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 4月から「かかりつけ薬剤師・薬局」制度が新たにスタートします。公的医療保険から医療機関や調剤薬局に支払われる診療報酬が改定されたためです。糖尿病薬や経口抗がん剤など複数の薬剤を服用しているマサオさん(53歳)には利用価値のある制度のようです。ナオコさん(49歳・会社員)は、かかりつけ薬剤師がどのようなサポートをしてくれるのかを知りたいと思いました。

 「かかりつけ薬剤師といえば、数日前にこんなことがあったぞ」と、マサオさんはあることを思い出しました。持病の糖尿病の診察を受け、処方された薬をもらいに会社近くの保険薬局に立ち寄ったときの出来事です。

 「これから〇〇様を担当させていただく薬剤師の△△と申します」

 応対してくれた薬剤師が自分の名前を名乗ったのです。マサオさんがその保険薬局をよく利用するようになってから数年が経ちますが、こんなことは初めてです。

 「うーん、これからあの薬剤師さんがオレのかかりつけになるのか? 患者が薬剤師を選ぶことはできないのかな……」

 2016年度の診療報酬改定において注目度の高い「かかりつけ薬剤師・薬局」の新制度は、医薬分業制度(※)を見直す中で考えられたものです。現在、医薬分業の普及率は全国で7割に達しているものの、その実態は医師が出した処方せんをもとに薬剤を調剤して渡すことに終始する保険薬局が多く、「患者のために本当に役立っているのか」と言われていたためです。そこで、厚生労働省は2015年10月下旬に『患者のための薬局ビジョン』(以下、薬局ビジョン)を策定し、全国に約57000軒ある保険薬局を患者本位のかかりつけ薬局に再編することを決めたのです。

※医薬分業…薬の処方と調剤を切り離し、それぞれの仕事を医師と薬剤師が分担して行うこと。医薬分業によって患者の安全性を守り、最少の薬剤で最大の効果を上げることが期待できるといわれている。

◆患者のメリット

 「患者本位って、どういうことを想定しているのかしら」とナオコさんは思いました。時間に追われる毎日を過ごすナオコさんにとって、いちばんありがたいのは待ち時間が少なく、スピーディーに薬を出してくれる保険薬局です。

 『薬局ビジョン』では、患者の立場からみたときの医薬分業のメリットを「これまで服用した薬剤を含め、すべての薬剤を一元的・継続的に把握してもらえることだ」としています。具体的には、患者にとって次のようなメリットがあるようです。

①複数の診療科を受診した場合でも多剤・重複投薬を避けられる

②相互作用などを未然に防げる

③薬物治療を受けている間、薬の効果や副作用について継続的に確認してもらえる

 「ふーん、国が考える"患者本位"って私が求めているような薬局じゃないのね……。それなら私よりマサオさんのほうにメリットがありそう」

 ナオコさんがいうとマサオさんも納得したような面持ちでこう言いました。

 「たしかに複数の薬剤を飲んでいる患者にとってはすべての薬剤を一元的・継続的に把握してもらえるのは安心だよな……」

 それでもナオコさんは、マサオさんの薬のもらい方を頭に浮かべると、一つ気になることがありました。

 「だけど、今までのようにあちこちの保険薬局で薬をもらっていると、こうした恩恵にはあずかれないわよ。お薬手帳だけでなく、保険薬局を1カ所にすることが、この政策のポイントのようだし」

 「おいおい、誰も好き好んで薬局めぐりをしているわけじゃないぞ。そもそも経口抗がん剤を取り扱っている薬局が少ないことが問題なんだ」

 マサオさんはぼやきました。

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解決策①

 患者が服用するすべての薬剤を一元的・継続的に把握することを目的とした「かかりつけ薬局」制度は、複数の薬剤や、副作用・事故にとくに注意が必要で安全管理を怠ると被害をもたらす可能性が高い「ハイリスク薬」(抗がん剤、免疫抑制剤、不整脈用剤、抗てんかん剤、血液凝固阻止剤、糖尿病用剤など)を服用している人は利用価値が高い。ただし、利用にあたっては薬を調剤してもらう保険薬局を1カ所に決めることが必要。

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◆薬の種類やライフスタイルによって不便も

 マサオさんは胃がん治療のため、経口抗がん剤を処方されたとき、糖尿病の薬をもらっている会社近くの保険薬局で調剤してもらおうと考えていました。しかし、「がんの薬は取り扱っていない」と断られ、仕方なく病院から案内された病院前の保険薬局を利用しています。薬局を1カ所にすることの重要性は、マサオさんも十分に理解していますが、糖尿病の薬をもらうために電車を乗り継いで、この薬局にわざわざ通うのは現実的には考えられませんでした。

 「医療界やメディアで注目されたからといって、この状況が4月から改善されるとは、とうてい思えないなあ……」

 マサオさんに、ナオコさんも同感しました。

◆24時間相談対応、在宅にも出向く

 「ところで、かかりつけ薬剤師は日常の診療にどんなふうに関係してくるのかしら」とナオコさんは新たな疑問を持ちました。

 『薬局ビジョン』では、患者が医薬分業の恩恵を確実に受けるためには、日ごろから薬のことをいつでも相談できる薬剤師が欠かせないとの観点から「かかりつけ薬剤師」という新たな専門職をつくりました。そして、かかりつけ薬剤師には患者の生活を支える専門職としての覚悟を持ち、24時間対応や在宅に出向く対応を含めた臨床の担い手になることを強く求めています。

◆患者も負担増

 こうした一連の改革に実効性を持たせるために、2016年度の診療報酬改定では「かかりつけ薬剤師指導料」が新設されたのです。かかりつけ薬剤師を持つことに同意した患者に服薬サポートなどを行った場合、1回あたり70点の指導料を算定することができます。その際、患者が支払う費用は1割負担で70円、3割負担で210円になります。

 「いろいろな薬を飲んでいて在宅医療を受けている高齢者も、かかりつけ薬剤師がいると安心だから、脳梗塞(こうそく)を患ったお義父さんにもおすすめね。1割負担の高齢者の場合は70円の費用がかかるのか……。この金額だけをみると支払えない額ではないけれど、かかりつけ医に関連した診療報酬も改定されているようだから、全体の自己負担額がどのくらい増えるのかを知ったうえで、かかりつけ薬剤師の制度を優先的に利用したほうがいいのかを決めてもいいかも……」とナオコさんは考えました。

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解決策②

 複数の薬を服用し在宅医療を受けている高齢者も「かかりつけ薬剤師」がいると安心。しかし、かかりつけ医に関連した診療報酬(認知症地域包括診療料、地域包括診療料など)が改定されているため、在宅医療や介護保険の自己負担額全体がどのくらい増えるのかをケアマネジャーに試算してもらったうえで、かかりつけ薬剤師制度を利用するかどうかを決めるのがかしこい。

●かかりつけ医に関連した診療報酬について詳しく知りたい方

http://www.asahi.com/articles/SDI201603090783.html

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 「その考え方に賛成だよ。おやじは介護保険の負担もあるからね……。高齢者へのサポートが手厚くなるのはいいことだけど無料じゃないからなあ。財布の中身とよく相談したほうがいいよ」とマサオさんも同調しました。そして「3割負担のオレの場合は1回あたり210円だろう……。今、服薬指導で負担している金額(薬剤服用歴管理指導料41点)は3割負担で120円だから、かかりつけ薬剤師を持つと90円値上がりするってことか。薬局の店頭で対象患者だとすすめられても、これまでのように医師から指示された薬を出して"お変わりありませんね"と会計してくれているだけじゃ、かかりつけ薬剤師になってもらおうとは思わないね」とも。

◆市販薬やサプリ、健康食品の利用も把握

 「あなたのいうとおりよ。薬剤師さんには、もうちょっと頑張ってもらわないとね……。それにしても、かかりつけ薬剤師は誰でもなれるのかしら。どのようなサポートをしてくれるのかも具体的に知りたいわ」とナオコさん。

 かかりつけ薬剤師は、薬剤師の資格を持っていれば誰でもなれるものではありません。厚生労働省が決めた基準では、保険薬局で3年以上勤務した経験があり、かかりつけ薬剤師として活動する保険薬局での勤務経験が半年以上、また勤務時間が週32時間以上とされています。さらに薬剤師認定制度認証機構等の研修認定を取得していること(2017年4月1日から施行)、地域の医療活動に取り組んでいることなども要件として規定されています。

 そして、かかりつけ薬剤師に求められているサポートは『薬局ビジョン』でも示されているように、第一に患者が服用しているすべての薬剤を一元的・継続的に把握し、患者が薬物治療による利益を最大限に受けられるようにすることです。ここでいう「すべての薬剤」とは、医師が処方した薬だけでなく、市販薬、サプリメント、健康食品なども含まれます。

 かかりつけ薬剤師は調剤後も患者の服薬状況を継続的に把握し、その情報を処方した医師に報告し、患者が薬を飲めていなかったり、薬の効果が弱かったり、副作用が強かったりするなどの不都合がみられるときは、対策について処方医とすみやかに相談します。また、必要に応じて患者の自宅を訪問し、残薬の整理や確認も行います。もちろん、患者や家族からの相談には24時間態勢で応じなければなりません。

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解決策③

 かかりつけ薬剤師が服用状況を把握して管理してくれるのは、医師が処方した薬剤だけでなく、市販薬、サプリメント、健康食品などもすべて含まれることを知っておきたい。また、薬物治療を行う中で不都合が起こった場合は、薬を処方した医師と連絡を取って善後策を検討してくれるため、薬で困ったときはかかりつけ薬剤師にまず相談を。

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◆患者による指名制

 「うん、ここまでやってくれるのなら、かかりつけ薬剤師にふさわしいサポートだと思うし、90円の値上がりは安いものだ」とマサオさんも納得です。「しかし、かかりつけ薬剤師の仕事をきちんと果たせる薬剤師はどこにいるのだろう……」。そのことはマサオさんだけでなくナオコさんも不安です。

 じつは、かかりつけ薬剤師は患者さんが自由に選ぶことができます。いうなれば"指名制"になるのです。これまでのように利便性だけで薬局を選んでいると、薬剤師のサポートを必要とするときに困ります。次週は、本当に頼りになる「かかりつけ薬剤師・薬局の見分け方」についてナオコさんと一緒に考えてみたいと思います。

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アピタル編集部より

 この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

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http://www.asahi.com/apital/healthguide/tamatebako/(アピタル・渡辺千鶴)

アピタル・渡辺千鶴

アピタル・渡辺千鶴(わたなべ・ちづる) 医療ライター

愛媛県生まれ。京都女子大学卒業。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランス。共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社刊)などがある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。現在、総合女性誌『家庭画報』の医学ページで「がん医療を支える人々」を連載中。