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 今までは任意予防接種だったB型肝炎ワクチンが、今年10月から定期予防接種になります。対象者は2016(平成28)年の4月以降に生まれたお子さんで、0.25mlを3回接種します。初めの2回を約4週間あけて打ち、初回から20~24週間あけて3回目を打つというスケジュールで、1歳になるまでに終わらせます。(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905750-Kenkoukyoku-Kanentaisakusuishinshitsu/0000117609.pdf別ウインドウで開きます )。

 今回は、B型肝炎とワクチンのお話です。

 

 まず、B型肝炎ってどういう病気でしょう。

 B型肝炎ウイルスは、血液や体液を介して感染します。性行為や注射の針の使い回し、出生時の母子感染などが主な感染経路です。B型肝炎には、大きく分けて、一過性の感染で終わる場合(一過性感染)と、ほぼ生涯にわたって感染が続く場合(持続感染)があります。持続感染者のことをキャリアといいます。

 出生時や、乳幼児期、特に3歳以下に感染すると、持続感染に移行しやすいといわれています。B型肝炎は全世界で3億5000万人のキャリアがいると言われ、日本では現在約100万人のキャリアがいると推定されています。

 

 一過性感染の場合、多くは自覚症状がほとんどない不顕性感染で終わりますが、2~3割ほどは急性肝炎を起こします。急性期の症状としては、全身倦怠感(けんたいかん)、食欲不振、悪心(気持ちが悪くなること)・嘔吐などがあり、特徴的な症状はありません。次に黄疸(おうだん)が出たり、肝臓が腫れたり、腫れている肝臓あたりの鈍い痛みや、叩いた時に痛いという症状が出ることがあります。感染した後にB型肝炎ウイルスが体から無事に排除される場合と、肝臓の中にウイルスが残って持続感染に移行する場合があります。

 持続感染の場合は、10~15%は慢性肝炎になり、そのまま無治療だと肝硬変、肝臓がんといった命に関わる病気を引き起こすことがあります。肝臓は症状が少なく、慢性肝炎は自覚症状がほとんどないので、定期的に検査を受けなくてはいけません。

 

 日本ではこれまで、出生時の母子感染防止策として、妊娠初期の血液検査でお母さんがキャリアと分かった場合に、生まれた子に対してワクチンや免疫グロブリンの注射をしていました。また、感染リスクの高いB型肝炎キャリアの人と同居する人、職業上体液を扱うことの多い医療従事者、警察官、消防士などもワクチンを打っていました。そして年に一回、健康診断を受けて抗体が低下していないことと抗原がないこと(つまり感染していないこと)を確認していました。

 しかし、保育園の園児と保育士の間で集団感染した例や、母以外の家族からの感染も、少数ですが報告されています。キャリアの人の唾液、尿、汗、涙といった体液からもウイルスが排出されている、という報告もあります(http://jid.oxfordjournals.org/content/206/4/478.long別ウインドウで開きます =B型肝炎キャリアのヒトの涙をマウスに注射したところ、感染が成立した。ただし経口投与では、感染は成立しなかった、という研究報告)。

 今年はオリンピック・パラリンピックの年ですが、体が激しく接触するスポーツでの感染を危惧する専門家もいます。もちろん、B型肝炎ウイルスは、ある程度の量がないと感染しませんから、くしゃみ、咳、抱擁、食器やコップの共用といった日常的な接触では感染の心配はありませんが、やはり、すべての人がワクチンを打って抗体を持っていた方がいいでしょう。こうしたことをふまえて、B型肝炎の予防接種が、今年から定期接種になりました。

 

世界のB型肝炎ワクチンの実施状況(2014年)

 (地図の出典:Preventing Perinatal Hepatitis B Virus Transmission: A Guide for Introducing Hepatitis B Birth Dose Vaccination ISBN: ISBN 978 92 4 150983 1)

 

 2016年4月より前に生まれたお子さんは、自費になってしまいますがやはりB型肝炎ワクチンは打っておいたほうがいいでしょう。10歳を超えている場合、一回の量が0.5mlで打つ間隔は同様です。私の長女も以前に0.5mlを打ちました。次女も自費で0.25mlを3回接種しています。

 現在でも日本では100人に1人がキャリアだし、海外との交流も増えていますからね。子どもはこれからスポーツをしたり、多数の人達と接触をしたりする機会を多く持つ人達です。将来、生殖活動もするでしょう。この機会に、1歳未満のお子さんだけでなく、上のお子さんも、体液を触る機会のある大人もB型肝炎ワクチンを受けてはどうでしょうか。

 

 先進国では衛生状態や栄養状態が良くなり、治療法もたくさんあることから日常生活で感染症と接する機会が減りました。「なんでも自然が一番」、「ワクチンだと抗体がつかないことがある、だから周りから病気をもらって育つほうが丈夫な子になる」という人も増えているように感じます。しかし、アンチワクチンを唱える人達はまちがっています。医療の目的は、単に抗体を身につけることではなく、ひどい病気をしないことです。感染してしまってからでは、治療するのがとても困難な病気を、事前に防ぐのが目的です。

 

 予防接種法は、数年に一度改正されています。次に日本で定期予防接種になるのは、おたふくかぜではないかと言われています。WHOの資料を見ていると、ロタウイルスかもしれません。髄膜炎菌も恐ろしい病気を引き起こすため、定期予防接種に入っている国もあります。こうした動向にも、ぜひ気を配ってみてください。

 

◇次回は、9月19日(月)に掲載予定です。

 

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はさくらが丘小児科クリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。