[PR]

 最近読んだ雑誌のコラムで、ある有名人が、成長ホルモンの「ゴールデンタイム」のことを書いていて、ビックリしました。

 午後10時から午前2時までの「ゴールデンタイム」に睡眠をとっていないと、成長ホルモンが出ないらしいから早く寝るという話でした。「ゴールデンタイム」に眠っていると、成長ホルモンが多く分泌されるから免疫力が上がる、肌のシミ・シワ予防になってきれいになる、ダイエットの効果が上がるという説があるのはご存知ですか?

 私も10年以上前に、職場のナースから聞いたことがあります。「子どもが成長ホルモン補充療法をしているから、私も少し打っちゃおうかな」と冗談めいて話してましたが、「不足しているわけではない成人が打ったら過剰症になっちゃうんじゃないの?」と私は答えました。

 

 「ゴールデンタイムは嘘で、入眠直後の3時間が大事」「いや実は午前0-2時が大事」「夜中にめざめてしまう場合は注意!」「子どもにはやっぱりゴールデンタイムがある」など、様々な説があります。

 実は、「ゴールデンタイム」というものは誤解から広まった情報で、そういうものはありません。さらに、成人男性は入眠時に成長ホルモン濃度が上昇しますが、成人女性は日中の覚醒している時にも何回も成長ホルモン分泌のピークが来るんです。そしてさらに、まとまった睡眠を取っても、分割して取っても、眠りが妨げられたあとの再入眠をしても、成長ホルモンは分泌され1日の量は一定だと多くの研究者が言っています。詳しく知りたい方は、神山潤著『睡眠の生理と臨床』(2015, 診断と治療社)に詳しいですよ。

 

 赤ちゃんの場合はどうでしょう。赤ちゃんは多相型睡眠と言って数時間おきに寝たり起きたりを繰り返します。生後3-4ヶ月になると、起きる・寝るの日内リズムができます。

 夜泣きは、生後3ヶ月から増え始め、5-8ヶ月がピークで3歳ごろまでにほとんどの子が収まります。上記の本には生後3-4ヶ月頃から睡眠時に成長ホルモンが出るようになり、4-6歳を過ぎると入眠期に多量に分泌されるという文献が引用されています。つまり、子どもも眠れば成長ホルモンが出るのです。そうだとすると、お昼寝をしていれば、夜の睡眠は少なくてもいいということになりますね。

 

写真・図版

 夜、早く寝かせないといけないとは思っているのに、子どもがなかなか眠ってくれないという悩みを持つ親御さんは多いです。外来でも「寝てくれません。どうしたらいいでしょう?」という相談をよく受けます。ネットでも保育園に預けた子どもがしょっちゅう風邪をひくのは、自分が早く寝かせられないからだと、自分を責めるお母さんの話を読んだことがあります。

 子どもが保育園から帰ってきて、食事してお風呂に入れて歯を磨いて…とやっていると、どうしても就寝時間が遅くなることもあります。でも、過度に心配しなくていいと思います。

 もちろん、睡眠不足は健康に良くありません。充分に眠れないと疲れて、注意力・記憶力の低下、気分障害やイライラなどで本人は辛い。子どもであっても周囲が困るような問題行動の原因になります。将来的に、肥満やメタボリックシンドロームのリスクも上がります(藤村裕子ら, 2013. 10. 小児科臨床)。

 でも、「◯時までに寝かせないと体が弱い子になる」「キレる子になる」「背が伸びなくなる」という説は医学的証拠のあることではありません。乳幼児の就床時刻は1980年から2000年までどんどん遅くなりましたが、警察庁の発表する少年犯罪は検挙数・人口比とも低下の一途をたどり右肩下がりです。

 発達に何か問題のある場合、元になっている疾患のために睡眠障害が起こることがあります。もし、乳児健診などで何か指摘されたり、保育園・幼稚園で問題行動があったりするお子さんが、よく眠れない場合は小児科で相談しましょう。改善する手立てがあるかもしれません。決して、保護者が適切に寝かせないから発達障害になるのではありません。それは原因と結果が逆です。

 どうしたら寝てくれるかは、特効薬がないのでなかなか難しいですね。日本を含めたアジア圏は親子が一緒に眠ることが多いのですが、子どもが寝付くまでそばにいたり、泣いたら授乳をしたりするのは、子どもの側から見れば「眠れないでいると親の関心を引くことができる」「寝付くには親の手助けが必要である」ということを学習する機会になっていると書いてあるものがありました。

 ぐずったり、夜泣きしたりした時になだめる親の行動が、逆に睡眠問題を維持増強させるというのです。0-6時の間に3回以上目が覚めたり、寝付きにくくかつ一人で寝付かない様子が見られたりする子の母親は、そうでない子の母親よりも、寝付くまでそばにいる割合が高いそうです(羽山順子ら, 2008. 5. 日本公衆衛生雑誌)。

 昼寝させすぎないようにする、日中に活動的にするといった工夫は、夜泣きに困っている方はもうやっていますね。就寝前に入浴、着替え、歯磨きなど決まった行動を決まった手順で行う、同じ時間に寝かせるようにする、子守唄やトントンする、いろいろなことをトライしても寝てくれないことはあります。一通りやってダメなら、一人で寝かせる訓練をするというのはどうですか?

 そばにいても寝ないなら、明るい顔で「じゃあ、おやすみ」と言ってご自分は残った家の仕事をやると割り切ってもいいと思います。

 ◇次回は、10月3日(月)に掲載予定です。

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はさくらが丘小児科クリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。

こんなニュースも