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河野さんの歌にふれ受診

 東京都町田市の歌人、岡部史(ふみ)さん(64)は2009年3月、所属する短歌結社「塔」の選者、河野裕子(かわのゆうこ)さんの歌集にある一つの作品が目にとまった。

 《日向にはふふつと椿咲き初(そ)めて癌は誰にも他人事ならず》

 上の句ではツバキのおおらかな様子を詠んでいるが、下の句で一転、「あなた、がんをひとごとと思っていていいの」と語りかけ、その落差が読者を不安にさせる。

 「宮中歌会始」の選者を務めたこともある河野さんは当時、乳がんを患っていた。闘病ぶりを知っていた岡部さんは、心の奥の何かをつかまれたような気がした。

 半年ほど前から、薄い血が混じったようなおりものが気になっていた。河野さんの歌にふれ、「すぐに病院に行こう」と思った。

 近所の総合病院を4月に受診すると、医師にしかられた。「半年も前から出血を放っておいたんですか。それに、検診も受けてないんですよね」。エコー検査の画像を示され、「子宮がふくらんで、中に水がたまっています。その上部に影があり、がんが疑われます」と告げられた。

 「子宮がんなら手術ですね?」と尋ねると、医師から「転移していれば手術はできません」と言われた。動転した岡部さんには、医師の言葉がまるで死の宣告のように聞こえた。

 「自分はもう、手術不可能なほど進行したがんなのではないか」

 上の空のまま次回の検査日を予約し、病院を出た。気がつくと、初めて訪れる公園の中を歩いていた。桜はすでに散り、散歩する人、遊び回る子どもの姿が目に入った。歌ができた。

 《さやさやと桜若葉の匂(にほ…

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