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 中高生が医療や介護の現場を歩き、耳を傾けて考える「医療現場で考える10年後の未来プロジェクト」に参加する横浜市の中高生ら約60人が3月27日、医療や介護の改革プランをまとめた。「よりよい医療・暮らしのために私たちが取り組むこと」と題し、10班がプレゼンテーションした。出てきたアイデアは、「病院開放プロジェクト」「学校教育での病院・介護施設でのボランティアの行事・イベント化」「人間の心も理解できるロボットの開発」など多岐にわたった。中には、医療費を減らすため医師が得る報酬を自主的に減らす案や、お金や家族の支援がないと在宅医療は難しいといった意見もあった。横浜市立市民病院緩和ケア内科の横山太郎医師や在宅医らでつくる「未来を考える医療プロジェクト」が主催。横山医師は「今から私たちができることは現場で取り組んでいきたい」と語った。

 

 この日は、横浜市西区みなとみらいにある帆船日本丸訓練センターの会議室に、中高生60人とそれをサポートする医療者ら約20人が集まった。高校生が中心の班もあれば、中学生との混合の班もある。医学部を目指す人たちも多そうだ。

 4班をのぞいてみた。メンバーは、高校1年(新高2)の加藤宏望さん(16)をリーダーとし、中学3年生の女子2人、中学1年の女子1人の計4人。大きなテーブルの上に広げられた模造紙に、これまで病院や在宅医療、介護施設のフィールドワークで見たり聞いたりしてきた課題がふせんに書かれ、貼られていく。

 

『在宅医療 家族の支えが不可欠』

『介護 人員が足りない』

『病院 都市部とそうでないところでの数の差が大きい』

『医療費 これからより多くなる』

『増大する医療費のまかない方』

『救急車有料化!?』

『高齢者の方と若い人がおしゃべりするのが楽しそうだった』

『在宅医療の医師が少ない』

『延命は本当に必要か? 個人の事情』

 

 加藤さんは、「僕は在宅医療を中心に考えた」と説明を始めた。在宅医療の現場に同行して感じたのは、老老世帯の家族の負担だ。夫を介護する妻が不眠になるなど負担が大きい点を挙げた。

 こう切り出すと、他のメンバーも、次々に意見を出していった。

「救急車をすぐ呼んでしまう在宅患者がいると聞いた。救急車も税金で運営されているので有料化も必要かも。寂しいのかもしれない。在宅患者の心のケアも大切かな」

「高齢者は子どもが近くにいると元気になる。しかし病院に子どもはいない。子どもが訪問しても隣の病室に迷惑にならないような病室があるといい」

「在宅医が少ない。医師になって研修をするとき、在宅医療を強化したらいい」

 

 2時間かけてまとめたプランは「病院開放PJ」。PJはプロジェクトの略。病院と地域の2方向からの改善の提案で、具体策もいくつか例示された。

・病院内での子どもと高齢者のふれあい教室

・病院を訪問する患者さんの家族らによる他の患者さんへのふれあいボランティア

・病院を訪問する患者さんの家族同士のコミュニケーションの場

・在宅と病院を行き来する医師を増やす

 

 加藤さんは、医学部志望だ。障害を持つ弟と一緒に病院に行くうちに医療に関心を持ったという。2015年11月から2016年3月までの連続セミナーへの参加を通じて感じたことを尋ねると、こう答えた。

 「小児医療に興味があったけど、高齢者医療や在宅医療にも関心を持った。小児医療は細やかな作業が必要だと思っていたが、繊細なのは高齢者医療も同じ。医学の知識だけでなく、思いやりも含めて、様々なことを学ぶ必要があることが分かった」

 

 最優秀の「横浜フロンティア賞」に選ばれたのは、11班だ。課題として「社会保障費の不足」「医療に対する認識不足」「医療関係者の人手不足(特に在宅医療)」の3つを挙げた。解決策として、「社会保障費の不足」については薬価や医療機器の値段を下げることや医師の報酬の自主的返納、国民の納税意識を上げることによる税収アップを挙げた。「医療に対する認識不足」については医療現場の現状に対するSNS発信、「医療関係者の人手不足」については一般の人に現状を知ってもらうことが必要とした。また解決のためのアクションプランとして、「病院の公開日をつくる」ことを提案した。市民に開かれた病院にすることで、地域からの理解を導き出し、意見を反映させていく。英国などに見られる病院の運営スタイルを想像させる。

 

 各班の提案には、「在宅療養する患者の家族の支えが重要だ」とする意見が目立った。このセミナーでは、在宅医の訪問診療に同行し、在宅療養する患者や家族にも会った。そのことを通して「家族の負担は重い」という印象をもった可能性がある。

横浜市などベッドタウンでは、老老世帯や高齢者独居世帯が急速に増え、こうした世帯での在宅医療や介護の例も多い。だが、特に中高生は、同じ地域に住んでいてもこうしたケースに触れる機会は多くない。家族の疲弊だけでなく、ヘルパーの疲弊を感じたという声も出ていた。

 もう一つ多く見られた提案は、「幼稚園から高校まで、学校などの単位で地域の病院や介護施設に定期的に訪問し、かかわることができるのではないか」というものだ。傾聴もあれば、緩やかなふれあいもある。「高校生自らが学校行事として行ったらいい」という提案もあった。市民による病院や介護施設でのボランティアは少しずつ増えてきているが、学校や地域が、地域にある病院や介護施設に組織的にかかわる必要性を説いていた。

 一方、フィールドワークや講師の医師らのプレゼンテーションの印象が強かったのか、ICT(情報通信技術)やロボットを絡めたイノベーションを含む提案は、少なかった。

 

 「医療現場で考える10年後の未来プロジェクト」は、昨年度に続き2回目。初回の参加者は17人だったが、今年度は70人が参加した。医療や介護に携わる運営ボランティアも40人に増えた。昨年度の参加者からは、多職種がかかわる医療や介護の現場で情報連携をより改善するべきだという提案があった。これを受けて、プロジェクトを主催する医師らを中心に相手が知りたい情報を書き込む「情報共有シート」の検討が始まっている。次世代の医師の育成だけでなく、大人たちがなかなか改善できない課題の再認識の場にもなっている。

 ちらしの配布をお願いした学校側からは、「プレゼンテーションの機会を増やして失敗経験もさせて欲しい」という要望があったという。将来、社会に出たときのためのスキルアップという要素も含まれている。

 横山医師はこう語る。

 「在宅医療といっても、医師が訪問すると畳が折れ曲がったくぼみに寝ている患者さんもいれば、ケーキを出してくれる家庭もある。今は時代の変革期。2025年問題を一緒に乗り越えていく中高生と一緒に、解決策を考えていきたい」

 

 プロジェクトは2016年度も継続される。内容をより充実させたうえで、6月から10月にかけて開かれる予定だ。

<アピタル:ニュース・フォーカス・オリジナル>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus(岩崎賢一)

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)