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 前回のコラムで、学生の会話を例に良いことも悪いことも、あらゆる出来事について「ヤバい」の一言で片付けてしまったら、表現力が低下してしまうのではないかという心配を書きました。

 

 このコラムに「ヤバい」「ヤバい」と反応していたのは、40~50代の世代が多かったようです。「ヤバい」を良く使うのは若者だけではなかったこと、そして語彙力が「ヤバい」のは、私も含めて幅広い年代に共通した課題だということがわかりました。

 

 さて、今回は言葉の使い方について別の視点から考えてみます。

 怒った時に、よく使っている表現を思い出せますか? 無意識のうちに口癖になっている言葉があるのではないでしょうか。一人でいるときに「チッ」と舌打ちする人、「まったくもう!」などとつぶやく人もいるかもしれません。これが、誰か相手のいる場面だったらどうでしょう。あなたが何気なく発した一言が、相手を不快にさせたり、傷つけたりすることもあるので、注意が必要です。

 私たちが怒る時、誰かに何かを伝えたい場合があります。伝えるというのは、感情に任せて怒鳴り散らしたり、相手を攻撃したりすることではありません。ところが、怒っている時には自分の発言が相手を傷つけ、追い詰めていることに自分では気付かないこともあります。アンガーマネジメントは、怒る時には上手に怒ることを目指します。何に怒っているのか、どう変えて欲しいのか、それがきちんと相手に伝わることが重要だからです。

 

 医療現場では、医療安全の観点からミスが起きないように日々マニュアルや手順等の見直しを繰り返していますが、それでもミスは起こります。どんなに慎重で注意深い人でも、人がかかわる以上必ずヒューマンエラーは発生します。ですから、小さなミスが起きたら、それを分析してシステムを改善していきます。例えば、ダブルチェックといって、複数の確認を経ることで、一人の確認で見落としても別の人が確認してミスを防ぎます。そうやって、ヒューマンエラーが大きなミスにならないように対策を重ねて、薬や処置が間違いなく安全に患者さんに提供されていくのです。

 

 看護師のAさんは、薬の確認中に同僚のミスを発見しました。それ自体はチェック機能が働いているので悪いことではありません。でも、ときには「またBさんだ!」「この間、注意したばかりなのに」という思いが巡ることもあります。Aさんはイラッとしながら、同僚のBさんを呼びました。怒った時に、こんな表現が口癖になっていたら要注意です。

▼詳しくは『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)をご覧下さい。

 

・いつも→「いつも同じ失敗を繰り返しているじゃない!」

 

・必ず、絶対→「複数の業務が重なると、必ず一つは忘れるよね」

 

 これらは、一方的に悪い行動を繰り返すと決めつけてしまうので、怒っているときには避けたい表現です。言われた相手も「いつもじゃない」と反論したくなり、素直に注意を聞き入れられないかもしれません。

 

・前から思っていた→「前から思っていたけど、仕事が雑なのよね」

 

 怒った時に、関連する出来事を思い出したり、便乗して言いたくなったりしても、過去を持ち出すことは控えましょう。本当に前から思っていたのなら、「その時に言って」と思うのではないでしょうか。

 

 「いつも」「必ず」とひとまとめにしたり、「前から」と過去を持ち出したりせずに、今回の出来事に焦点をあてて話すように心がけましょう。

 

・なんで?→「なんでできないの?」

 

 「なんで?」と言うのは、相手を責めてしまうことがあります。「なんで?」は理由を問うようにみえて、「あり得ない」「うそでしょ?」というように出来事や相手を否定する意味を含んでいることがあります。「なんで?」と聞かれても答えようがないと、とりあえず謝るか、言い訳するか、反論するか、不毛なやりとりになるだけです。

 しかし、ミスや事故が起きたら、その出来事を振り返って原因を探り、対策を講じて安全性を高めていくことが求められます。出来事を振り返る際、理由を探り分析する作業は不可欠です。本当に理由を探りたいときは、慎重に言葉を選んで「なんで」なのかをたずねましょう。そのうえで、「なんでできないの?」を「どうすればできる?」に言い換えてみてください。

 

 怒った時に注意が必要な口癖は、ビジネスの場面にも言えることです。部下に対して評価を下し、責め立て、追い詰めてしまう場合があります。育児でイライラして、「なんでママの言うことを聞けないの!」「どうしてママを困らせるのよ!」と言ったところで、子どもにとっては全くそんなつもりはなかったり、お母さんに対するお試し行動だったりするわけです。

 

 怒った時に、つい出てしまう口癖があったら、それが相手を傷つけ、追い詰めていないか、いま一度自己チェックしてみましょう。

 

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編集部から

 田辺有理子さんの本が8月31日に出版されました。タイトルは「イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版、2160円)です。(詳しくはアマゾン:http://goo.gl/52wVqv別ウインドウで開きます

 

<アピタル:医療・介護のためのアンガーマネジメント・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/anger/(アピタル・田辺有理子)

アピタル・田辺有理子

アピタル・田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 精神看護専門看護師・保健師・精神保健福祉士

横浜市立大学医学部看護学科講師。大学病院勤務を経て2006年から看護基礎教育に携わる。アンガーマネジメントファシリテーターTMとして、医療・介護・福祉のイライラに対処するためのヒントを紹介する。著書に『イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ』(中央法規出版)がある。