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 「いったん県外で医療活動に就いてしまったら原発事故が終息しても帰って来にくくなる。地域の医療が回復しないと住民の帰還も難しい」(福島県医師会常任理事の星北斗・星総合病院理事長、2012年6月22日付「プロメテウスの罠 病院、奮戦す⑯ つなぎとめる手は」)

 郡山市の中心街にある星総合病院は、震災で建物に大きな被害を受けました。医師会の役員をしていた理事長の星北斗さんは当時、経営する病院のことだけでなく、原発事故に伴い県外流出していく医療従事者に危機感を抱いていました。避難者を診る応急的な医療従事者の確保だけでなく、人が生活していく街には、医療や介護が必要不可欠だからです。震災4年に続き、震災5年も星さんから、全国の方々に伝えたいメッセージをもらいました。

福島県郡山市 星総合病院理事長・星北斗さんからのメッセージ

 震災、原発災害から5年が経過した。まだまだ多くの爪痕が残るふるさとは、それでも確実に前に進もうとしている。子どもたちの頸部には何度もエコーが当てられ、小児甲状腺への放射性物質の影響の有無や発見された癌(がん)のことだけが取り沙汰され報道されるが、福島の抱えている健康問題はそれだけではない。

拡大する写真・図版震災で病棟を結ぶ渡り廊下が崩壊した旧病院=星総合病院提供

 医療従事者の不足は震災前から深刻で、5年前のあの日を境に更に急速にその度合いを高め、本県医療の前に立ちはだかっている。それでも、震災を経験した看護学生などは、県内出身者を中心に自分の役割を見いだし、都会ではなく地元に目を向ける傾向が高まるなど、使命感や責任感を示す嬉(うれ)しい出来事にも出会える。

 今もなお避難生活を余儀なくされている多くの方がおり、地元への帰還を目指すと言いながらなかなかそれが進まない中で、重要な社会インフラである医療が帰還の促進に果たす役割は大きいことが理解されてはいるものの、これも思うように整備が進まない。しかし、自らも避難を余儀なくされた医師をはじめとした医療従事者が、避難者とともに地域住民と地域そのものの繋がりを支え続けている姿は同僚である我々の誇りである。

拡大する写真・図版震災直後の旧病院の院内=星総合病院提供

 成人病の危険を示すあらゆる指標や、成人病そのものの数値も際立って高い我が県にあって、政府の目標でもある健康寿命の伸長との闘いは困難に満ちている。放射線との闘いを各種検診の受診率を向上させるとか、食生活や生活習慣を改善していくといった県民健康運動に繋げていけないものか、自分や家族、地域の健康全体を捉え、その実現を目指しての意識改革が必要だし、それを促すような政策が不可欠だと震災直後から何度も訴えてきた。5年を経て、ようやくそんな議論が進められようとしていることは、放射線問題から目を逸らすためではなくて、放射線の健康影響をきちんと評価することにも繋がるものであると思っている。

 折しも地域医療構想が取りまとめられる年であり、それぞれの地域が医療の在り方を考えて行くプロセスのスタート地点に立っているとも言える。医療を提供する側からの発想ではなく、患者さんとその地域全体を捉えた上での医療の改革が始まろうとしている。在宅への移行や地域包括ケア、といったスローガンだけでは、避難を余儀なくされているところを含め、地域の機能が壊れたり弱まったりしている現在の我が県での医療の改革がより困難なものになることには疑う余地がない。しかしながら、地域に残り、地元に戻り、あるいは新たにこの地域での医療に取り組もうとしている同僚たちの目の輝きを見るにつけ、絶対的な数の不足や様々な困難を乗り超えて、奇跡が起きる予感がするのは私だけではないだろう。

拡大する写真・図版震災後、野外で被災者らの診療を始めた=星総合病院提供

 福島は、未来に向け動き始めている。不幸な災害であることに間違いはないし、その責任の所在も対処の仕方も不確かなままではあるけれど、地域の生活はそれとは無関係に営まれなければならない。この災禍から立ち直る時、単に元に戻るのではなくてこんな困難を受けた福島だからこそなし得る何かを手に入れられなければ、未来を拓くことにはならない。次世代のためにも、微かな動きを確かなものへと変える努力が求められており、その努力に大きな支援が得られ拡がることを信じている。(寄稿)

▼略歴

星総合病院理事長

 1989年、東邦大学医学部卒業後、旧厚生省入省。秋田県、労働省出向を経て健康政策局勤務。98年退職。同年3月から星総合病院。2000年4月から04年3月まで日本医師会常任理事。05年5月から福島県医師会常任理事。08年12月から財団法人星総合病院理事長。15年4月から福島県医師会副会長。

拡大する写真・図版移転した現在の星総合病院=星総合病院提供

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<アピタル:東日本大震災・被災地からのメッセージ>

http://www.asahi.com/apital/special/shinsai/(岩崎賢一)

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)