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 愛知県日進市の長谷川優さん(30)は、高校1年だった2001年、アメリカンフットボール部の練習中にタックルを受けて倒れました。3日ほど意識がありませんでしたが、次第に体は回復しました。ただ、5分前に面会に来た人が誰なのか、覚えていないこともありました。大学病院で検査を受けると、脳を損傷したことにより、忘れやすくなったり、人の話を理解できなくなったりする「高次脳機能障害」と診断されました。――取材した記者の「ひとこと」とともに、『患者を生きる・高次脳機能障害』の全編をお送りします。

合宿中、病院に運ばれた

 愛知県日進市の長谷川優(はせがわゆう)さん(30)は、高校1年生だった2001年8月4日、長野県木曽福島町(現木曽町)であった高校のアメリカンフットボール部の夏合宿に参加していた。事故の時の記憶はない。

 父の潤(じゅん)さん(60)は、昼下がりに丘の上のグラウンドに向かって歩く息子の背中を見て「少し頼もしくなったな」と感じたのを覚えている。

 8月に入って最初の土曜日だった。妻の真奈美(まなみ)さん(54)と当時小学3年だった次女(23)を連れ、ドライブを兼ねて合宿先へと見学に出掛けた。

 飲み物を差し入れた後、グラウンドに向かった。その先に坂道を歩く優さんがいた。

 「優、頑張ってね」。家族を見つけて恥ずかしそうな優さんに、真奈美さんが声をかけた。

 180センチを超える長身で、同級生の中でひときわ目立っていたこともあり、体格の良さを買われて入部した。両親は毎日練習でくたくたになって帰ってくる姿を見て、引っ込み思案な性格を変えようとしているのかな、と思ったこともある。

 1時間ほど練習を見学して、愛知県の自宅へ戻った。夕方、近所のスーパーで買い物をしていると、真奈美さんの携帯が鳴った。アメフット部の監督からだった。

 「優が、救急車で運ばれました」

 詳しいことがわからず、家族は再び長野へと車を走らせた。

 「骨折でもしたか?」

 車内ではそんなことを話していた。高速道路を走行中、再び携帯が鳴った。電話を受けた真奈美さんの声が大きくなった。

 「脳挫傷って診断されたって」

 ハンドルを握る潤さんは叫んだ。「脳挫傷? おい、死ぬぞ」

 午後8時過ぎ、長野県内の総合病院に到着すると、優さんは全身を冷やされてベッドに横たわっていた。意識はなく、目を閉じたまま、時折、うなされるような声を発していた。

 「出血して脳が腫れている状態です。出血が多いと命にかかわります。今晩が山場でしょう」

 医師の説明は、まるでドラマの一場面でも見ているようで、現実味がなかった。

 

5分前のことを忘れてしまう

 高校1年生だった2001年8月、アメリカンフットボール部の合宿中に倒れた愛知県日進市の長谷川優(ゆう)さん(30)は、救急車で長野県内の病院に運ばれた。MRIの画像で脳からの出血が認められたが、翌日には治まった。命の危険はなくなったが、意識はないままだった。

 コーチらの説明では、タックルを受けて倒れ、問いかけに対して「大丈夫です」と答えた。だが、立ち上がって何歩か歩いて、再び倒れたという。父の潤さん(60)は、「意識さえ戻れば元気になるだろう」と楽観的に考えていた。

 3日ほどすると、次第に目を開けてしゃべれるようになってきた。体も驚くほど回復した。

 ただ、付き添っていた母の真奈美さん(54)は、優さんが忘れっぽくなっていることに気付いた。面会に来たコーチが帰ったすぐ後のことだ。「よかったね、来てもらって」と問いかけると、「誰が来たんだっけ?」と聞いてきた。5分前の記憶がない。トイレに行こうと病室を出たまま、病院内で迷って戻れないことが続いた。

 「優、どうしちゃったの?」

 優さんの頭の中で何が起きているのかわからなかった。

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