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 冬にはやる、いわゆる「おなかの風邪」の話です。症状に注目すると嘔吐(おうと)下痢症と呼ばれますが、胃腸炎とか腸炎、ウイルス感染症ともいい、これらはみんな同じものを指します。口からある種のウイルスが入り、消化管で増えて、熱が出たり嘔吐や下痢をしたりといった症状が出ます。有名なものにノロウイルスとロタウイルスがあります。この二つについてみなさんはご存じですか。

 どちらもウイルスを原因とし、「対症療法」しかないという点で共通していますが、ワクチンで予防できるかどうかで異なります。

 

 今年もすでに各地で集団感染がニュースになっているノロウイルスは、冬から5月まで見られ、12月から1月が発生件数のピークです。ウイルスが、手や指のほか、食品を通じて口に入ることで感染します。手洗いが不十分なために嘔吐物や糞便(ふんべん)が残る手、ウイルスがついたドアノブでさえ感染経路になります。また、手指が汚染されている人が扱った食品や、汚染された二枚貝を生の状態や加熱が不十分な状態で食べたとき食中毒になります。

 感染力がとても強いのが特徴です。感染から症状が出るまでの「潜伏期間」は24~48時間ですが、12時間くらいで発症する例もあります。

 症状は主に嘔吐・下痢で、回数が多いことが特徴です。1日に10回以上ということもあります。腹痛、頭痛、あまり高くない発熱が見られることもあります。脱水になりやすく、乳幼児や高齢者は重症化しやすいので、より注意が必要です。合併症としてけいれん、脳症、腎症、イレウス、腸重積(じゅうせき)などの危険性があります。

 臨床症状だけでは特定できないので、診断をするには便にウイルスが含まれていないかを迅速診断キットを使って検査します。3歳未満と65歳以上のみ保険診療でできますが、それ以外の年齢だと自費になります。ただ、検査をしても治療は、症状を和らげる対症療法しかありません。そのため、検査キットがない医療機関も多いです。

 

 とても感染力が強いウイルスですが、どうやったら予防できるのでしょうか。ノロウイルスは、ワクチンがないので、ウイルスを口に入れないように工夫するしかありません。最も有効なのは手洗いです。調理前、食事前、トイレの後、感染者の看病や汚物を処理した後などに、指輪をしていたら外して、石けんで泡立てて、流水でウイルスを洗い流しましょう。

 また感染者の便や嘔吐したものが飛び散り乾燥して埃(ほこり)に付着すると、舞い上がった埃からも感染します。汚物処理の際は、使い捨ての手袋とマスクをすることをお勧めします。床などが汚れてしまった場合は、次亜塩素酸ナトリウム(市販の塩素系漂白剤)でひたすようにして拭(ふ)いたり、浸(つ)けたりしておくことも有効です。

 次亜塩素酸を使うときには、製品の使用方法を確認してほしいのですが、一般的には200ppmの濃度に薄めたものを使います。作り方は、5%の原液の場合、500mlのペットボトルを用意し、キャップ半分(約2ml)の次亜塩素酸を入れ、水で薄めると200ppmになります。脱色や錆(さ)びてしまうことが心配な場所には濃度が70~80%の消毒用アルコールや熱湯でもいいです。シーツなどのリネン・衣類は洗った後に高温乾燥、洗えないものには布団乾燥機を使うといいでしょう。トイレなどの汚染が強い部分はより濃い1000ppmの次亜塩素酸で拭きます。500mlの水にキャップ2杯(10ml)の次亜塩素酸を入れると1000ppmです。

 ウイルスは一般的に熱に弱いので、食中毒を防ぐには、食品を充分に加熱して食べましょう。ノロウイルスの場合は中心部分も含めて食品が85~90℃になるようにし、90秒以上加熱すると、ウイルスが死ぬと言われています。

写真・図版

 

 こうした予防対策をしても、感染してしまうことはありますよね。しかし、治療法としては、インフルエンザのように抗ウイルス薬はありません。喪失した水分の補給が主で、経口補水液や母乳、ミルクを薄めずにあげます。ある程度、吐き気や下痢がおさまって、食事が食べられそうなら、食べ慣れたものを早くからあげても構いません。離乳食からふつうの食事に進んだお子さんに、わざわざお粥(かゆ)をあげる必要はありません。

 また、水分しかあげないで食事するのを控えていると、かえって腸管の機能回復が遅くなります。ほしがる場合は食べさせてください。消化の悪い油っぽいものや冷たいものを避ければ、なんでもいいのです。飲めない、食べられない場合は医療機関で点滴したり、入院したりする場合もあります。

 

 一方、ロタウイルスは、1月ごろから出始め、ノロウイルスが下火になる3~5月ごろにピークを迎えます。大人もかかるノロウイルスとは違い、乳幼児が中心です。生後6ヶ月から2歳までの子が初めて感染したときに重症化しやすいことで知られています。

 口からウイルスが入ることで感染し、潜伏期間は24~48時間で、発症後は、主に嘔吐と下痢の症状が出ます。初日の初めの頃だけ白い便が出ます。発熱、腹痛、脱水も起こすことがあり、およそ1週間かかって回復します。まれに、けいれんや脳症といった合併症の危険性もあり、軽症の胃腸炎でもけいれんを起こすことがあります。ロタウイルス脳症は、インフルエンザ脳症、HHV-6・7脳症に次いで頻度が多く、死亡例は10%未満ですが、38%に後遺症を残したという報告もあります。

 ノロウイルス同様に少しのウイルス量でも感染力が強いのが特徴です。ヒト-ヒト感染で他に宿主を持ちません。検査は、便にウイルスがないかを迅速診断キットを使って調べます。保険適応ですが、医療機関にキットが置いていないところもあります。脱水を起こしているかどうかは、症状をまず診たうえで血液検査をすることもあります。

 

 治療法は、ノロウイルスと同じで対症療法しかありませんが、大きく違うのは、なんといってもロタウイルスワクチンという予防法があることです。ワクチンは生後15週までに開始しないといけません。2回受けるタイプと3回のタイプがあり、どちらも経口ワクチン、飲むものです。任意接種なので受けなくていいと思っている人がいたり、小児科医でもネットでも「ありふれた病気だからワクチンの必要はない」といった意見を目にしたりします。

 確かに、ありふれた感染症で、日本でも5歳までに少なくとも1回はみんなが感染します。小学校に上がる前に、半分の子がロタウイルス感染症のために外来受診をします。そして、5歳以下の子どもがかかると15人に1人が入院します。しかし、ありふれた感染症であるがゆえに、ワクチンが普及してからは、胃腸炎になる子が減り、救急外来受診数や入院数が激減しました。ロタウイルス感染症は衛生状態の良い先進国でも、よくない途上国でも平等にかかるものなので、費用対効果が高いんです。

(米国の医学誌「New England Journal of Medicine」に、ロタウイルスワクチンによって通院と入院の両方が減り、医療費が削減できたという論文が掲載されています。日本語の要約はこちらです。 http://www.nejm.jp/abstract/vol365.p1108別ウインドウで開きます

 数字はクリアで、わかりやすいからお金に換算していますが、もちろん数字の向こうには気分が悪くなったりお腹が痛くなったりして苦しむ子が減り、看病や嘔吐や下痢の後始末で大変な思いをする保護者の苦労も減ったということです。世界100カ国以上で実施され、特に先進国など20カ国以上で、ロタウイルスワクチンは定期予防接種です。残念ながらロタウイルスワクチンを受けなかった場合は、ノロウイルス感染症の予防方法を参考にして、もらわないようにしましょう。

 

 冬の「おなかの風邪」は仕方がないと思っている人もいるかもしれませんが、ワクチンを受けたり、予防法を実践したりすれば、一定の対策はできるのです。本格的な流行に入る前にご家庭などで試してみてはいかがでしょうか。

 

厚生労働省の感染性胃腸炎のページ 特にノロウイルスについて

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/norovirus/別ウインドウで開きます

厚生労働省の感染性胃腸炎のページ 特にロタウイルスについて

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/Rotavirus/top.html別ウインドウで開きます

 

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)

アピタル・森戸やすみ

アピタル・森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はさくらが丘小児科クリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(メタモル出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。