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 大学の友人と海外旅行中の事故でした。東京都新宿区の会社員、束野仁美さん(32)は大学4年生だった2006年10月、トルコ中部のコンヤ市内で、乗っていた観光バスが横転する事故に遭いました。意識不明の重体で病院へ運ばれると、手の甲が大きくえぐれ、骨が見えるほどの大けがを負っていました。事故から5日後、チャーター機で帰国すると東京大学病院で手の甲を復元する手術を受けました。その後3年間で、7回の手術を経験し、今ではほぼ問題なく指を動かせるようになりました。「傷は残りましたが、幸運のおかげで今の私がある」と話します。

◇記者のひとこと◇

世界的に注目されている日本の形成手術

 トルコ中部の古都コンヤで、観光バスが横転して意識不明になった東京都新宿区の束野仁美さん(32)の取材で、東京大病院形成外科の光嶋(こう・しま)勲医師(64)と成島(なる・しま)三長(みつ・なが)医師(40)に何度かお会いして話をお聞きしました。そして、日本の形成手術のレベルと独創性が、世界的に注目されていることを知りました。

 束野さんの場合、右手の甲が大きくえぐれ、親指、人さし指、中指の腱(けん)が切れていました。ただ、光嶋さんは、骨は露出していたが骨折や感染症がなかったことから、「これは、治せる」と確信したということです。

 記事でも紹介しましたが、光嶋さんは、右手甲の腱を復元するために、右手首の筋膜を使うことにしました。筋膜は筋肉などを包むコラーゲン線維でできており、強靱(きょう・じん)で伸縮性があるため、腱としても活用できます。この手術方法を考えついたのが光嶋さんです。

 そして、東大病院の成島さんら形成外科チームが総力をあげて、13時間にわたる手術を成功させます。まず、右手手首の筋膜をはがし、それをけがの部分にかぶせ、3等分して親指、人さし指、中指の腱を作りました。

 また、束野さんが若い女性だったことから、左わき下から脂肪や血管が含まれた17センチ×10センチの大きさで、厚さ3センチの肉を取り、右手甲にかぶせました。通常の手術では広い面積の皮膚がはがしやすい「太もも」から取るのですが、これも光嶋さんの発案で左わき下が選ばれました。わきの下ならミニスカートをはくことも、水着でプールを楽しむことができるからです。

 

「美容的再建が大切になってくる」

 光嶋さんは「これからの形成外科の手術においては、美容的再建が大切になってくる」と話しています。元通り機能するように回復させるだけでなく、同時にいかに元の「美しさ」を復元させるかという視点です。

 光嶋さん、成島さんらは、年間に10回近く、海外の学会に出張して、新しく開発した形成手術の技法を報告しています。学会では実際に死体を使って手術方法を実演することもあるそうです。

 最近では、中国の富裕層で形成手術に対する関心が高まっていて、中国の学会からの招待が多いということです。

 

※ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするメールするへお寄せください。

 

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バス横転、意識不明に

 その事故は2006年10月17日午後6時50分ごろ、トルコ中部の古都コンヤ市内で起きた。日が暮れて大雨が降る中、時速100キロ近くで走っていた観光バスがスリップして蛇行。左の車輪が浮き上がって中央分離帯を突っ切り、反対車線に飛び出して横転した。

 バスには日本の大手旅行社が企画した「お得にトルコ周遊9日間」というツアーに参加した日本人観光客24人が乗っていた。

 当時大学4年生だった、東京都新宿区の会社員、束野仁美(つかのひとみ)さん(32)は、大学の友人と2人で参加していた。4日目のこの日は朝からずっとバス移動で、すでに約600キロ走っていた。

 事故のとき、束野さんは後部座席でぐっすり眠っていた。

 窓ガラスが車内に飛び散り、顔や頭から血を流した人々の悲鳴や泣き声がやむことなく続いた。まるで戦場のような車内で、友人が右隣にいた束野さんを探すと、座席の背もたれにうつぶせで倒れていた。いくら呼びかけても、背中をたたいても反応がなかった。

 バスは右側を下に横転したことから、重傷者の多くは右側の座席にいた人だった。結果的に30代の女性が死亡し、束野さんを含む2人が意識不明の重体、残り21人が骨折などのけがを負った。

 首都アンカラの日本大使館には午後7時半すぎに事故の一報が入った。医務官の阿部吉伸(あべよしのぶ)医師(51)=現・湘南メディカルクリニック新宿院長=は自宅に帰った直後に、大使館からの電話を受けた。

 「大きなバス事故が起こったので、すぐに2、3日の泊まれる準備をして大使館に来てくれ」

 阿部さんは午後8時にアンカラを車で出発し、約250キロ離れたコンヤに18日未明に到着した。まず、亡くなった女性の身元を病院で確認した後、束野さんが運ばれた別の病院に向かった。

 到着すると、集中治療室(ICU)とは名ばかりの部屋に、日本では数十年前に使っていた旧式の人工呼吸器を付けた束野さんら2人が横たわっていた。医療スタッフはいなかったが、しばらくして姿を見せた現地の医師が言った。

 「この2人も、たぶん、助からないから手がかけられないな」

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