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 富山県小矢部市の自営業、久保秀智(く・ぼ・ひで・のり)さんの一家は2011年、次男・大貴(ひろ・き)さんの14歳の誕生日を焼き肉店で祝いました。家族のありふれた思い出の一つになるはずの外食でした。しかし、ユッケを食べ腸管出血性大腸菌(EHEC)に感染した大貴さんは、脳の機能の回復が困難な状態となり、半年後に息を引き取りました。

 同じ焼き肉チェーン店でユッケが原因とみられる患者は富山、福井、神奈川、石川の4県で計181人に達し、5人が亡くなりました。「店でお金を払って出されたものを食べただけ。何でこんなことになってしまったのか」。久保さんは言います。

 この集団食中毒事件の当事者や関係者の多くが感じる疑問ではないでしょうか。もしかしたら、大事な家族を亡くしたのは私自身だったかもしれないとも感じました。

 

 これに対し、「ユッケを食べた本人や食べさせた親の責任だ」という意見も耳にします。しかし、本当にそうでしょうか。生肉の危険性が広く周知され、必要な対策がとられていれば結果は違ったと思います。

 

 事件では、焼き肉店運営会社の元社長と肉の卸元の元役員が業務上過失致死傷の疑いで書類送検されました。しかし、肉の表面を削るトリミング処理をしていても食中毒が起きた可能性があったなどとして、昨年、不起訴処分(嫌疑不十分)となりました。

 

 久保さんら遺族や被害者は処分の見直しを求め、検察審査会に審査の申し立てを準備しています。久保さんは民事の損害賠償訴訟にも参加し、実名でメディアの取材にも応じています。大貴さんの命を奪った責任がどこにあったか。それを明らかにしたい一心なのです。

 

 私は今回の取材で、楽しい思い出になるはずだった焼き肉店での食事のことから、大貴さんの亡くなった瞬間のことまで、何度も質問を重ねました。久保さんはいつも落ち着いて、丁寧に答えて下さいました。

 

 同級生たちからのメッセージがたくさん書かれたサッカーのユニホーム、中学校の卒業式に彼らが届けてくれた特別な「卒業証書」、大貴さんが生前に愛用していたスポーツバック。これらを前に思い出を語って下さった時、久保さんの目は潤んでいました。

 

 つらい記憶に向き合って下さった久保さんの思いを受けとめ、生肉や食中毒に対する正しい知識が広まってほしいと思います。

<アピタル:患者を生きる・感染症>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(南宏美)