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 「赤ちゃんが泣いて夜寝てくれないのなんて、ほんの数年のことよ。夫婦で協力して乗り切って」

 そんな励ましの言葉が辛くてしょうがない、夜泣きでフラフラのお母さんはいませんか? 夜泣きを精神論だけで乗り切ろうとすることに、薄々無理があると気づき始めた方はいませんか?

 夜泣きは忍耐だけが答えではありません。今回は「こんな対処法もある」ということをお伝えしたいと思います。

 

(以下、2013年に連載したシリーズ「赤ちゃんと母親を考える」からの抜粋《後編》です)

 

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 夜泣きに対する対処法については、欧米を中心に研究が積み重ねられてきました。その研究を広く集めて、概要をまとめた論文がこちらです。

小児の睡眠問題に対する行動科学的アプローチ (羽山・津田、2011)(https://www.kurume-u.ac.jp/uploaded/attachment/2409.pdf別ウインドウで開きます

 

 これによれば、夜泣きの対処法は大きく5つに分類にされるそうです。

①消去法:

 「不適切な寝かしつけ」(たとえば"添い乳"など)を、どんなに泣かれてもやめて、赤ちゃんが自分で眠りにつくのを待つ方法。

②入眠儀式:

 寝る前に入浴したりマッサージしたり、いつも可愛がっているぬいぐるみに「おやすみ」とあいさつしたり、電気を消したり、絵本を読んだりなど、寝る前の習慣を作る方法。

③睡眠制限法:

 昼寝を制限し、夜遅くに寝かしつけて夜間の睡眠時間を延ばす方法。就寝時間を毎日少しずつ早めていき、寝てほしい時間になるまで続ける。

④計画的覚醒:

 赤ちゃんがよく目を覚ます時間や回数を調べておき、その10~15分前にあやしておく方法。

⑤睡眠の予防的親教育:

 妊娠中から赤ちゃんが生後数カ月くらいの親に対して、赤ちゃんの睡眠に関する知識を教育しておく方法。

 

 日本における夜泣き対策は、伝統的には②の入眠儀式が用いられてきたのではないでしょうか。そして、夜中に泣いたらひたすら抱っこしたり授乳したり…。ところが、研究によると、①の消去法が、⑤の予防的親教育と並んでもっとも効果の高いことがわかっています。

 日本の育児相談では、「消去法」という対処法を、あまり積極的に勧めていないように感じます。 母子手帳からは「断乳」という言葉が消え、「卒乳」とか「離乳」などの言葉で、赤ちゃんが自然におっぱいから離れていけることを目標にしています。でもこのせいで、夜泣きで苦しむお母さんたちは、ますます終わりのない夜泣き人生を進んでいくように思うのです。

 

 私がはじめにとった方法も、「入眠儀式」でした。「できれば我が子を泣かせることなく、絵本を読んで、くまのぬいぐるみでも抱っこして寝てくれたらいいのに」と、祈るような気持ちで、ありとあらゆる方法をやってみました。でも、ぬいぐるみは放り投げてしまうし、電気を消すと泣いてしまいます。

 結局、夜泣きで困り果てた私が取り入れることにしたのが、「消去法」です。赤ちゃんがいったん学習した「泣く」(行動)と「授乳」(結果)の結びつきを断ち切って、解除(消去)する方法です。

 具体的には、夜間の授乳が必要なくなる月齢(個人差があるので一概には言えませんが、一般的に生後6カ月くらい)の赤ちゃんに対して、一気に夜間のみ、授乳をやめてしまいます。よくいう「夜間断乳」です。 

 赤ちゃんは、「泣く」行動をしても「授乳」という結果がもらえないとわかり、徐々に泣く行動が減っていくのです。

 

 書いてしまえばシンプルですが、実行するのは大変なことでしょう。これまで「泣いている我が子を見るのがかわいそう」とか、「寝ている他の家族や近所の迷惑になるから」と、泣けば授乳をしていたお母さんにとって、かなりの勇気が必要です。

 しかも、「筋金入りの夜泣きっ子」を持つお母さんは、きっと失敗してしまうでしょう。私もその一人でした。

 

 夜泣きのひどい赤ちゃんは、「泣く」という行動と、「授乳」という結果をすぐさま結び付けて学習してしまう、ある意味とてもかしこい赤ちゃんなのです。一般的に多くみられる断乳のように、「ひたすらだっこに、ユラユラ」でおっぱいを忘れて(あきらめて?)いき、いつのまにか抱っこしなくても、自力か添い寝くらいで眠れるようになる…というわけにはいきません。「だっこに、ユラユラ」という方法は、授乳がだっこに置き換わるだけですから、赤ちゃんは新たに、「泣く」(行動)と「だっこ」(結果)してもらえる、という結びつきを学習するのです。

 現に、断乳後も夜泣きする赤ちゃんの多くが、授乳のかわりに、パン、オートミール、バナナ、ミルク、ドライブ、DVDなど、実にさまざまな要求をします。「授乳」が食べ物や飲み物と置き換わると、夜泣きは長引き、虫歯や胃腸の不具合など問題は多く発生する傾向があります。

 

 それではどうすればよいのか。失敗なく断乳し、夜泣きを改善するポイントは、2つあります。

 

 まず、「どうしたら赤ちゃんが泣かずに寝るか」と考えるのではなく、「今後赤ちゃんが夜中に泣いたときに、毎回、毎日でもやってあげられる程度の寝かしつけ方法を、赤ちゃんに教えてあげる」と考えるのです。

 たとえば、「今は体重が8キロくらいだけど、この先大きくなって15キロとかになった時、毎日抱っこで寝かしつけるのはつらすぎる。添い寝で腕枕するくらいなら寝ぼけたままできそうだから、それでいこうかな」と考えれば、断乳のときにはひたすら添い寝で腕枕です。ひとりでベッドで寝てほしい、トントンで寝てほしい、ぬいぐるみと一緒に寝てほしいなど、1つやり方を決めたら、それが寝る方法なのだとひたすら教えます。一貫性のある態度が必要になります。実はこれが、断乳の際に夜泣きを食い止めるポイントのひとつ目です。

 

断乳ポイントその1:自分が毎日でも夜中に何度でもできるくらいラクな、我が子を寝かせる方法一つ決めたら、一貫してその方法で寝かせる。

 

 ただ、これを実行するのは非常に大変でしょう。

 筋金入りの夜泣きっ子の場合、「泣く」(行動)と「授乳」(結果)の結び付きはとても強くなっています。突然、「授乳」を取り上げられて、代わりにせいぜい腕枕・・・。赤ちゃんは当然、大泣きします。このように、いったん成立した学習を消去しようとするとき、「消去抵抗」(もしくは行動沸騰、消去バーストとも呼ばれる)が生じることを知っておかなければなりません。

 これは私たちの経験上も納得できる現象かと思います。たとえば、インターネットをしている時、いつもクリックすれば開くはずファイルが開かないとしましょう。「あれ?おかしいな」と、たいていの人は2,3度続けてクリックしませんか? そのファイルが重要なものであればあるほど、「おかしい!あれ?あれ?」と何度もクリックを続けることでしょう。これは「クリックする」(行動)と、「ファイルが開く」(結果)が結び付いて学習されているからです。この、当然起こるであろう結果が生じない時、私たちはいつもより余計に、激しくクリックをします。まさにこれが消去抵抗と呼ばれるものです。

 でも、この抵抗も一時的なことです。この消去抵抗についてあらかじめ予測して、覚悟しておけば、断乳はうまくいきます。これが第二のポイントです。

 

断乳ポイントその2:我が子の大泣きや別の要求に対してあらかじめ覚悟し、ブレない。

 

 もし、覚悟せずにお母さんの態度が揺れてしまったら、どうなるでしょうか。

 断乳しようと思ったけれど、あまりに泣き叫ぶ我が子を見て、動揺して抱き上げたり、それではいけないと放置したり、やっぱりかわいそうになってお茶だけ飲ませてしまったり・・・。こうした一貫性のない対応をしてしまうと、赤ちゃんはますますどうやって寝付いたらいいのかわからなくなって、問題がこじれてしまいます。実は、我が子がそうでした。

 私の場合は結局、子どもが1歳をこえて、外で歩いて何時間も遊べるようになり、嫌がってほとんど口にしなかった離乳食を少し食べ始め、「前より学習する力が付いてきたかな」「ちょっとタフになったかな」と感じたころに、何度目かの「消去法」に踏み出しました。

 これが正解だったのかはわかりません。夜泣きに悩むそれぞれのお母さんたちが、自分なりに納得し、我が子の「消去抵抗」に決意が揺るがないくらいの「よし! いまだ」というタイミングを、自分で設定できればいいのだと思います。

 

 さて、この記事をお読みになった現役夜泣きっこを抱えるお母さんはどう思われましたか?「我が子だけは、そんなことできないんじゃないか?」「生後何カ月からできるものなのか?」と、興味はあるものの少し不安も抱かれているのではないでしょうか。

 また、「泣かせるなんてひどい」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。「夜泣きなんて人生でちょっとの期間なんだから、優しく授乳なり、だっこなりしてあげたらいいのに」「泣かせるくらいなら夜間授乳が10回あったって、平気」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

 どちらもいいんです。自分のポリシー、自分と赤ちゃんのスタイルに合う方法を選んでください。ただ、夜泣きでもう健全な生活が送れないほどに困っていらっしゃる方には、「こういう選択肢もありますよ」とお伝えしたくて。複数の選択肢から、お母さんたちが自分たちらしい方法を選べますように。

 

 最後に、私が参考にした本をご紹介します。

◆『赤ちゃんがすやすやネンネする魔法の習慣』 (PHP文庫、A・カスト・ツァーン、H・モルゲンロート 著、古川まり 訳) 

 ドイツで大ベストセラーになった本です。「ねんねトレーニング」の具体的な方法などが紹介されています。

◆『赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド』 (かんき出版、清水悦子 著)

 夜泣き専門の保育士さんによる本です。夜間断乳に踏み切るタイミングなどにも触れています。

 

<アピタル:上手に悩むとラクになる・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/

中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。