は、地域包括支援センターの医療ソーシャルワーカーや看護師に一度、相談してみるのもよい。

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 「介護予防サービスねえ……。今まで全然知らなかったけど、高齢者の健康や自立を支えるサービスなら、もっとかしこく利用しなくちゃ」とナオコさんは思いました。そうなのです。介護予防サービスのメニューは、じつは運動だけではありません。次週は運動以外のサービスについてくわしくご案内します。

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アピタル編集部より

 この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

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http://www.asahi.com/apital/healthguide/tamatebako/(アピタル・渡辺千鶴)

アピタル・渡辺千鶴

アピタル・渡辺千鶴(わたなべ・ちづる) 医療ライター

愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランス。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、総合女性誌『家庭画報』の医学ページで「がん医療を支える人々」を連載中。

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