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 仕事や日常生活において、怒ることの判断基準は曖昧なものです。日常よく遭遇する出来事でも、その時々で反応や対応が異なり、ある時は怒って、別の時には受け流すことがあるものです。ささいなことに怒って、無駄にエネルギーを消耗するようなこともあるのではないでしょうか。アンガーマネジメントは、不要な怒りに振り回されず、怒る必要があるときに上手に怒ることを目指します。そのためには、怒るか怒らないかの判断基準を明確にしておくことが肝要です。

 この判断をあいまいにしている原因はいくつかありますが、その一つは「機嫌」です。

 例えば、子どもがリビングに次々とおもちゃを出してきて遊んだあとに散らかしたままにしていたとします。「お片付けしましょうね」とにこやかに声をかけ、子どもと一緒に片付けられる日もあれば、気持ちに余裕がなくて「もう! さっさと片付けなさい!」と怒鳴ってしまう日もあるのではないでしょうか。

 状況や相手によって対応が変わることもあります。よその家の子が一緒に遊んでいたら「○○くんは元気がいいのね」などと褒められたりするかもしれません。

 子どもの立場に置き換えると、どのように映るでしょうか。同じように遊んでいるのに、怒鳴られるときもあれば、穏やかなときもあるのでは、子どもは混乱します。そのうちにお母さんの機嫌におびえる子どもになってしまうかもしれません。

 怒らなければ良いわけではありません。必要なときに上手に怒るために、怒る基準を意識しておくことで、機嫌に左右されなくなるのです。「夕食の時間までに片付ける」などルールを作って同じ条件で声をかける、あるいは「一度声をかけたら30分は待つ」など自分のルールを決めておくだけでも、機嫌で怒ることを回避できるでしょう。

 

写真・図版

 場面を医療・介護の職場に移してみましょう。スタッフステーションで記録をしながら同僚と話していたら、先輩スタッフが入ってきました。普段なら「なんの話?」と会話に入ってくるのに、今回はいきなり「おしゃべりしていないで働きなさいよ!」と一喝されたとしたら、どうでしょうか。怒られたことが正当かどうかよりも「あの人、今日は虫の居所が悪いな」などと思うのではないでしょうか。これが、就職して間もない若手のスタッフだったら、子どもの例と同様に、先輩の顔色ばかりを気にするようになるかもしれません。

 ここで先輩スタッフの怒りを分析してみましょう。職場で怒る基準がその時々の機嫌に左右されるようでは、人間関係にも影響します。怒りが生じたとき、ほんの少し立ち止まってこの基準を考えてみてください。もし、業務が忙しく気持ちに余裕がない状態のところに、ほかのスタッフが談笑していたのが目に留まってカチンときたとしたら、それは機嫌に左右された怒りといえるでしょう。業務が忙しく時間に追われて焦っていたことが怒りの原因なら、スタッフが話していたことに怒るのは不要な怒りです。

 ▼参考:怒りの背後の感情をみてみよう(http://www.asahi.com/articles/SDI201611112231.html

 

 そのときの機嫌に関わらず、仕事中の私語を控えて欲しいのなら、それは一つの判断基準になります。業務の相談は怒らない、私語なら怒ると決めたら、その基準に該当した時に毎回怒れば良いのです。ここで怒ることは怒鳴ることではありません。「仕事中は私語を控えてください」と伝えるだけです。

 一方で、仕事中の私語や雑談は職場のチームワークを良好に保つために必要なことと考えている人もいます。また、話すことはかまわないけれど患者や利用者の前では控えて欲しいという考えもあるでしょう。

 

 怒りが生じたとき、それは「怒ること」か「怒らなくてもよいこと」か、その判断基準を改めて考えてみましょう。

 

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編集部から

 田辺有理子さんの本が8月31日に出版されました。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。