震災5年 被災地からのメッセージ(4)《スマホで視聴の方はここをクリックして下さい》
[PR]

 「職員のことを『家族以上』と言ってくれるお年寄りがおり、逃げるわけにはいかない。(施設をやめて)職員にハローワークにいきなさいとは言えない」(認知症グループホーム・シニアガーデン経営の鈴木康弘さん、洋子さん、2011年3月22日付「原発9キロ認知症のグループホーム 避難転々 苦難の再出発」)

 福島第一原発で避難を余儀なくされた地域には、大小様々な医療機関や介護施設などがあり、災害弱者が暮らしていました。福島県富岡町にあった認知症グループホームは、職員らが施設の車や職員の車を使って自力で避難をしました。この5年間で、富岡町→川内村→川俣町→福島市→福島市→大玉村→福島市と何度も移動をしてきました。看護師でもある鈴木洋子さんは、震災5年の厳しい現実を動画のインタビューで語っています。

福島県富岡町 グループホーム「シニアガーデン」・鈴木洋子さんからのメッセージ

 あの日から5年が経ちました。

 周りの環境は大きく変化しました。東京電力第一原子力発電所から9キロの距離で介護事業所を経営していた私達は避難指示により現在6カ所目の避難先に介護事業所を新設し富岡町から一緒に避難してきた利用者と職員、避難先で縁のできた利用者と職員で生活しています。「のんびり、ゆったり、その人らしく」。我が社のモットーである認知症高齢者を中心とした家族のような生活が、徐々に取り戻せそうです。

富岡の介護事業所は、震災当時のままです。片づけるゆとりがなく無残に書棚が倒れ物品が散乱した様は虚しいです。人影はなく壊れたままの商店街、緑で生い茂るはずの田畑には黒いビニール袋の山、まだまだ自然あふれた以前の姿を取り戻すまでには時間がかかりそうです。隣の楢葉町は帰町宣言されました。5パーセントの住民が戻り帰町に向けての様々なイベントが企画されています。富岡町も「帰町に向けての意向調査」が実施されました。帰町を希望されている多くは高齢者で、数年後には介護を必要とされる方です。介護事業所の必要性は理解しますが、働き手の若い世代が戻らず、医療機関が整備されない状況では高齢者の命を守る事は出来ません。富岡町の現状を見る限りでは、帰町は難しい選択肢です。

震災後、寂しく感じることは家族関係の変化です。2世代、3世代が一緒に暮らし家族で助け合い子供の世話、認知症の高齢者の世話などお互いに持ちつ持たれつの関係を保っていました。隣近所も顔見知りの家族のような関係で老夫婦世帯や独居の暮らしも周りの人々がお互いに声かけ助け合いなじみの関係で生活していました。しかし、震災後は避難先を転々とする生活となり、家族がバラバラに生活し自分の生活重視の傾向が強くなったように感じます。孤独な老夫婦のみの世帯や独居者が増えました。狭い仮設住宅でのストレスからのDV、不慣れな環境の不安や先行きの見えない不安からの自殺者の増加、また、東京電力からの補償金による環境の変化も大きく、お金の問題は家族のみならず親類や近所の住民を巻き込んだ問題にまで発展しています。

 グループホーム入居者の「原発関連死」の書類作成やそれに関連した裁判書類の作成、親戚間の補償金トラブルの書類作成等、震災がなければ平和なそれなりの家庭生活が補償金により崩壊された多くの事例を見ました。お金はなくては困りますが、一時に大金を手にすれば性格まで変わってしまう恐ろしいもののようです。

 東京電力からの距離により補償金に差が出ました。双葉郡と変わらない温暖な気候の町で生活したいといわき市に多くの双葉郡住民が増え新居を構えたため、いわき市の物価は高騰し地元住民との軋轢が問題となっています。

東日本大震災を体験し福島県の復興に少しでも貢献しようと介護事業所を避難先に新設し「生かされた命、支援して頂いた皆様に少しでも恩返しをしたい」、そのような感謝の気持ちで「何事もやってみなきゃわからない」、物事をポジティブにとらえ前進あるのみの精神で頑張って参りました。小さな株式会社だから、家族のように利用者と職員で避難生活を継続して今日の姿があります。小さな組織でしたので自由な選択肢がありました。しかし、5年が経ち落ち着いて周りを見れば世の中の流れは大きく変化し、政治、経済は何処を向いて進むのか先の見えない状況です。2015年(平成27年)4月に介護報酬が引き下げられました。団塊世代の高齢化問題の中、制度の改正で先行きが不安定な状況です。大企業の法人税は引き下げられ、大企業に有利な政策の影響がただでさえ厳しい介護業界に拍車をかけています。 今、個人の株式会社の私たちは大企業重視の波にのまれることなく、「千年に一度の大震災」に遭遇する事を選ばれた会社としての役割を自覚し今後も邁進したいです。(寄稿)

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

<アピタル:東日本大震災・被災地からのメッセージ>

http://www.asahi.com/apital/special/shinsai/(岩崎賢一)

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)

こんなニュースも