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 うつで休職中のミカさん(20代女性・会社員)は、「時には自分の気持ちを相手に伝えてもいい」という考えについて、頭では理解できても、心からは信じられずにいます。そこで、「観察法」や「実験法」という認知行動療法のテクニックを用いて、考え方の幅を広げたり、修正したりしてきました。

 今回はもうひとつ、考え方の幅を広げる方法をご紹介します。

 

リスク ★☆☆

効果  ★★☆

 

「調査法」

 この方法は、自分以外の誰かに、「こんなとき、あなたならどうする?」「どう考える?」と直接質問して、情報を集める方法です。

 たとえば、ミカさんには最近こんなことがありました。

 自宅に水の訪問販売がやってきたのです。

 なんでも、「非常に身体にいい水を毎月届けてくれて、最初の1カ月は無料でお試しできる」とのことでした。

 ミカさんは正直、水に関心はありませんでした。水道水で十分だと思っています。しかし、営業マンはノルマがあるらしく、「試してすぐに解約してもいいから、置かせてくれ」といって聞きません。

 結局押し切られて、一人暮らしの狭い部屋に、大きな水のタンクが運び込まれました。しかもそのタンクは24時間いつでも冷たい水が飲めるように電源につながれています。ミカさんは夜寝るとき、タンクが水を冷やすための「ジーーッ」という雑音が気になり、うるさく感じていました。

 ミカさんは後悔するようになりました。しかし、「1カ月試すって言ったしなあ」「このタンク運ぶのも大変だろうなあ」「やっぱり付き合いで少しは契約すべきなのかな」と迷っていました。

  

 そこで、調査法を用いて、母や友達に「同じ状況ならどうするか」を尋ねてみました。

 

★母への調査結果:

 1カ月間無料なんていう、うまい話はない。無料ほど怖いものはないんだから、最初からそんな話にのらない。それでもタンクを置いてしまったのなら、「お金がない」といってなるべく早く解約する。

★友人への調査結果:

 どうせ他にもたくさん、無料設置した顧客がいるのだから、1カ月間おいしい水を楽しめばいい。でも水を冷やす音がうるさいのなら、もう電源を切ってしまって、約束の1カ月後に解約する。

 

 ミカさんは、ふたりに尋ねたことで、「みんなちゃんと主張するんだな」「わりとはっきり断るのだな」と驚きました。ついでに、「なんと言って断るか」のセリフまでアイデアをもらいました。そして、無事に水タンクの返品と、無料お試し期間のみの契約終了へと持ち込むことができたのです。

 

 この方法なら、「悩みの相談」よりはハードルが低く、日常的な様々な場面で、皆のアイデアを得ることができます。

 

 ミカさんは他にもいろいろ調査してみたいことがありました。

● 「仕事をしてると、"あー辞めて、他の仕事もしてみたい"って思うことがあるのだけれど、みんなそうなのかな?」

● 「本当に何もかもさらけ出すことのできる友達って、いるものなのかな」

● 「友達でも、あまりにうらやましくなって嫉妬してしまうこともある?」

● 「時々私は何もかもが嫌になって逃げ出したくなるけれど、みんなもそうなの?」

● 「ぶっちゃけ、苦手な上司にはみんなどう接しているの?」 などなど。

 

 多くの人からアイデアを得ることで、それらが正解になるというよりは、「自分の考えや行動パターンが唯一のあり方ではない。世の中には多様なパターンがあるんだな」と視野を広く持つことができます。できれば、自分とは全く違うタイプの人に尋ねてみると、面白い発見がありますよ。また、こうした質問をきっかけに、案外深い話ができるようになるかもしれませんね。

 

 「いきなり相談」はハードルが高いという方には、「調査してみる」という発想で最初の一歩を踏み出してみることをおすすめします。

 

【お知らせ】*************************

 5月14日に、大和出版より著書が出版されました。

 「認知行動療法」のプロフェッショナルが教える いちいち"他人"に振り回されない心のつくり方 (http://www.amazon.co.jp/dp/4804762647/別ウインドウで開きます

 

 ミカさんのように、他人の機嫌をよくすることに神経をすり減らしてしまう方必見の、認知行動療法の本です。ぜひ、ご一読ください。

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<アピタル:上手に悩むとラクになる・ケーススタディー「ミカさん(会社員・20歳代女性)」>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。