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 前回までに、うつで休職中のミカさん(20代女性・会社員)は、自分の心の奥深くにある思い込みである信念と、そのルーツを知るために、自分の育った家庭環境を振り返り、その上で自分の本当の気持ち・欲求に気づくことを目指してきました。

 前回は、ヨガを例に、身体の感覚から自分の気持ちに気づく方法をご紹介しました。この身体から気づく方法は、慣れてくるとうまくいきます。が、長年自分の感情を置き去りにして来られた方には、急には難しいアプローチのようです。

 というのも、「自分の感情はおろか、身体感覚に注意を払ったことなどない!」という方にとっては、「今足先が冷えているかどうか、身体がいつもより硬いかどうかなんて、何を基準にして言えばいいのかわからないし、ピンと来ない」というのです。たしかに、日常的に緊張状態に置かれている人にとって、身体は常に冷えて、硬くて、肩こりもひどくて、身体が重くて、呼吸も浅くて…という症状が何年も、何十年も慢性的に続いているとしたら、なかなか気づくことができませんよね(もし、ヨガの先生の中でも、マインドフルネスという技法に詳しい先生にレッスンを受けることができれば、このあたりの気づきを上手に促してくださるはずです)。

 こういった、身体感覚からは気持ちに気づくのが難しい(もしくは好みでない)方のために、今回は他にも「自分の気持ちに気づく方法」を2つ、ご紹介したいと思います。

 

 ①立場を変えて捉えてみる

 「もし、相手が自分と同じ立場ならどんな気持ちだろう」、と考えてみる方法です。

 自分のことを犠牲にして、人の顔色をうかがってしまう方は、自分の気持ちを置き去りにしています。一方で、相手の気持ちに対しては、敏感すぎるほどの共感性を持ち合わせています。このやり方では、この"人への共感性"をうまく活用するわけです。

 たとえば、友達に貸した本がなかなか返ってこない場面を想像してみてください。自分としては、「友達はまだ読みたいのかな、まあいいや」と自分の気持ちよりも相手の都合や気持ちを優先して、そちらにばかり気がいっているとします。ここで、「もし相手から借りた本を自分がまだ返していないとしたら、相手はどんな気持ちかな?」と想像してみてください。「そんなこと絶対しない!私ならすぐ返す。だって、相手に悪いでしょう。相手は迷惑しているんじゃないかな」。こんな言葉が飛び出すかもしれませんね。自分のこととなると、我慢どころか、なんとも思っていないと思っていたのに、相手のことになった途端にずいぶん変わると思いませんか。おそらく、自分の中にも「あー、早く返してよ。ひどいな」と嫌な気持ちがわいているのです。これが自分の気持ちに気づく方法です。

 

 ②極端な質問をぶつけて揺さぶる

 初めての人との集まりに参加した帰り道は、なんだかモヤモヤ、疲れも残ります。そんなときの自分の気持ちは、はっきりつかみにくいものです。こういうときに、あえて極端な質問を自分に投げかけてみます。

 質問 「あの集まりで、怒り爆発だった?」

 答え 「いやいや、怒り爆発ってことはないけど。けど・・・そうね。ちょっとだけ『何?』みたいな、プチイラっとはあったかな」

 質問 「じゃああの集まりで、落ち込んで死にそうだった?」

 答え 「落ち込んで死にそうなんてオーバーだ。でも、みんなに対して劣等感を抱いたのは事実。なんだか自分がちっぽけに見えた」

 質問 「じゃあものすごく愉快で楽しかった?」

 答え 「正直、緊張してばかりで全然楽しめる余裕なんてなかったな。今もこのとおりどんより」

 いろんな感情の極端な例をぶつけてみると、「そうだ」「そのとおりではないけど少しあてはまる」「全然違う」「いやちょっと違う」と、まるで感情をリトマス試験紙で測るように、明らかにすることができます。

 

 いかがでしたか?こうして、自分の本当の気持ちに気づく練習をして、心の中にある3つの役割のひとつ、幼い時のように感じたままを表現する「小さなミカさん」を補強してみましょう。

 次回は、心の中にある別の役割「ミカさん応援団」を補強していきます。

 

【お知らせ】*************************

 5月14日に、大和出版より著書が出ます。

 『「認知行動療法」のプロフェッショナルが教える いちいち"他人"に振り回されない心のつくり方』(http://www.amazon.co.jp/dp/4804762647/別ウインドウで開きます

 ミカさんのように、他人の機嫌をよくすることに神経をすり減らしてしまう方必見の、認知行動療法の本です。ただいま予約受け付け中です。ぜひ、ご一読ください。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・ケーススタディー「ミカさん(会社員・20歳代女性)」>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。