アピタル・中島美鈴
家庭内の怒りが原因のニュースを耳にすることはありませんか。社会的には何の問題もないように見えても、実は家の中では、怒りを抱えているという人は意外と多くいます。今回は、家庭内での「怒りの爆発」について、取り上げてみたいと思います。(すべての当事者がADHDというわけではありません。)
アオイさんには、二人の子どもがいます。子ども達は、決まって朝の忙しい時間帯にこんなことをしでかします。
子ども「これ、学校でもらった」
台所でバタバタと朝食のみそ汁を作っているアオイさんに、突然学校で配られたプリントが渡されます。今月末の保護者懇談会の出欠に関するもので、よく見ると、提出期限が今日に迫っているではありませんか。アオイさんは自分の頭に血が上っていくのがわかりました。
アオイ「どうしていつもこんな忙しいときに出すのよ!!なんでいつもギリギリなの!いつもらったの!どうしてすぐ出さないのよ!こんな忙しい時に出したって、無理!」
気づいたときには、すごい剣幕で怒鳴っていました。一通り怒りをぶつけ終えると、コンロの火を止めました。もう一気にすべてを投げ出したくなるのです。
アオイ「もう知らない。ご飯、今日はないから。自分たちで勝手にして」
台所に憮然(ぶぜん)として、立ちつくします。次の瞬間、脳裏には夫への怒りが浮かぶのです。
アオイ「だいたい、ご飯の準備くらい、あの人にだってできるはずよ!」
夫はまだ何にも知らずに寝ています。
アオイ「どうして私ひとりが朝からこんなにバタバタしなくちゃいけないの!」
怒りにくわえ、悲しみも交じってきました。なんとか気持ちを立て直してプリントに記入して、子どもに渡しました。それからアオイさんは布団に潜り込みました。絶望的な気分です。怒鳴った自分や朝食の準備を投げ出そうとした自分への嫌悪感が渦巻きます。
アオイさんは、時々こうして怒りを爆発させます。あとから考えるとあんなに怒る必要もなかったのではないかと思うような些細(ささい)なことでも、地雷を踏んだかのように一気に感情が爆発するのです。
そして、爆発の後には、決まって自己嫌悪が襲ってきました。こんなに最悪なことはありません。
このような経験は、誰にでもあるかもしれません。ただ、「些細なことでも怒ってしまう」という悩みは、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の人からは、非常に多く寄せられます。中でも、子どもについ言い過ぎてしまうとか、パートナーに感情を爆発させてしまうといった家族に対する怒りの問題は、より深刻で、頻度が高くなりがちです。
おそらく、近所の人や仕事上の付き合いのように短時間我慢すればなんとかなる関係ならば問題にならないかもしれませんが、家族のように長期間一緒にいる関係では、取り繕いにくく、コントロールできない自分が出てしまうのでしょう。
「怒り」の問題は、ADHDの症状のひとつである「衝動性」にかかわるものです。具体的な行動としては、
・思ったことをすぐに言動にうつす
・人の会話を遮って自分の話をしてしまう
・相手が別のことに集中しているときに、遮って自分の要求をしてしまう
・衝動買いをしてしまう
があります。やりたいことを用意周到に計画して実現するという場合には、傾けるエネルギーはなだらかに上昇します。しかし、ぱっ、と思いついて、ほどなく実現する場合には、エネルギーの傾きは急な山のようになります。ADHDの方は、こういう急な動きをするのです。感情の動きもまた同じです。瞬間湯沸かし器のように、怒りが一瞬で上がって爆発するという方もいらっしゃいます。
このような怒りの問題を持っていると、まず人間関係が破綻(はたん)しがちです。怒りの問題を抱えている人は、その場では自分の主張を通すことができるかもしれませんが、長期的にみれば、冷遇されていることが多いです。誰だって、イライラした人、キレる人のそばにはいたいとは思いませんよね。
さらに、長期的に最も深刻な問題となるのは、怒りの爆発を繰り返すことで、自己嫌悪に陥って、自暴自棄になっていくことです。人間が最も恐れていることは、もしかすると「自分を嫌いになること」や「できない自分自身を直視すること」かもしれません。
人間はこうした自分から目をそらすために様々な対策を講じます。ウソをついたり、理屈を並べてごまかしたり(合理化)、派手な突拍子もない行動で気を引いたり。あるいは、行き過ぎた完璧主義に陥ったり、社会からひきこもったり、酒や薬や過食やギャンブルでごまかしたり……。あるがままの自分を直視するのは、至難の業です。もしかしたら、一部の暴力行為や虐待も、そんな自分から目をそらすための、行動のひとつといえるのかもしれません。
さて、アオイさんはどうすれば、怒りの爆発の繰り返しから逃れられるのでしょうか。次回に続きます。
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昨年12月に著書を出版しました。「悩み・不安・怒りを小さくするレッスン 『認知行動療法』入門」 (光文社新書)です。これまでは、悩みを解決するためのセルフヘルプ本の執筆が多かったのですが、今回は初の新書です。認知行動療法入門書として、学術的に知識を深めたい方向けの本です。行動療法からマインドフルネスやアンガーマネージメントといった最新のトピックスまでを幅広く解説しました。よかったらお読み下さい。
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【大人のADHDの集団認知行動療法を行っています。】
このコラムで取り上げているような大人のADHDの特徴で、日々の生活にお困りの方を対象にした集団認知行動療法(グループカウンセリングの一種)を福岡市で行っています。研究目的のグループです。全8回のプログラムで、週に1回、約2ヶ月間で時間管理と整理整頓を実践し、身につけます。
今年度の募集は定員となり終了していますが、来年度以降の開催予定についてお知りになりたい方はtimemana@hotmail.com(スパムメール対策で@を半角に変えてメールしてください)大人のADHD集団認知行動療法事務局まで。①名前②住所(郵便番号も添えて)③パソコンのメールアドレスを添えてご連絡ください。詳細が決まり次第、お知らせ致します。
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大人のADHDについて、もっと学びたい方のためのワークブックをご紹介します。
『成人ADHDの認知行動療法~実行機能障害の治療のために』
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<アピタル:上手に悩むとラクになる・その他>

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。
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