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 「プラセボ」って知っていますか。

 有効成分を含まない、つまり治療効果のない薬のことです。日本語では「偽薬(ぎやく)」と訳されています。

 そして、治療効果がないはずのプラセボを飲んだ場合でも、「薬を飲んだ」という心理的作用で効果を発揮することがあり、これを「プラセボ効果」といいます。ですから、臨床試験で薬の効果を検証する際には、このプラセボ効果を差し引いて、本当の意味での薬(試験薬)の効果を確かめる必要があります。

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 実際には、「二重盲検比較試験(double blind test)」と呼ばれる研究手法によって臨床試験が行われます。その際、臨床試験に参加した被験者も、臨床試験を実施している医師も、本当の薬を飲んでいるのかプラセボを飲んでいるのか分からない仕組みが必要になります。そのため、プラセボは、見た目だけでは本当の薬と区別がつかないように作られます。

 ところが、臨床試験に参加した被験者に、あえて「これはプラセボですよ」と説明した上で飲んだ場合でも、治療効果を発揮する可能性があることを示唆する研究結果が最近報告されました。[文献1]

 この研究では、慢性腰痛患者97名を対象に、事前にプラセボ効果に関する説明(15分間程度)をした後、「従来の治療のみ実施した群(従来治療群)」と「従来の治療にプラセボを追加した群(プラセボ追加群)」の2群に振り分けて、3週間後の痛みの程度(0-10点で評価)や日常生活における不便さ(身体障害に関するアンケート調査)を評価しています。なお、プラセボ追加群に渡されたボトルには、「プラセボ薬」と明記されているという徹底ぶりです。

 そして、解析に不適切な患者を除いた従来治療群42名とプラセボ追加群41名を比較検討した結果は次のとおりです。

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 なんと、従来治療群に比べてプラセボ追加群の方が、腰痛の程度や日常生活の困難度においてより改善したという結果が明らかとなりました。つまり、臨床試験に参加した被験者は、薬がプラセボであることを知りなら飲んでも、症状が改善したということになります。

 さらに、この臨床試験には続きがあり従来治療群の被験者は、最初の評価を終えた3週間後の時点からプラセボを飲み始めたところ、そのさらに3週間後には、通常の痛みが38%、最大の痛みが29%、身体障害が40%改善しているのです。

 

 しかし、この研究にも限界はあります。

論文の著者らは、今回の研究は参加人数が少ないため実際の臨床現場ですぐに応用できるかどうかはさらに検証が必要なこと、3週間という短い期間での効果を調べたに過ぎず、長期間にわたる効果は不明であることなどを今後の課題として挙げています。

 ですが、これまで「有効な薬を飲んでいる」という患者の思い込みによって起こると考えられていたプラセボ効果が、種明かしをした後でも効果を発揮するというのは個人的には驚きです。どのようなメカニズムで症状が改善したのか非常に興味があります。

 

《文献リスト》

文献1:Carvalho C, et al. Open-label placebo treatment in chronic low back pain: a randomized controlled trial. Pain. 2016 Dec;157(12):2766-2772.

[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27755279別ウインドウで開きます]

 

<アピタル:これって効きますか?・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku/(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 大阪大学大学院准教授

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。現在は緩和ケアチームで癌患者の診療に従事。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。