[PR]

 がん患者の就労相談窓口を設ける病院が少しずつ増えてきています。治療の大きな山は越えても、継続的な通院治療が必要な患者は多く、復職や仕事と治療を両立することが悩みとなります。「がんと就労」シリーズの3回目は、社会保険労務士として、埼玉県立がんセンターや三井記念病院、東京医科歯科大学医学部付属病院で就労相談を受け付けている近藤明美さん(45)に聞きました。近藤さんも会社員だった2004年に乳がんと診断され、休職と復職の経験を持っています。休職にかかわる制度は会社によって違ううえ、休み過ぎると次の年に有給休暇が新たに付与されないなど、注意すべき点があるようです。アピタル編集部では、がんと就労にかかわる読者のみなさんの経験談を募集しています(文末参照)。

質問■

 がん患者の就労相談にかかわり始めたのはいつごろからですか。

近藤明美さん■

 07年に社会保険労務士(※1)の試験に合格し、09年3月から就労支援に携わるようになりました。きっかけは、桜井なおみさん(インタビュー記事はこちらhttp://www.asahi.com/articles/SDI201604063150.html)に出会ったことです。桜井さんが、働く患者さんのサポートグループをつくるということでそこに参加しました。社労士としての専門的なアドバイスや相談ができるのではと思い、私からメールしました。

 私が乳がんの診断を受けたときは、患者支援の活動をしようという考えもなく、「がんと就労」という問題も知らなかった。

※1)社会保険労務士は、労働や社会保険の専門家。企業や個人にアドバイスをしたり、手続きの代行をしたりしている。

 

質問■

 乳がんと診断されたのは社労士になる前で、会社員をされていたときですね。仕事はどうされましたか。

近藤さん■

 辞めずに続けましたね。当時、総務の責任者や社長秘書をしていました。診断を受けたことは、社長に言いました。「辞めなくちゃいけないのかな」と思ったけど、一人暮らしだし、経済的にも辞められない、「続けさせてもらおう」と。社長もびっくりしていましたが、「治療をちゃんとして。その間休んでいていいから」と言われました。

 

質問■

 生活の維持のほか、治療費、自分のキャリアプランもあったでしょうね。

近藤さん■

 総務や社長秘書は、自分のやりたい仕事だったので、これからだと思っていたときでした。だから、辞めるという選択肢はなかったですね。

 

質問■

 患者は診断を受けると、不安になりますよね。

近藤さん■

 そうですよね。私も不安になりましたけど、どちらかというと論理的、前向きに捉えて、仕方がないことだなと考えました。社長も「君は強いね」と言っていたけど、私も本当は落ち込みましたよ。けど病気は仕方がないことなので、治療をしてまた戻ろうと考えました。社長からは「幹部社員には伝えなさい」と言われました。部長課長が集まる会議で話しましたが、女性が多い職場だったので「帰ってきてね」「待っているからね」と声を掛けてくれてありがたかったですね。

 

質問■

 有給休暇で手術をされたのですか。

近藤さん■

 就業規則はありましたが、80人規模の会社なのでそんなに見直しもされていませんでした。人事を担当していた同期の同僚に見せてもらい、休職制度を調べると「3カ月」と書いてありました。「有給とっておきたいでしょ」といわれ、私も「そうだね」と思って、まずちょっと有給を使って休み、その後は休職扱いにしてもらって傷病手当金をもらいました。幸い3カ月で復職できたので問題ありませんでした。社長との話の中では「治療期間は気にしないで休んでいいよ」と言われていたので、小さい会社で融通が利いた感じでした。

 

質問■

 診断を受けてすぐ休まれたのですか。

近藤さん■

 診断を受けて、2週間で引き継ぎをして、休みに入りました。私は手術と放射線の治療で3カ月。抗がん剤は使いませんでした。

 

質問■

 スムーズに復職するため、どう会社とつきあっていけばいいのでしょうか。

近藤さん■

 私の場合、まず、「戻る」と会社に言ったときに戻る場所がなかった。手術が終わった段階では病理検査の結果が出ていなくて、次の治療がどうなるかはっきり分からなかった。社長は「どこまで休むか分からないなら、それまで僕(社長)の面倒を見る人がいないと困る」といい、私の前に秘書をやっていた人をパートで再雇用し、新卒社員も入れました。だから、私の戻る場所がなくなった。小さい会社ではよくあることです。みんなでカバーできていればそこに戻ればいいですが、ギリギリの社員でやっている会社はそこに新しい人を入れるので戻る場所がなくなってしまう。社長から「ちょっと待っていて」と言われ、結局、新しく作ったグループ会社に出向して総務の仕事に戻りました。

 

質問■

 近藤さんの場合はそれでも復職できる場があったのですね。

近藤さん■

 会社の配慮もあって復職できました。半年ぐらいグループ会社で仕事をした後、もとの会社で産休に入った人がいました。それをきっかけに手術前にいた職場に戻れました。

 

質問■

 フルタイムで復職したのですか。

近藤さん■

 そうです。不安もありましたが、短時間勤務ってあまり考えなかったですね。今だと、「短時間勤務から戻るのがいいですね」とアドバイスしますが、当時は「フルタイムでなければ」と自分で決めつけていました。

 

質問■

 フルタイムでの復職に不安はありませんでしたか。

近藤さん■

 主治医には聞きました。「何かしてはいけないことがありますか」と尋ねましたが、ニコニコしながら「大丈夫」と言われました。今まで通り仕事をしても問題ないと。「休職していたので、仕事の勘が鈍ったり、手術の痕が痛いのも神経を切っているから痛かったりするのは当たり前で、だんだん治っていく」と説明してくれました。主治医に仕事について相談できたのが私にとっては心強かったです。

 

質問■

 通院はどうされましたか。

近藤さん■

 周囲に理解してもらったこともあって、通院に支障はありませんでしたね。午前中に仕事をして午後3時に病院を予約して通っていました。午前中は病院がすごく混んでいて何時までかかるかわからないので。主治医も協力してくれました。

 法律上、前年の出勤率が80%以上ないと、翌年の有給休暇はつきません。残っている有給休暇は使えますけど、新規につかない。私の場合は、3カ月以上休んでいるので出勤率が80%に達しなかった。それでも、社長が「通院するのに有給がないと困るでしょ」といって人事に話してくれて、特例として付けてくれました。私は欠勤にならず、半休をとって通院ができました。

 ありがたかったですが、年次有給休暇を特例で付与することは、本当は不公平になるのでよくないことだと思います。他の社員が知ったら「何で?」と思う可能性もあります。これを「治療休暇」という形で付与できればいいと思います。きちんとした制度にすれば不公平感もなくなります。法制度としては難しいけど、会社の制度としてできればいいですね。

 

質問■

 病院で就労相談を受けているそうですが、どのような相談が多いですか。

近藤さん■

 医療機関で受ける相談で一番多いのは、診断の直後というよりも、治療中で復職まで多少時間がある人ですね。復職間近ではなくて、「いつか復職しなくてはいけないけど、今お金がちょっと大変で」という人たちです。以前は、復職のタイミングの人が多いかなと思っていましたけど、今は治療中に目の前のお金で困っている。高額療養費制度がありますが、毎月の自己負担は結構な金額です。傷病手当金も申請手続きをしていないと、いくら入ってくるか分からないし、出て行くお金は確実に出て行きます。すごく不安ですよね。「傷病手当金はこうやって計算するので、これぐらい出ますよ」と説明すると、ちょっとほっとされたりする。

 

質問■

 治療中のお金の悩みについて、もう少し具体的に説明してください。

近藤さん■

 例えば、手術が終わった人の場合、これから抗がん剤治療や放射線治療をするけど、どれぐらい費用がかかるか分からない、聞いていない、調べていない。今は収入がない。高額療養費があるのは知っているけれど、この先どれぐらい費用がかかるのか分からない。それに対してどのような制度を使い、それを使うと自己負担がどれぐらいになるのか分からない。そんな悩みです。

 

質問■

 収入が途絶える一方、治療にはお金がかかる。保険だけではカバーできないのですね。

近藤さん■

 すごく厳しい人の場合は生活保護があります。そこまで行かずに、子どもが進学を控えているとか、住宅ローンがあるとか、上の子が大学生であと1年あるうえに下の子はこれから受験だとか・・・。

 初期治療であれば、治療はずっと続かずいったん終わりがあるはずです。でも、そこまでの見通しを医療者の方と話していない場合があります。不確定なことが多くて難しいのかもしれませんが、見通しがつけば、月にこれぐらいの費用がかかって、これぐらい切り詰めればいいとか、解決の糸口が少しでも見つかって安心する方も多いです。

 

質問■

 治療中は仕事を休まないといけないですし、会社に居づらくなって辞めざるを得ない人もいます。非正規雇用の人も増えています。会社内の問題に関する相談はありますか。

近藤さん■

 会社内の人間関係が悪いという方もいますよ。別な病気になった同僚がこういう仕打ちを受けたとか、早退することが不安だとか、そんなことを相談してくる人もいます。休むときは休職制度で休めるけど、復職のためのプログラムとなると、大企業なら慣らし出勤などがありますが、中小企業はない場合が多いです。「復職して体調が悪くなったらどうしよう」とみなさん思いますよね。「短時間の勤務から始めたいけど、会社にどういったらいいか分からない」という相談もありますね。

 

質問■

 どういうアドバイスをしますか。

近藤さん■

 まず就業規則を確認しますね。休職規定がどんな内容か、また復職プログラムがあるか。休職前に、会社から復職の案内をもらっている人もいます。復職について制度がある場合はそれにそってアドバイスをします。いつ誰に連絡を入れる必要があるとか、産業医との面談をどうするとか。半年間休職していたら、治療で体力が落ちていますよね。だから短時間勤務から始めた方が復職率もいいという研究も出ています。

 治療前にやっていた仕事の内容を一番わかっているのは本人なので、前の仕事に戻る際にどこに不安を感じるのか聞きます。事務職だと戻りやすいケースが多い。デスクワークなので残業がなければ大丈夫という方もいました。しかし、職種によっては、業務内容の変更などの配慮が必要なこともあります。問題は通勤です。「試し通勤」をしてみて、毎日となると難しいのであれば、出社時間をずらしてもらう方法もあります。短時間勤務が可能なら、朝を遅くして夕方はみんなと同じにするという方法もあります。そうやって勤務時間を決めていきます。

 業務や通勤にどんな不安があり、支障が出るのか、どんな配慮があれば働けるのかを一緒に考えていきます。

質問■

 例えば、成果給、裁量労働の人は、管理職による評価が気になります。こういう場合はどうすればいいのでしょうか。

近藤さん■

 ある意味、評価が下がってしまうのは仕方がないときもあると思います。評価基準にもよりますがね。今までやれたことができなくなったことで評価が下がれば、給料も下がります。時間で給料をもらっていた人が働く時間が短くなれば給料は削られるのですから、労務の対価という意味で考えれば受け入れないといけないかなと思います。

 ただし、ずっとそのままかというと、そうではないと思う。

 結局、働き続けることを考えたとき、がんという経験をしたあとに会社に貢献していけるのかが問われると思います。もちろん、不当に辞めさせられたりとか、一方的な給与の引き下げ、必要以上に低く評価されたりするのはよくありません。

 今持っている力で、今の会社よりもよりいい会社に転職できるのがいいですが、治療中や治療直後は採用されづらいことは否めません。

 

質問■

 採用面接に行くと、前の会社を辞めた理由を聞かれることがあります。採用する側からすると、業務に影響があるのか気になる場合もあります。仕事を辞めてしまったり、辞めざるをえなかったりした人が、上手に転職していくためには、どのようにセルフプロデュースしていけばいいのですか。

近藤さん■

 病気の方に限らないと思いますが、新たな職場に行くときは、自分の強みをアピールすることが基本だと思います。伝える内容と伝える順番と言い方があります。順番として、病気のことを最初には言わない。まずは自分が働きたいということを伝えたうえで、伝えなくてはいけないことがあれば病気のことを言っていく。基本的に支障がないならば、病気のことを言わないこともあります。

 治療のことを知っておいてもらわないと業務上支障がある場合や、働く場の人間関係のために話しておかないと心苦しい人は伝えてみることも必要かと思います。新しい職場に行くうえでの、自分の中での納得感ということもありますね。

 私がかかわっている職業訓練校では、時々、がん経験者がいます。雇用保険をもらって職業訓練校に通っているのです。聞いてみると、採用面接ではがん治療をしていることを言う人もいれば、言わない人もいました。でも、ちゃんとみなさん就職していきますよ。3カ月間ここに通うことで、働けるということが実証されますしね。スキルをつけてキャリアチェンジをしていく人たちもいます。

 

質問■

 会社を辞める場合も、自己都合退職か、会社都合退職かによって雇用保険が支払われる時期が変わってきますね。

近藤さん■

 法的なところでいうと、自分で退職届を出したら自己都合退職になります。「体力的に厳しいので辞めたい」「治療に専念したいので」といったら自己都合退職になります。ただ、会社がすすめる場合もあります。退職勧奨されて「じゃあ、わかりました」と退職届を出す場合は、会社都合退職になります。

 最近、相談で多いのは、派遣社員、契約社員の人です。このような人たちは、途中で辞めさせられるというより、「契約期間満了」、つまり次の更新がないんですね。

 有給休暇を使って治療して復職し、抗がん剤治療しながら仕事をするものの、つらくて休む。欠勤や早退が続くと、次の更新は難しいねとなってしまう。派遣社員の場合、派遣元と派遣先の派遣契約があるので、契約期間中に切られることは、ないとはいえませんがあまりありません。更新しないケースは、契約期間にもよりますが、会社都合になる場合があります。

 

質問■

 会社と話をする前に、専門家にアドバイスを受けた方がいいのですか。

近藤さん■

 ご自身でできる方もいますが、がん診療連携拠点病院の相談支援センターには、就労の相談にのってくれるソーシャルワーカーや看護師がいます。社労士と連携している相談支援センターも増えてきています。私や桜井さんらが携わるCSRプロジェクトの「就労セカンドオピニオン~電話で相談・ほっとコール~」(http://workingsurvivors.org/secondopinion.html別ウインドウで開きます)でもアドバイスをしています。

 会社と話すときは、落としどころをお互いにすりあわせる交渉の仕方、話し合いの仕方を念頭に置いてアドバイスしています。例えば、「時短は難しい」と言われた場合は、「日数を減らすのと、毎日来て時間を短めにするのとどちらがいいですかね」と持ちかけるとか。今までの立ち仕事の接客ではきついかもしれない場合は、雇用形態を変えるとか。

 

質問■

 雇用形態を変えるべきではないという意見もあります。

近藤さん■

 会社に有利なように変えられてしまったり、一度変えると雇用形態を元に戻せなくなったりする可能性もあります。雇用形態を変更する場合は、戻す条件などについて書面でとっておかないと危ないこともあります。例えば、雇用形態をパート勤務に変更し、その後フルタイムで働けるようになったとき、正社員に戻れるのかどうか。正社員の立場を保ったまま、一時期だけ外回りや残業は免除してもらうといった方法もあると思います。

 

質問■

 仕事の形態が変われば、キャリアに傷がつくのではないかと不安になる人もいます。

近藤さん■

 その人にとって何が大事か、だと思います。相談を受けた方の中には、直属の上司1人にしか言わなかった人もいます。病休や休職といった制度を使わず、それ以外の休みを使ったそうです。出張にも行かれていましたね。それで本人は良かったと言っています。その時に、自分が納得のできるどのような選択をするか、すごく難しいと思います。

 

質問■

 がんと就労の話題は、初めてがんと診断された患者を想定したケースが多いと思いますが、再発や遠隔転移の患者には、どのようにアドバイスしますか。

近藤さん■

 これという答えはないです。ひとりひとりにとってよい答えを見つけることが大切だと思います。「お金に困っているから働かなくてはいけないけど、治療がきつくて働けない」という相談があります。それでも自分が働かないと家族が食べていけない、そういうときが一番悩みますね。本人の希望、家族はどう思っているのか、解決するために他の方法がないかを考えます。

 

質問■

 がんを経験したことで、考え方が変わる人もいますね。

近藤さん■

 職場に戻ったけど辞めた人がいます。それまで仕事ばっかりしてきたけど価値観が変わって、家族との時間の方が仕事より優先順位が高くなって辞めたそうです。働き方を見直して、少ししてから別の仕事につきました。就労支援の相談だけど、優先順位を整理して、今後どう生きていくのがいいのかなという話になることもあります。

 

近藤明美さんプロフィル

1970年生まれ、埼玉県在住。

1993年に大学を卒業後、不動産会社、出版社にて総務職に従事。2004年、乳がんと診断され、手術、放射線治療、ホルモン療法をする。06年に勤務先が倒産。法律事務所に転職し、社労士を目指す。07年に社労士に合格し、10年に独立して埼玉県越谷市に事務所を開く。

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

◆みなさんの経験談、ご意見をお寄せください

 アピタル編集部では、「わたしも言いたい!~がんと就労~」をテーマに、みなさんから経験談やご意見を募集します。掲載や取材をする場合は、確認の問い合わせをさせていただきますので、お名前のほか、ご連絡先(電話番号、メールアドレス)、年齢、性別、職業の明記をお願いします。

【送付先】

 ・メール apital@asahi.comメールする

 ・郵便 104-8011 東京都中央区築地5-3-2 朝日新聞アピタル編集部「がんと就労」係

<アピタル:わたしも言いたい!・医療>

http://www.asahi.com/apital/forum/iitai/(岩崎賢一)

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)