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 初めまして、田辺有理子です。私は看護師で、今は横浜市立大学医学部で看護の教員をしています。このコラムでは、医療・介護・福祉の日常を題材に、患者や家族のほか、現場で働く人にも役立つ「アンガーマネジメント」を紹介していきます。

 

 医療・介護・福祉の仕事は人を援助するいわゆる対人援助職で、援助を必要とする人の役に立ちたいという思いで働いています。ところが、患者や利用者やその家族のなかには、理不尽な要求や暴言、暴力などをぶつけてくる人がいて、職員が疲弊してしまうことがあります。

 病院に行く人の多くは、何かしら身体の不調や病気を抱えています。それなのに診察までの待ち時間は長いし、治療には痛みや苦痛が伴うこともあります。入院となれば、生活や仕事の制約もあり、思い通りにならないことばかりです。そのようなストレスを医療者へぶつけてしまうことがあります。

 しかし、これは病院だけのことではなく、介護施設や福祉施設、訪問サービス、あるいは家族による介護など、さまざまな状況において生じる可能性があります。安全な医療や療養環境を提供するためには、患者や利用者からの暴言・暴力・理不尽なクレームなどへの対策が求められます。

 一方で、医療者や介護者のほうが感情的になってしまう危険性があります。煩雑な業務、求められる高度な技術、救急時の緊張感、人の命を守る仕事は心身に大きな負担がかかります。忙しくて余裕がないときストレスがたまったとき、それを患者や利用者に向けてしまう場合があるのです。

 イライラした様子で忙しそうにしているスタッフに対しては、患者も利用者も同僚さえも近寄り難く、ちょっと頼みたいことがあっても躊躇してしまいます。そのような表情や態度が周囲を不快にさせ、対応によってはクレームにつながってしまう可能性もあります。医療者や介護者側には、接遇や倫理などの向上が求められます。

 このような問題を考えるときに、共通する課題として挙げられるのが感情の扱い方です。特に、人と人とが関わるなかでは、怒りやイライラへの対処が重要なカギとなります。そこで役立つのがアンガーマネジメントです。

 

 アンガーは「怒り」という意味で、アンガーマネジメントは、怒りやイライラを知って上手に対処するための方法です。1970年代からアメリカで発展してきました。日本においても、子育てや教育現場、企業研修などで活用されています。医療や介護、福祉の分野においては、特に虐待防止、接遇、倫理などの課題、あるいは職員のメンタルヘルス対策などにアンガーマネジメントを取り入れた研修が増えているようです。

 様々な感情のなかで、怒りは扱いが厄介なことがあります。勢いにまかせて怒鳴り散らして、後で言い過ぎたと落ち込んでしまう。理不尽な要求や不当な叱責に対して言い返せずに、ムシャクシャした気分を引きずってしまう。きっと多くの人は、大なり小なり怒りで失敗した経験があるでしょう。

 アンガーマネジメントを学ぶと、自分の感情と上手に付き合えるようになります。怒りっぽい人は、不要な怒りに振り回されることがなくなります。勢いで怒鳴ってしまう人は、ほんの数秒間反応を遅らせるだけで冷静に言葉を選べるようになります。嫌な気分を引きずってしまう人は、感情をリセットする方法を準備しておくと気持ちを切り替えられるようになります。ただし、いざというときには怒ることも必要で、必要に応じて上手に怒ることができるようになります。そして、自分の感情と上手に付き合うことができると、周囲との人間関係も円滑になります。

 

 私自身を振り返ると、子どものころは楽しいことも嫌なことも素直に表現していたのに、いつの間にか感情にフタをして、我慢と忍耐でやり過ごすようになっていました。知らず知らずのうちに、怒りを表出するのは未熟なことという考えが刷り込まれていたのかもしれません。とはいえ、うまく発散できずに、ストレスやイライラが溜まって、関係のない人に八つ当たりしてしまうという悪循環でした。

 日々の生活や仕事のうえで、辛いこと、嫌なこと、理不尽なことはたくさんあって、そうした現実を容易に変えることはできません。でも、怒ってはいけないのでなく、怒りの感情をうまく付き合っていけばよいのだと知って、とても気持ちが軽くなりました。どんな感情も自分にとって大事なものだと気づいたことで、嬉しいとか楽しいという感情も鮮やかに感じられるようになったような気がします。

 

 これから、イライラ事例を通して、いきいきと働き日常を過ごすためのヒントをお伝えしていきたいと思います。次回は、ストレスと怒りについてです。

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編集部から

 田辺有理子さんの本が8月31日に出版されました。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv別ウインドウで開きます

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<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

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アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。