[PR]

 通常のがん治療を補ったり、代わりに行ったりする、がんの「補完代替療法」の一つである音楽療法の臨床試験の報告数が増えているという話を前回しました。その補完代替療法について、先日横浜で開かれた、第54回日本癌治療学会学術集会で講演する機会がありました。

 

 「成熟社会におけるがん薬物療法」というテーマのシンポジウムで、補完代替療法のリスクとベネフィットについて講演することになっていました。補完代替療法がやり玉に挙げられ、袋だたきに遭うのではないかと、内心ビクビクしながら、当日会場に向かいました。しかし、ふたを開けてみれば建設的なディスカッションとなりました。非常に多くのがん患者さんが、補完代替療法に興味や関心を持っていたり、実際に利用していたりするにもかかわらず、診療にあたる医師には、補完代替療法の知識が不足しているという実態を紹介しました。

写真・図版

 

 医師に補完代替療法に関する知識が不足しており、実践もされていないことについては、古いデータになりますが、2003年に調査結果が報告されています。漢方以外の健康食品・鍼・アーユルベーダ・断食療法などの補完代替療法についての報告です。

 恐らく、このような状況は、現在もほとんど変わっていないと思います。その理由のひとつとして、日本の大学医学部では、補完代替療法に関する教育が、カリキュラムに組み込まれておらず、系統的に講義を受けることができないという事情が考えられます。

 しかし、海外に目を向けると、補完代替療法は多くの大学医学部で講義が行われています。

また、この連載で、ちょうど一年ほど前に、世界医学教育連盟が定めた医学教育における国際基準の中に、補完代替療法が教育プログラムに組み込まれていることも紹介しました。

 

医学教育で求められる『補完医療』[2015年11月18日](http://www.asahi.com/articles/SDI201511192659.html

 

 その背景には、近年、補完代替療法の分野において、人を対象とした臨床試験が積極的に行われ、その研究結果が数多く報告されていることがあります。

そして、治療法の有効性をもっとも正確に検証するための方法として実施されるランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)の報告件数も、近年、飛躍的に増えてきています。

各種補完代替療法に関するRCTの論文報告数をグラフで示します。

写真・図版

 

 かつては、補完代替療法の分野は、臨床試験が行われていなかったため、医療者に「知識がない」という状態でも、臨床現場で特段困るようなことはなかったと思われます。しかし、ランダム化比較試験の結果が、これだけ報告されてきているのであれば、知らないでは済まされず、また無視もできない状況になってきています。

 そのため、日本癌治療学会という日本で一番大きな癌領域の学会で講演する機会になったのだと、個人的には解釈しています。

もちろん、ランダム化比較試験で有効性が証明されたからと言って、その補完代替療法を実施しなければいけないというものではありません。また、ランダム化比較試験を実施した結果、有効性が証明されなかったという報告もあります。

 ただ、「補完代替療法は効くのか効かないのか分からない」という状況は、徐々に過去のものになりつつあると言って差し支えないと思います。

どの補完代替療法が、どのような症状をもった患者さんに、どれくらい効くのか(あるいは効かないのか)を見極めつつ、利用するかしないのかの意思決定をおこなうことが、医師に求められてきているのです。

 

<アピタル:これって効きますか?・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku/(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 大阪大学大学院准教授

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。現在は緩和ケアチームで癌患者の診療に従事。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。