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「えのき」がもっとも重要!

 糖尿病の合併症では「しめじ」(神経障害、網膜症、腎症)がよく知られていますが、実は、一番怖い合併症は「えのき」(えそ、脳梗塞、狭心症・急性心筋梗塞)です。

 「しめじ」は、糖尿病に特有の三大合併症ですが、糖尿病が発症してからゆっくり出現しますので「予備群」のうちは心配いりません。

 命に直結する合併症としてもっと怖いのは、「えのき」の方です。わかりやすく言えば、動脈硬化症です。動脈硬化症は、糖尿病でなくても、高血圧、脂質異常症、喫煙、肥満の人におこります。ですから、動脈硬化症は糖尿病特有の合併症ではありませんが、糖尿病ではより起こりやすくなります。

 したがって、明らかな糖尿病と診断を受ける前の、正常な人と糖尿病の人の中間である「予備群」と言われる人たちは、心臓病のリスク管理が一番大事になります。狭心症、急性心筋梗塞のリスクは正常な人の約2倍だからです。ですから、医師に「糖尿病予備群ですよ」と言われたら、まず心臓病が一番怖い合併症になります。

 山形県舟形町の40歳以上の住民2651人を対象に、検診結果の「正常」「予備群」「糖尿病」の群からどのくらいの人が、心筋梗塞などの心血管疾患によって亡くなっているかを約7年間追跡して調べた研究があります。

 75g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値で調べたところ、2時間後血糖値が140~199mg/dlと食後に高血糖になるタイプの「予備群」の人は、「正常」な人に 比べ約2.2倍の死亡率になっています。 一方、同じ「予備群」でも空腹時血糖値だけが高いタイプの心血管疾患による死亡率は、正常な人とほとんど変わりませんでした。

 「えのき」の中でももっとも重要な「き」の狭心症は、胸が痛んだり、胸が圧迫される症状の病気ですが、今は急性心筋梗塞も含めて一連の病態として急性冠症候群(ACS、アキュート・コロナリー・シンドローム)といいます。欧米人だけでなく日本人でも心臓病を防ぐことが糖尿病の一番の課題になっています。糖尿病では、合併症の心臓病で亡くなる人が多いからです。

 血圧や脂質は、薬で比較的簡単に下げることができますが、ヘモグロビンA1c(HbA1c)を6.9%以下(赤血球の中にあるヘモグロビンのうち、ブドウ糖と結合しているヘモグロビンの割合で、過去1~2カ月の平均血糖値を表す指標です)に保つのが難しいのは、強い薬を使うと低血糖を起こしてしまうからです。また体重が増えてしまう薬も使いたくありません。

 低血糖を起こさず、かつ体重も増やさないで、良好に血糖をコントロールするのは、なかなか難しいことです。私たち糖尿病専門医を受診している患者でも、6.9%以下に保てているのは、4~5割です。低血糖を起こさないように上手に薬をつかって、かつ食事療法と運動療法を行わなくてはいけないからです。

 「え」は、「えそ」のことで、足の閉塞性動脈硬化症です。足が腐ってしまう病気で、血行障害と神経障害による傷からばい菌が入って腐ってしまいます。日本でも、下肢切断の原因で一番多いのは、糖尿病です。この合併症は、動脈硬化症がある程度進行してからの話になります。動脈硬化症は、喫煙でも血管が詰まりやすくなりますので、禁煙も重要です。

 「の」は、脳梗塞です。脳梗塞は、高血圧と糖尿病の人が起こしやすい合併症です。

 

予備群の時から取り組むこと

 「糖尿病予備群ですよ」と言われたとき、すぐにすべきことは、①喫煙をやめること、②血圧が高い人は血圧を下げる薬を飲むこと、③コレステロールが高い人は下げる薬を飲むこと、④食事指導と運動指導を受けて体重を減らすこと、この4つです。

 しかし、予備群と言われると、「まだ糖尿病じゃないんだ」と安心してしまっている人がいます。糖尿病に詳しくない医師ですと、受診しても「1年後にまた受診を」と言うこともあり、患者本人も安心してしまいます。

 予備群だからといって、1年に1回の受診だけではだめです。予備群でも「えのき」をおこす危険因子についてはすぐに治療を始めなければいけません。つまり、血糖コントロール以外は、医師の指導のもと介入を始めないといけません。

 これは長生きするコツにもつながります。そして、こういう生活を5年、10年と続けることが重要です。糖尿病治療をするということは、生活習慣を変えていくということですが、そこが一番難しいことです。

 

 次回は、糖尿病に特有な三大合併症「しめじ」について具体的に解説します。

 

<アピタル:よくわかる糖尿病の話・コラム>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/tounyou/(アピタル・岩岡秀明)

アピタル・岩岡秀明

アピタル・岩岡秀明(いわおか・ひであき) 船橋市立医療センター代謝内科部長

船橋市立医療センター代謝内科部長、千葉大学医学部臨床教授。1956年生まれ。1981年千葉大学医学部卒。日本糖尿病学会学術評議員、専門医、指導医。日本内科学会総合内科専門医、指導医。主な編著書「ここが知りたい!糖尿病診療ハンドブック Ver.3」(中外医学社)、「糖尿病コンサルトの掟」(金原出版)など。