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 がんと診断されても、手術などを除けば、通院で治療することが多くなりました。ただし、すべての患者たちが、通院しやすい職場環境とは言えません。(アピタル編集部)

▼日本人の働き方はこのままで良い?

▼働けないなら排除する? 病気をするって迷惑ですか?

▼多様な休み方を法や制度で担保することが大切

 

●がんは迷惑? 命の心配より「迷惑をかけること」?

 内閣府が2014年度(平成26年度)に実施した調査に「がん対策に関する世論調査」があります。この調査の中で、「がんについてどのような印象を持っているか」を聞いたところ、「こわいと思わない(24.6%)」、「こわいと思う(74.4%)」となっています。前回の調査結果(平成25年1月)と比較すると大きな変化はなく、国民の75%は「がん=怖い」という印象を持っていることがわかっています。

 また、この質問で「こわいと思う」と答えた1,339人に、「がんをこわいと思う理由」を聞いたところ、その回答は、「がんで死に至る場合があるから(72.9%)」、「がんそのものや治療により、痛みなどの症状が出る場合があるから(53.9%)」、「がんの治療費が高額になる場合があるから(45.9%)」、「がんに対する治療や療養には,家族や親しい友人などの協力が必要な場合があるから(35.5%)」の順になっています(複数回答,上位4項目)。「死ぬ」ことや「治療が大変そう」だから「こわい」のはわかりますが、「家族友人の協力が必要(迷惑をかける)」だから「こわい」というのは、少し驚きます。

 この調査では「がんと就労」についても聞いており、「がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、働きつづけられる環境だと思うか」と聞いた回答は、「そう思う(28.9%)」、「そう思わない(65.7%)」と、国民の66%は「がんになったら働き続けられる環境ではない」と思っています。年齢別では「働けない」と思っている人の割合は20歳代~40歳代で高くなっています。

 上記の回答、つまり、「通院しながら働き続けられる環境と思うか」について、「どちらかといえばそう思わない」、「そう思わない」と答えた1,182人には追加して「がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、働き続けることを難しくさせている最も大きな理由は何か」を聞いたところ、「代わりに仕事をする人がいない、いても頼みにくいから(22.6%)」、「職場が休むことを許してくれるかどうかわからないから(22.2%)」、「体力的に困難だから(17.9%)」、「精神的に困難だから(13.2%)」、「休むと収入が減ってしまうから(13.1%)」、「職場での評価が下がるから(8.8%)」、となっています。

 

 まとめると、国民の7割はがんになったら働けないと思っており、その理由は、①人に仕事を頼みにくいから、②休めないから、③体力が下がるから」と言えます。これは、なかなか本音の部分がでているのではないかなと思います。

 ▼この調査結果はこちらから(http://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-gantaisaku/別ウインドウで開きます

 

●問われる日本人の働き方

 バブル期に就職した私の場合、当時3Kと呼ばれる業界がありました。それは、「建築・広告出版・コミック系(漫画家)」。当時、定時に帰れることはほとんど無く、月の残業時間は100時間を超えるのは常でした。

 

 設計競技という業務などもあると会社には泊まり込み。こうなると悲惨で、9時30分~17時30分の勤務後に、夕食を食べに行き帰社後は22時まで残業。22時から銭湯と夜食、24時から翌朝5時まで仕事。朝5時に寝袋で寝て8時に起床、朝ごはんを食べて9時30分から通常業務。こうした波は3カ月ごとにあり、3月、6月、9月、12月は地獄でした。このときの精神状態は、終電帰宅に疲れる→祝日でればいいや→土曜日でよう(日曜日休めるし)→日曜日も消失→泊まり、泊まり込み生活は年間の1~2ケ月ほどになりました。ピーク時の月の残業時間は平均250時間。

 

 作業が早い人、遅い人、社員の中には色々な人がいます。当初は残業代を時間で出していましたが、不公平感があるとの声から50時間以上の残業代は給与から外されて年俸制となり、新しい業務が入ってくると、チーム同士で残業合戦が始まりました。つまり、「これ以上仕事ができません」を残業時間でアピールします。ゆえに、ますます残業時間は伸び、こんな負のスパイラルが当たり前となっていましたし、それを「美徳」とする風潮もありました。

 

 月に150時間を超える残業が続くと、どのように感じるでしょうか? それは人間が「工場化」します。もう、仕事量を減らそうとか、転職しようとか、そういった気力や工夫を行う気持ちが全くなくなります。そんなことを考える「時間」すらないのです。「この仕事が終わったら…」と思っているうちに、次の仕事がはいってくる。そして締め切りが重なる。それでも体力はありましたし、仕事には手ごたえもあったので、「抜けなくては」と思っても、なかなか抜けられませんでした。

 

 労働安全衛生法の一部改正を受け、2015年12月から労働者が 50 人以上いる事業所では、全労働者に対してストレスチェックを実施することが義務付けられました。こうした制度がきちんと「働き方(業務量自体を減らす)」の改善につながらないと、いくらチェックをしても意味がないと思います。

 

●働き方改革は「休み方改革」であるべし。

 就労継続に影響を及ぼした背景要因の第1位は「体力低下」、第2位は「価値観の変化」、第3位は「薬物療法に伴う副作用」、第4位は「迷惑をかけると思った」、第5位は「通院時間の確保が困難」となっている。また中には職場で居づらさを感じたという回答があります。

 

 中小企業や、チーム単位で働く企業では、ギリギリの人員で業務をこなしているのが現状です。ひとりが病気などの治療のために欠けた場合、同僚の業務量はさらに負担が増していきます。こうした負担感や不公平感を減らす手段のひとつに「給与」があると思いますが、見込みがわからないと企業側も対処ができません(そのため、見通しを伝えることが必要なのです)。

 職場復帰と聞くと、同僚は、「ようやく自分たちの業務も減るはず」と思います。ところが、まだ治療や通院が必要という。自分は終電まで働いているのに、半年も休んでいたのにあの職員は定時退社。

 「なんで自分ばかり?」

 こんな些細な不公平感がやがて広がっていくと、その会社の働き方のペースに合わない、合わせられない社員は脱落をしていきます。「迷惑をかける→退社→やむを得ない」という負のスパイラルが離職の背景にはあります。

 

 

 下図のように、がん患者の心と身体の変化を調べてみると、告知後に落ち込みやすい人のリスク因子として「休み方がわからない人」がありますから、日頃から地域活動に参加をしたり、趣味を持ったりするなど、余暇時間の自分なりの過ごし方を見つけておくことが、がんによる落ち込みを回避することにも実はつながるのです。

 

 

 欧州などへ旅をすると、週末はデパートを含めた全ての店舗が一斉に休業していることがあります。働く時間の競いあいをしている日本とは本当に趣が違います。

 働き方改革の議論がスタートしていますが、私は、「働き方改革は休み方改革」だと思っています。体力や価値観、人生の都合ごとに対して、「多様な休み方」が選択できる社会を私たちは考えていかなければならないのではないしょうでしょうか?

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<アピタル:がん、そして働く・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。