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 支局(地方にある取材拠点)に勤務していた頃のことです。夏の午後、取材から戻ってきた同僚の男性記者が「ふう、暑い暑い」といいながら、冷蔵庫から取り出したガラスのポットに口をつけてゴクッ。

 でも、冷たい麦茶と思って飲んだその茶色い液体は、そばつゆでした。支局長がお昼にざるそばを食べようと作っておいたものだったのです。「うへえ」と悲鳴をあげた彼の様子は、それから20年以上経ったいまも、当時の仲間での語りぐさになっています。

 ああ勘違い。でもそれが時に恐ろしい結果を招くこともあります。

 昨年6月、札幌市内で、家庭菜園に生えていたイヌサフランの球根をゆでて食べた男性が、下痢や嘔吐(おうと)、多臓器不全の症状で亡くなりました。9月にも、山形市内の高齢女性が、庭で栽培していたイヌサフランを食べたことによる食中毒で亡くなっています。

 イヌサフランは別名コルチカムというユリ科の植物で、観賞用の園芸作物としてよく植えられています。アヤメ科のサフランと似た花が咲きます。ただ、コルヒチンという有毒成分を含んでおり、ギョウジャニンニクやギボウシと間違って葉を食べたり、ジャガイモやニンニクなどと間違って球根を食べたりすると、嘔吐や下痢などを引き起こし、重症の場合は死亡することも。

 厚生労働省によると、昨年までの10年間で事例は8件と少ないのですが、死者数は4人。これはキノコ以外の有毒植物による食中毒死亡では、最も多い数です。

 スイセンの食中毒も、繰り返されています。この10年で37件発生し、幸い亡くなった方はいないものの、患者が149人。葉をニラと取り違えたケースが多く、球根をタマネギなどと勘違いした例もあります。美しく身近な植物ですが、有毒成分を含んでいて、中毒症状を起こします。

 今月は山形県と江戸川区で発生、3月には石川県で、直売所で「ニラ」と誤表示されていたスイセンを買って食べた家族が、吐き気や頭痛の症状を訴える事件がありました。

 自然毒による食中毒事例を調査している国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室の登田美桜・主任研究官は、「植物の食中毒では、原因は有毒植物と食用の植物との誤認が最も多い」と言います。この10年の発生状況について「園芸植物による食中毒が増えている」と話します。「スイセンが典型的ですが、食べると有毒な植物であることや、スイセンとニラが似ていて間違いやすいことなどが一般に広く知られていない。これが、事故が繰り返される背景にあると思います」

 予防のためには、庭や家庭菜園で、観賞用の植物と食用の植物を近くに植えないこと。そして「食用の植物だと確信が持てないものは食べないでください」と登田さん。

 消費者庁(http://www.caa.go.jp別ウインドウで開きます)も4月13日に注意を呼びかけるニュースリリースを出しました。同庁の消費者調査では、家庭菜園などで食用と観賞用を明確に分けて植えている人は45%にとどまっています。「有毒植物による食中毒は、毎年春、特に4~5月に多く発生しているので、これからの季節は特に注意を」と言います。

 なお、厚生労働省の集計によると(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yuudoku/別ウインドウで開きます)、2006年から15年の10年間で、有毒植物による食中毒のうち最も患者数が多かったのは、ジャガイモでした。患者数411人を記録しています。登田さんは「小学校で授業の一環として栽培したジャガイモによる事例が大半」と話します。過密栽培や肥料不足、不十分な栽培期間などのためイモが未成熟だったり、栽培時の土寄せが不十分だったり、収穫後に光が当たる状況で保管したりすると、イモの中にソラニンなどの有毒成分が増えてしまうのです。勘違いとは少し違いますが、食べ物を深く知ろうとする取り組みが残念な結果にならないよう、こちらも注意が必要だと感じました。

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/(大村美香)

大村美香

大村美香(おおむら・みか) 朝日新聞記者

1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)