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糖尿病の病名は、ブドウ糖が尿に漏れ出ることから名付けられ、医学の進歩によって、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)の上昇が疾患の本質であることが判明しました。ところで、ブドウ糖をなぜ「ブドウ糖」と呼ぶのか、みなさん、ご存じでしょうか?

 

結論から言えば、別になんのひねりもありません。果物のブドウにたくさん含まれているからブドウ糖と呼びます。私は、中途半端にしかものを知らなかったので、「ブドウは果物だから、ブドウに含まれる糖質はブドウ糖ではなく果糖だろう」と勝手に誤解していました。しかし、果実に含まれる糖質の組成は果実によって大きく異なるのだそうです。

 

小宮山ら(1985)によれば、果実は糖質の組成によって、ショ糖型、ブドウ糖型、果糖型、等量型などに分類できます。ショ糖型はカキ・モモ・バナナ・アンズ・クリ、ブドウ糖型は、オウトウ(さくらんぼ)・ウメ、果糖型はリンゴ・ナシ、等量型はイチゴ・メロン・ブドウ・温州ミカン・トマトがあります。ブドウはブドウ糖型じゃないんですね。とは言え、ブドウにもちゃんとブドウ糖が含まれています。

 

ブドウ糖のことを英語ではglucose(グルコース)と呼びますが、grape sugar(グレープのシュガー、つまりブドウ糖)という別名もあり、これが日本語の「ブドウ糖」の語源になったのでしょう。学術的にはgrape sugarという言葉はほとんど使いません。ですが、1881年のScience誌にグルコースとブドウ糖についての論文がありました。その論文によると、当時の商慣習では、固体状の産物をブドウ糖、シロップ状のものをグルコースと呼んでいたようです。固体でもシロップでも化学的には同じものです。

 

ブドウ糖の語源として「化学式の形状がブドウの房に似ているから」という説もあります。たしかに表記によってはブドウの房に似てないこともありません。

図:(フィッシャー投影法で表したD-グルコース)

https://en.wikipedia.org/wiki/Glucose別ウインドウで開きます

 

1881年にすでにブドウ糖grape sugarという言葉が一般に定着している一方で、ブドウの房に似た表記法(フィッシャー投影式)がはじめて使われたのが1891年です。いろいろ調べてみたところ、1747年に世界ではじめてブドウ糖が単離されたのですが、レーズン、つまり干しブドウから抽出されています。やはり、ブドウ糖の語源は「ブドウにたくさん含まれているから」が正しく、「化学式の形状がブドウの房に似ているから」は後につくられた俗説だと思います。

 

<参考文献>

小宮山美弘ほか、果実類の熟度と貯蔵条件に基づく糖組成の特徴、Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi Vol.32, No.7, 522~529 (1985)

Wiley WH., THE ROTATORY POWER OF COMMERCIAL GLUCOSE AND GRAPE SUGAR. A METHOD OF DETERMINING THE AMOUNT OF REDUCING SUBSTANCE PRESENT BY THE POLARISCOPE., Science. 1881 Aug 20;2(61):393-5.

https://en.wikipedia.org/wiki/Glucose別ウインドウで開きます

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E6%8A%95%E5%BD%B1%E5%BC%8F別ウインドウで開きます

 

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。