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 糖尿病は、健康診断で正常と糖尿病の間の「予備群」と診断されても症状がなく、もし糖尿病が発症してもすぐ合併症が出ないため、生活の改善を先送りしたり、治療を中断したりする人が多くいます。日本糖尿病学会専門医・指導医で、船橋市立医療センター代謝内科部長の岩岡秀明さんに、私たちに忍び寄る糖尿病(2型糖尿病)やそのリスク、糖尿病になるリスクが高い生活の見直し、失敗しないための賢い医療機関へのかかり方についてインタビューしました。1回目は、「糖尿病予備群から怖い合併症えのきとしめじ」です。(聞き手・岩崎賢一)

 

 

 糖尿病の合併症には「しめじ」(神経障害、網膜症、腎症)が知られていますが、実は、一番怖い合併症はえのき(えそ、脳梗塞、狭心症・急性心筋梗塞)です。「しめじ」は、糖尿病に特有の三大合併症ですが、糖尿病が発症してからゆっくり出現しますのでまだいいのです。命に直結する合併症としてもっと怖いのは、「えのき」の方です。わかりやすく言えば、動脈硬化症です。動脈硬化症は、糖尿病でなくても、高血圧、脂質異常症、喫煙、肥満の人におこります。ですから、動脈硬化症は糖尿病特有の合併症ではありませんが、糖尿病ではより起こりやすくなります。

 したがって、明らかな糖尿病と診断を受ける前の、正常な人と糖尿病の人の中間である「境界型」と言われる糖尿病予備群の人たちは、心臓病のリスク管理が一番大事になります。狭心症、急性心筋梗塞のリスクは正常な人の2倍だからです。ですから、医師に「あなたは境界型ですよ」「糖尿病予備群ですよ」と言われたら、まず心臓病が一番怖い合併症になります。

 「き」の狭心症は胸が痛んだり苦しくなったりする病気ですが、今は急性心筋梗塞も含めて一連の病態として、急性冠症候群(ACS、アキュート・コロナリー・シンドローム)といいます。欧米人だけでなく日本人でも、心臓病を防ぐことが糖尿病の一番の課題になっています。糖尿病では、合併症の心臓病で亡くなる人が多いからです。血圧や脂質は、薬で比較的簡単に下げることができますが、ヘモグロビンA1c(HbA1c)を6.9%以下(赤血球の中にあるヘモグロビンのうち、ブドウ糖と結合しているヘモグロビンの割合で、過去1~2カ月の平均血糖値を表す指標です)に保つのが難しいのは、強い薬を使うと低血糖を起こしてしまうからです。良好に血糖をコントロールするのは、なかなか難しいです。私たち糖尿病専門医を受診している患者でも、6.9%以下に保てているのは、4~5割です。低血糖を起こさないように上手に薬をつかって、かつ食事療法と運動療法を行わなくてはいけないからです。

 「え」は、えそのことで、足の閉塞性動脈硬化症です。足が腐ってしまう病気で、血行障害と神経障害による傷からばい菌が入って腐ってしまいます。日本でも、下肢切断の原因で一番多いのは、糖尿病です。この合併症は、動脈硬化症がある程度進行してからの話になります。動脈硬化症は、喫煙でも血管が詰まりやすくなりますので、禁煙も重要です。

 「の」は、脳梗塞です。脳梗塞は、高血圧と糖尿病の人が起こしやすい合併症です。

 

境界型や予備群は何をすべきか

 「あなたは境界型ですよ」「糖尿病予備群ですよ」と言われたとき、何をすべきかというと、①喫煙をやめること②血圧が高い人は血圧を下げる薬を飲むこと③コレステロールが高い人は下げる薬を飲むこと④食事指導と運動指導を受けて体重を減らすこと、の4つが挙げられます。

 しかし、境界型や予備群と言われると、「まだ糖尿病じゃないんだ」と安心してしまっている人がいます。糖尿病に詳しくない医師だと、受診しても「1年後に受診を」と言うこともあり、患者本人も安心してしまいます。境界型だからといって、1年に1回の受診ではだめです。境界型、予備群でも、「えのき」をおこすリスクファクターは治療を始めなければいけません。つまり、血糖コントロール以外は医師の指導のもと介入を始めないといけません。

 これは長生きするコツにもつながります。そして、こういう生活を5年、10年と続けられるかということです。糖尿病治療をするということは、生活習慣を変えていくということです。でも、そこが一番難しいですし、なかなかできないのが実情です。

 

糖尿病発症後に怖い「しめじ」

 「しめじ」の「し」は神経障害、「め」は網膜症、「じ」は腎症。「し」→「め」→「じ」の順番で合併症が起きます。細小血管障害と言われ、細い血管がやられてでてくる合併症で、糖尿病特有の合併症です。「しめじ」は、糖尿病が発症してから徐々に出てきます。ですから、糖尿病が発症する前は、そんなに心配はいりません。

 神経障害は、足の指先がしびれたり、びりびりしたりします。よく、「手と足からくる」と言われますが、手からくることはまずありません。足の指先や足の裏からきます。初期の症状では足がつることがあります。神経障害が出る人は糖尿病患者の半分程度と考えていいでしょう。人によって違いますが、3年後や5年後からこの合併症が出ます。

 次に「め」です。これは眼科に行かないとわかりません。

 健康診断で視力検査を受けているとか、人間ドックの眼底検査で無散瞳型眼底カメラを使って撮影していても、これでは眼底の一部しか写りません。ちゃんと眼科を受診して、瞳を開く散瞳薬を点眼して、まぶしいといいながら眼科医と向き合って診てもらわないと分かりません。網膜症は、毛細血管留という小さい血管のこぶから始まるためです。眼底出血は眼球の周辺部から始まるので、かなり眼底出血が進まないと視力に影響しません。糖尿病と言われたら、最低1年に1回は眼科に行くことが大事ですが、これは意外と忘れがちです。

 なぜ、糖尿病患者が眼科受診を面倒くさいと考えてしまうのかというと、大きな病院なら同じ病院の中に眼科がありますが、開業医が主治医の場合、別の眼科クリニックを受診しなくてはならないからです。また、散瞳薬を点眼すると、まぶしいので車もバイクも一定時間は運転ができませんから、電車やバス、タクシーで通院しなくてはいけません。そうすると、「面倒くさい」となることがあります。糖尿病の診断後1回は眼科を受診しても、2回目以降は行っていないという患者は少なくないと言われています。

 いまだに日本人の失明原因の第2位は糖尿病で、年間約3000人が失明しています。私たちは、目から大部分の情報を得ているので中途失明での生活は大変です。

 網膜症を予防するためには、血糖コントロールを良好にすることが一番大事です。失明を防ぐためには、ヘモグロビンA1cで6.9%以下にするのが一つの目標です。眼科と内科にきちんと通って治療をしていれば、失明は避けられます。

 次に「じ」です。腎症は、尿にたんぱくが出てきますので尿検査をしないと分かりません。腎臓の症状は、腎不全になって人工透析をする間近にならないと、むくみ、だるい、食べられない、おしっこが出ないといった症状は出ません。しかし、一般の内科医だと尿検査をしてくれない医療機関も多いと思います。糖尿病の患者では、毎回、血液検査と尿検査が必要です。

 

すべての患者が順番に合併症がでるわけではない

 三大合併症の「しめじ」と言っても、神経障害は出てこない人もいます。痛みやしびれがないと困らないので、実際の三合併症治療のスタートは、眼科から始まると考えてもいいでしょう。視力障害が起きてから眼科に通院するような患者は、かなり進行してしまった人です。繰り返しになりますが、初期は視力に影響がでないためです。視力低下といった自覚症状が出たため、眼科に行き、そこから私たちのような糖尿病専門医のところに紹介されてくる患者も時々います。でも、そういうケースでは、手遅れに近いこともあります。

 発症は、おおむね、神経障害が5年以内、網膜障害が10年以内、腎障害が15年以内と言われています。これも、血糖コントロールによって大きく変わってきます。コントロールが良ければ三大合併症の「しめじ」は予防できます。しかし、糖尿病を治療していく主治医が、尿検査をやってくれなければ腎症はわかりませんし、眼科を進めてくれなければ網膜症に気づかないということもあり得ます。血液検査と尿検査は毎回必要です。

 

「えのき」でも、「しめじ」でもない合併症

 「しめじ」「えのき」に入らない合併症もあります。認知症、がん、歯周病、肺炎などの感染症、これらすべてが糖尿病と関係してきます。これほど多くの合併症と関係してくるので、「糖尿病は万病のもと」と言われています。だから、血糖値を良くするということは、すべての病気にならないようにするという風に言えるほど重要なのです。

 認知症と糖尿病の関係は、これからの高齢者の間で大きな問題となっていくでしょう。また、認知症になると薬の管理も難しくなる場合があり、糖尿病治療も大変になり、血糖コントロールが難しくなります。このほか、うつ病や不眠症も糖尿病と関係してきます。糖尿病になったことで、うつ病になる人もいますが、うつ病で食生活が乱れ、血糖コントロールがうまくいかず、糖尿病をより悪くしてしまうことがあります。ED(男性機能不全)は、神経障害からくるもので、糖尿病の人はEDになりやすいとされています。

 EDが注目されがちですが、糖尿病がある程度進行して神経障害の合併症がでてこないと起こりません。初期からEDの合併症は出ません。EDの原因の半分は心理的なものです。EDになったから、すべて原因は糖尿病とは思わない方がいいと思います。思い当たる人は、泌尿器科を受診してEDのチェックをしてもらうことです。心臓病がある人は、EDの薬を飲むとかえって危険な場合がありますから注意して下さい。

 

■■糖尿病で重要な10カ条■■■

①重要な合併症は「しめじ」と「えのき」

し・・・神経障害

め・・・網膜症

じ・・・腎症

 

え・・・えそ

の・・・脳梗塞

き・・・狭心症・急性心筋梗塞

 

②重要な検査は「ABC」

A・・・HbA1c(ヘモグロビンA1c)

B・・・Blood Pressure(血圧)

C・・・Cholesterol(コレステロール)

 

③HbA1cの目標値は「平熱」

HbA1cは6.9%以下が目標値です。

平熱も6.9℃以下です。

 

④間食で要注意なものは「あがつく3つ」

甘いもの・脂っこいもの・アルコール

 

⑤空腹時血糖値の正常値は「セブン・イレブン」

70~110mg/dlが正常値です。

 

⑥生活面で重要な5つは「ABCDE」

A・・・Alcohol (アルコールは少量に)

B・・・Body Weight (体重は適正に)

C・・・Cigarette Smoking(禁煙)

D・・・Diet(適量をバランスよく)

E・・・Exercise(適度な運動)

 

⑦低血糖の症状は「はひふへほ」

は・・・腹が減り

ひ・・・冷や汗

ふ・・・ふるえ

へ・・・へんな行動

ほ・・・放置は昏睡

 

⑧がん・認知症・感染症・うつ・歯周病も、糖尿病の合併症

 

⑨早期診断でも、普段のコントロールでも「食後血糖値」のほうがより重要

正常値は食後2時間で140mg/dl未満です。

 

⑩糖尿病は、「検査と勉強の病気」

定期的な通院加療を継続して、元気で長生きしましょう。

 

※「10カ条」は、船橋市立医療センター代謝内科の岩岡秀明さん作成

 

◆2回目は、「40代が糖尿病治療を中断するリスク」(http://www.asahi.com/articles/SDI201611142376.html)についてお伝えします。

 

<アピタル:アピタル・オリジナル・医療>

http://www.asahi.com/apital/column/original/(岩崎賢一)

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)