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 熱田優さんは、ダイビング歴20年のベテラン。休日には潜水ガイドの仕事もしていました。昨年秋、海中で写真を撮りたいという男性客と、千葉の海に潜りました。1時間ほど潜った後、海面に浮上する途中で、呼吸が急に速くなっていることに気づきました。ボートに戻り、ウェットスーツを脱いでも、「猛ダッシュをした直後」のような苦しい呼吸が続きました。肺に水がたまる「肺水腫」に加えて、体内にたまった窒素によって引き起こされる「減圧症」になっていました。取材した記者の「もう一つのストーリー」とともに、『患者を生きる・潜水と減圧症』の全編をお送りします。

◇もう一つのストーリー◇

 取材を担当した私自身も、キャリア25年のダイバーです。経験本数は約500本で、趣味は水中写真の撮影――。スキューバダイビングによる海中散歩のすばらしさを長年、実感してきた1人です。

 ダイビングに特有の「減圧症」という病気があることは、潜水指導団体による最初の講習で学びます。ですから、減圧症について一通りのことは知っていたつもりでした。ただ、今回の取材を通じ、減圧症によって引き起こされる症状が極めて多岐にわたることを、改めて学びました。

 

ひとごとでないダイバーの減圧症

 10年ほど前のことですが、私は休日に静岡県の西伊豆で潜水し、帰路は車で自宅に向かいました。このとき、高速道路を運転中に全身の激しいだるさに襲われ、ハンドルを握っていられなくなりました。しかたなくサービスエリアに駐車し、ベンチに横になりましたが、しばらく体を動かすことができませんでした。

 今にして思えば、これもまた減圧症の症状だったのかもしれません。幸い、入院して治療を受けることにはならず、すぐに体調は回復しましたが、「ダイバーの減圧症」は私にとって決してひとごとではありません。

 私がダイビングを始めた約25年前は、「ダイブテーブル」という計算表に従って体内にたまった窒素のレベルを推定し、次の潜水計画を立てるのが一般的でした。

 近年は、腕時計型など、小型で水中に持って行ける「ダイブコンピューター」が普及し、自分で計算しなくても潜水計画が立てやすくなりました。

 しかし、こうした便利な道具が登場した後も、ダイバーが減圧症になるケースはなくなっていません。その理由の一つに、同じ人物でもその日の体調などによって減圧症を発症するかどうか大きく左右されることがあるのだと思います。

 

ベテランダイバーでもリスク

 連載「患者を生きる」にご登場いただいた熱田優さんは、日ごろから潜水医学に関する学習会の開催に取り組むなど、減圧症の危険性について十分に知っているダイバーです。それでも、体調不良などの条件が重なれば、減圧症を発症してしまうのです。

 減圧症の治療を終えた熱田さんは、以前から指摘されていた心臓の持病を治すために手術を受け、現在は経過観察中です。体調が順調に回復し、ご本人の希望通り、また海の中の世界に戻れる日が来ることを願っています。

 

「彼女が水着に着替えたら」世代

 国内のダイビングブームに火をつけたことで有名な「彼女が水着にきがえたら」という映画があります。俳優の織田裕二さん、原田知世さんらがダイバーを演じました。この映画が公開されたのは1989年のこと。当時の「若いダイバー」たちはいま「中高年ダイバー」になっています。日本レジャーダイビング協会の有原義則・専務理事は「中高年のダイバーが増えており、安全にダイビングを楽しむためにも日ごろの健康管理が重要だ」といいます。

 私も今年で50歳。無理は禁物だと感じています。熱田さんの取材で得た教訓を胸に、私も体調に気をつけながら、海中散歩を楽しみたいと思っています。

 

※ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

 

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【患者を生きる・潜水と減圧症】

海面間近、急に息苦しく

 東京都葛飾区に住む熱田優(あつたまさる)さん(58)は、タンクを背負って海に潜る「スキューバダイビング」を始めて20年のベテランだ。

 これまでの潜水経験は約2500回。千葉県館山市の海を中心に、沖縄やサイパン、ハワイ、パラオなど各地の海で潜ってきた。海の中という「非日常の世界」に自分の身を置くことができる――。それが、ダイビングの最大の魅力だと感じている。

 ふだんは精密機器の輸送用ケースを製造販売する会社の役員として働くが、休みの日には館山市の海で潜水ガイドの仕事もこなしてきた。

 日曜日だった2015年11月22日。熱田さんは、水中写真を撮りに千葉県内からやってきた男性客を連れて、館山の海でダイビングをした。

 天気は曇りで、やや波が高かった。岸からボートで5分ほど沖に出た場所で潜った。海底の地形がダイナミックで、ネンブツダイやメジナなど魚の多いエリアだ。

 この日は、岩の隙間にすむ美しい小型のエビの写真を撮りたいという男性客のリクエストにこたえてのダイビングだった。記録によると水温は20・4度で、最も深く潜った場所は18・7メートル。海中での滞在時間は56分間だった。

 海底では、狙い通りにエビの写真を撮影することができた。異変を感じたのは、海面に浮かぶボートに戻る途中のことだった。海面が間近に迫ったところで、自分の呼吸が急に速くなったことに気づいた。

 「あれっ。潜水器具の調子が悪いのかな?」

 最初はそんなふうにしか思わなかった。やっとの思いでボートにはい上がったが、息苦しさはさらに続いた。

 「苦しいのはきっと、ウェットスーツがきついせいだ」。ボート上で急いでウェットスーツを脱ぎ捨てた。しかし、「猛ダッシュをした直後」のようにゼイゼイと苦しい呼吸が続いた。

 「ヤバイ。この体は、普通の状態じゃないな……」

 とにかく息苦しかった。そして、自分の体に何が起きたのか分からず、不安が募ってきた。

 

 

「ただの肺水腫じゃない」

 東京都葛飾区の会社役員、熱田優さん(58)は2015年11月22日、千葉県館山市沖の海で潜水をした後、強い息苦しさに襲われた。岸に戻り、ダイビングサービスの車で館山市内の病院に向かった。

 車で移動中、潜水仲間が山見医院(宮崎県日南市)の山見信夫(やまみのぶお)副院長(53)に電話をかけてくれた。山見さんは東京医科歯科大の准教授として潜水医学を研究。09年に宮崎県に戻って開業医となったが、その後も熱田さんらダイバーの勉強会に潜水医学の講師として何度も招かれていた。

 熱田さんが息苦しさを訴えてい…

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