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 【学生A】 さっきは、まじヤバかった。

 【学生B】 だね。あの人ヤバくない?

 【学生C】 私、かなりヤバかった。

 

 医師や看護師、薬剤師、作業療法士、理学療法士、そのほか様々な医療系資格を取得するために、日々病院で実習をしている学生がいます。そんな20歳前後の若者たちのあいだでは、時々私には理解できない会話が飛び交っています。何が、誰が「ヤバい」のか、これを翻訳してみると以下のようになります。

 

 【学生A】 さっきは、まじヤバかった。

  → さきほどの話し合いは、本当に勉強になったよね。

 【学生B】 だね。あの人ヤバくない?

  → そうだね。今日の担当者さんは素晴らしい方だったと思わない?

 【学生C】 私、かなりヤバかった。

  → 私、ご指導いただいた言葉に感動して泣きそうになっちゃった。

 

 私が関わっている学生が誤解を受けるといけないので補足しますと、この会話は特定の場面でなく、大学・専門学校にかかわらず、最近よく耳にする学生の表現を組み合わせています。「このお菓子がすごく美味しい」「あの人がかっこいい」「(私が)感激した」など、ほとんどがこの一言で通じます。

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 「ヤバい」は本来、危ない、あるいは悪事が暴かれそうになったときの表現ですが、最近は「すごい」や「魅力的」という意味も定着してきました。学生を指導する立場で聞くと、トラブルでも起きたのかと肝を冷やしますが、当人たちはいたって真面目に学びを分かち合っているのです。

 良いことにも悪いことにも、また出来事にも他人にも自分にも使えてしまう言葉は、考えようによっては便利です。しかし、その一方で、同じ言葉を繰り返すだけで会話が成立するようになれば、表現力は低下します。座学では学べない病院という現場での体験や悩み、あるいは感動を、もっと豊かに表現できないものかと、別の心配も出てきます。

 日々言葉の意味が変化し、新しい言葉も出て、年末になれば「新語」「流行語」などのランキングを目にする機会もあります。文化庁が毎年実施している「国語に関する世論調査」によれば、情報の取得手段として携帯電話やスマートフォンが増加しており、特に20代の情報源はテレビよりもスマートフォンのほうが高くなっています。コミュニケーションの方法も固定電話から携帯電話やスマートフォン、そして電子メールなどの文字でのやりとりに置き換わりつつあります。情報の取得が便利になる一方で、メールやパソコンの予測変換機能に慣れて、語彙(ボキャブラリー)が退化してしまうことも危惧されます。

 

 これは、怒りの表現にも当てはまります。代表例は、「うざい」と「ムカつく」です。もともと日本語には怒りを表現する言葉がたくさんあります。怒りの感情には強さ程度に幅がありますし、背後に別の感情が隠れていることもあります。それを意識しないと、「うざい」と「ムカつく」に集約されてしまうのです。

▼あなたの怒りの測り方 http://www.asahi.com/articles/SDI201609308726.html

▼怒りの背後の感情をみてみようhttp://www.asahi.com/articles/SDI201611112231.html

 また、時々「自分はあまり怒ったことがない」という人がいますが、実は怒りの感情に気づいていないこともありますし、うまく表現できないこともあります。自分の感情を抑圧したままの状態が続くと、燃え尽きたり、言葉の代わりに暴力や攻撃性として表出したりする危険性があります。「心が折れる」とか「キレる」とか、そんな表現になるでしょうか。

 

 怒りの感情にどのような表現があるのか、思い出してみてください。少しイラっとする程度なら、数年前に「おこ」とか「ぷんぷん丸」などが流行りました。もっと怒ったら「ブチ切れる」とか「激怒」など、レベルに応じて表現も変わります。「怒気(どき)」「憤怒(ふんど)」「憤激(ふんげき)」「激昂(げきこう)」「赫怒(かくど)」「逆上(ぎゃくじょう)」「逆鱗(げきりん)」。これらは、あまり使われなくなっているかもしれませんが、日本語の表現は非常に幅広いものます。

 日本語が良く出来ていると思うのは、怒りの表現には身体の変化を的確に捉えたものも多くあることです。「頭にくる」「腹を立てる」「ヘソを曲げる」「目くじらを立てる」「目を吊り上げる」「息巻く」「声を荒げる」「噛みつく」「怒りに震える」「つむじを曲げる」「ツノを出す」。身体の変化で怒りを表現する言葉は、まだまだあります。

 

 怒った時に、その内容、状況、程度などにぴったり合う表現を探してみてください。感情と上手に付き合っていくためには、心地よい感情も嫌な感情も含めて、自分の感情を認め、それを表現する語彙力を持つことが大切です。

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編集部から

 田辺有理子さんの本が8月31日に出版されました。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。