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 なぜ、がん患者は仕事を辞めるのでしょうか? 働くがん患者300人の声から見えてくるものと、その背景、改善のための課題を探ってみました。

▼体力の低下、副作用や後遺症に応じた働き方の選択が難しい

▼「価値観がかわった」「迷惑をかけた」と考えがちで、メンタル面の支援が少ない

▼本当に迷惑をかけるのは「辞めること」という認識を持つこと

 

 私が代表を務めているキャンサー・ソリューションズ株式会社が行った調査結果からは、「企業の理解がないから辞める」ということは、離職の原因の第一要因ではないことが浮かび上がってきました。たしかに、「仕事を休む」ことについて、日本の企業側は欧米と比べてあまり寛容ではないでしょう。そもそも1人当たりに割り振られた仕事量が多すぎるのでは?そう思う人もいるでしょう。

 

 「休める」企業は強く、「休まない」企業は弱い。(「休まない」企業というのは、風土的に上司からして「やすむんじゃなーい!」という高圧的な雰囲気がかなりある企業をイメージしてます)

 

 こんな意識がもっと、もっと社会全体へ広がっていけば、社員も「罪悪感」や「迷惑をかけた」と感じることも少なく、身体を休めることができるかもしれません。では、働くがん患者さん300人の調査から見えてきた離職の背景を考えてみましょう。

 

●離職の主因は医学的要因が多い

 前述の調査では、がんになった後の働き方や家計の変化を把握するため、公益財団法人 がん研究振興財団の助成を受けて「がん罹患(りかん)と就労調査(当事者編)2016」を2015年12月に実施しました。対象は、診断時に働いていた20歳から64歳までのがん患者さん(診断から10年未満)300人。回答者の男女比は、男性62%、女性38%。回答者の年代は50代が最も多く全体の4割を占めました。居住地は東京都、神奈川県、大阪府などの大都市が6割、地方圏が4割。がんの部位は、大腸が18%、乳房が17%、胃がん11%でした。

 この中で「就労に影響を及ぼした項目、上位三つを教えてください」という質問をしたところ、次のような結果になりました。

 回答してもらった回答を第一位を3点、第二位を2点、第三位を1点として、全ての回答結果を集計したところ、点数が高かった項目は、第一位が体力の低下(458点)、第二位が価値観の変化(298点)、第三位が薬物療法による副作用(240点)、第四位が職場に迷惑をかけると思った(206点)、第五位が通院時間の確保が困難(196点)となりました。

 まとめると、「体力がおちた、価値観が変わったなど、身体的な要因や精神的な要因に応じた働き方の変更が難しく、仕事の継続が困難である」ということがわかってきます。がん患者の就労を応援するには、まずは企業と社員の間で「信頼関係を築くこと」が大切です。「労使の信頼関係づくり」は普段から大切なことなのです。その上で、患者から、会社側に配慮してほしいことや、配慮が必要な期間(見通し)を聞き出し、こまめなコミュニケーションを通して、さらに信頼関係を作り出してほしいと思います。また、患者は「即断即決をしない、決め事をしない、働きたいというあなたの思いを伝える」ことが大切です。

 

●社会ができること

 がんと就労は、企業だけが責任を背負えばよいのではなく、医療側にもすべきことが多いことが調査から見えてきます。「薬物療法による副作用」などは、看護師や薬剤師などがこまめにひろいあげを行い、適切な支持療法へ早めの段階からつなぐことで軽減できるものがあります。例えば、手がしびれるような副作用があるときには「手足がしびれるような感覚がしますから注意してください」ではなく、「しびれるので、パソコンの入力作業やマウスの操作に違和感を感じることもあるかもしれません。仕事の量を少し減らしてもらうなど、1日にできる作業量がわかるまでは様子をみてみましょう」など、「できないこと」ではなく、「対処方法」を教えることが大切です。

 こうしたリソースを一番もっているのが医療機関だと思いますが、患者調査の結果からは、半数の人が働くことへの助言をもらっていないことが分かっています。

 実は、看護師の配置基準は、昭和23年の1:30から基本的には変更されていません。入院中は看護師さんに出会えても、外来になると看護師さんの姿を診察室で見かけなくなります。患者は、看護師さんの姿を見かけても、とっても忙しそうで声をかけるのをためらいがちです。でも、看護師、そして薬剤師などの助言は、患者にとって、大きな支えになります。「いますぐに決めなくても大丈夫ですよ。働きながら、@@さんのこれからを少しずつ考えていきましょうよ」、「薬の副作用は・・・、お仕事をされるときは・・・配慮してみるといいですよ」と、もっと患者の生活背景に応じた治療の説明をしてもらえると、生活のモデル、イメージが浮かんできます。それは患者の生活を支える大きなヒントになります。

 また、企業側は、「価値観が変化した」、「職場に迷惑をかけると思った」という精神的な部分を支援することも大切です。

 私はよく、「復職支援は三・三・七拍子で」と伝えています。復職から三週間は、「@@さんと一緒に働きたい、そのための環境づくりを一緒に考えていきましょう」という気持ちを人事はきちんと伝え、互いに信頼関係を築くから始めてください。こまめなコミュニケーションを心がけ、「働く勘」や「生活習慣」を整えましょう。「無理をするな」と簡単にいうのではなく、「あなたの身体が心配だから、無理をしないで欲しいと思っている」と、あなたの感じていることを省略せずに伝えてください。「無理をするな」という結論だけだと、辞めろといっているのだという誤解を得やすいです。ボタンの掛け違いが一番起きやすいのが、「三・三・七拍子」の最初の「三」です。

 次の三カ月間も「いつまでに」とか「かならずこの仕事を終わらせる」などの決まり事はつくらず、疲労の度合いや作業環境の居心地などについて、本人の意向を聞きながら「ベターな働き方が何か」を探していきましょう。失敗をしたときは、改善をしていけばよいのです。患者自身も今までできていたことができなくなっていて、とっても心がツライ時期がこの三カ月です。失敗を叱るのではなく、「どうすればできるのか」を一緒に考えて模索してみましょう。

 そして「三・三・七拍子」の七、7カ月が経過しました。この頃から、少しずつ、「新しい働き方」のイメージがお互いに浮かび上がってきます。でも、患者はまだまだ不安定です。「早くばんかいしなくては」と焦りを感じています。イメージはどんどん変わりますから、新しい働き方を少しずつ、「なま温かい目」で見続けてみてください。そして、患者さんの「モチベーション」も確認をしてください。価値観が変わった患者にとっては「与えられた仕事をただこなす」ことだけがゴールではありません。「役に立つ仕事」がゴールかもしれません。「ゴール」を患者さんと共有してください。

 「復職支援は三・三・七拍子」、できれば、1年間程度はあたたかく見守ってほしいと思います。

 

●大部屋コミュニティーの大切さ、仲間から学ぶことの多さ

 私が入院した10年前は、手術入院は2~3週間ほどありました。抗がん剤も希望すれば入院をすることができました。手術が終わった後、少しだけ周囲を見渡す心の余裕ができたとき、入院中に知り合ったがん患者仲間から、医療費の確定申告や高額療養費などの経済支援制度、周囲への報告の仕方やコミュニケーションの取り方、親や子どもへの伝え方などのヒントを、教えられたり、相談できたりしました。

 私は利き手の右腕に浮腫という後遺症がありますから、パソコンのマウスのサイズや機能にはとてもこだわっています。また右肘(ひじ)は必ず机の上におけるパソコンの向きに注意をしたり、肘のせなどを活用したりしています。副作用や後遺症をゼロにすることはできなくても、こうした工夫をすることで、だいぶ違ってきます。私は、これらの工夫を、同じ患者さんから教えてもらいました。

 

 この「大部屋コミュニティー」に支えられたことはたくさんあります。しかし、今は病気をした後の新しい日常生活(New Normal-life)のイメージが獲得できず、パジャマを着たまま社会へ放り出されているのが現状です。

 最近では、病院内や病院の外で、患者同士が集まることができるサロン(患者さんが集まれる場)があります。私が代表を務める一般社団法人CSRプロジェクトでは(http://workingsurvivors.org/別ウインドウで開きます)、毎月第2番目の木曜日、夜7時から東京駅の日本橋口側で患者サロン(サバイバーシップ・ラウンジ:http://workingsurvivors.org/job.html別ウインドウで開きます)を開いています。夜の患者サロンなので、仕事を終えた会社員の方、求職や休職中の患者さんが多く集まってきます。男性も多く参加をしています。就労支援はひとりで考えていてもなかなか答えが見つかりません。模擬面接や、上司への話し方トレーニング、思いっきりの愚痴。涙あり、笑いありで、集まっています。

 また、東京へ来ることが難しい地方の方や入院中の患者さん向けには、毎月第一番目の火曜日の夜と、第三番目の土曜日の昼間に、無料の電話相談をしています(http://workingsurvivors.org/secondopinion.html別ウインドウで開きます)。一人の持ち時間は50分間、がんを経験した社会保険労務士やソーシャルワーカー、人事、ピアサポーターが2人でお話しを聞いています。仕事の探し方や面接の受け方、仕事の調整の仕方など、様々な相談に対応をしています。サロンも電話相談も、全て事前予約制になっていますが、どうぞ活用してください。

 電話相談では、家族の方、がん以外の難病の方からも相談をお受けしています。親しい人だからこそ言えないこともたくさんあると思います。でも、みなさん、「働く」という共通テーマで悩まれています。どうぞ、相談をしてみてください。

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 私たちの団体では、ほぼ毎年、患者調査をいうものを行い、「がん患者白書」として発行をしています。そのテーマは就労や家計、婚姻やひとり親家庭の多さなど、対象はおひとり様、非正規雇用、配偶者、経営者など様々です。知りたいこと、伝えたいことは、がんになった後の生きづらさや生活の変化に関することです。

 この連載では、特に「がんと就労」をテーマに、調査結果から見えてくる患者さん、家族、私がであってきた声なき声を明らかにし、皆さんに少しだけ考えてもらう材料を提供したいと思います。

 次回は、病気になった後の働き方を考える上でとても大切な「患者力」について紹介をします。

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<アピタル:がん、そして働く・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。