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 東京都内の大学に通う男性(23)は大学2年の時、昼夜が逆転するほど、ネットゲームにのめり込みました。自宅のアパートにこもり、授業にも行かなくなり、ゲーム以外へのことに気力がわかなくなりました。母のすすめでネット依存専門の外来がある久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)を受診しました。医師や臨床心理士と話をするうちに、秘めていた気持ちを吐露できるようになりました。「自分も臨床心理士になりたい」という目標を見つけると、大学の授業にも積極的に出るようになりました。

 

1日1食、朝までゲーム

 東京都内の私立大学に通う男性(23)はこの春、1年間の休学を経て、大学を卒業する。休学中はネットゲーム漬けの日々を送った。「自分が苦しんだ経験を、今後の人生に生かしたい」と臨床心理士を目指して勉強している。

 

 2012年、大学入学を機に上京した。初めての一人暮らしで、大学へ通いながらパチンコ店でアルバイトをしたが、「東京へ来た喜びも、大学へ行く目的も、将来したいこともなかった」。

 

 生活が一変したのは2年になった13年5月。ネットの対戦型のシューティングゲームを始めた。

 

 ゲームは複数の人たちでチームを組んで対戦する。チームは約15人のメンバーで、試合はもっぱら夜中に盛り上がるが、出られるのは5~8人。先発を目指し、午後4時ごろから練習を始める。長くネットにつながっていると、メンバーに選ばれやすいからだ。先発メンバーになると、まずチームで練習してから、深夜に始まる試合に出る。試合後にさらに練習や反省会もあり、寝るのは午前4時ごろ。起きている時間は風呂と食事以外、ゲームに費やした。

 

 夜間に授業がある二部の学生で、やがて大学から足が遠のくようになった。1日の大半を自宅のソファベッドで過ごし、外出もアパートから約1分のコンビニエンスストアへ行くだけになった。

 

 「ゲーム中は緊張と興奮で頭がさえた」。しかし、それ以外のことには気力がわかなくなった。食事は対戦前の午後10時にカップ麺とサラダの1食だけだった。

 

 自宅にこもって2カ月ほどすると、大学の友達から無料通話アプリのLINEにメッセージが来た。「テスト始まるけど、何で来ないの?」。その返信すら面倒で「しんどいから」とだけ返した。

 

 夏が終わるころ、母からメールが届いた。「前期の取得単位がゼロって通知が来たけれど。どうしたの」。大学から送られた成績表を見て驚いているようだった。

 

 「行ってない。ゲームしてます」。ありのままを答えた。

 

 「こんな生活を続けていたら、自分はダメになるんだろうな」

 

 ふと不安がよぎったが、自分の将来のことすら、どうでもよくなっていた。

 

母が調べた専門外来へ

 ネットの対戦ゲームにはまり、大学2年から授業に出なくなった東京都内の大学生の男性(23)は2014年4月、休学届を出すために、約1年ぶりに大学へ行った。

 

 門をくぐると、にぎやかな笑い声が響いてきた。授業に出ていない後ろめたさから、うつむいたまま、だれとも視線を合わせないようにして歩いた。

 

 同じころ、高校時代のサッカー部の仲間の間では、無料通話アプリのLINEで「就活どうする?」という話題が多くなっていたが、ついて行けなかった。

 

 周囲から取り残されている焦りや劣等感から逃れようと、ますますゲームにのめり込んだ。「先発したい。勝ちたい」。ネットの世界には、自分の存在を認めてくれる居場所があった。

 

 ただ、ゲームで昼夜逆転した生活が1年以上過ぎ、「引きこもりの自分は何の価値もない」と考えるようになった。大学に行っていないと知らせていた母から、3日に1回の頻度でメールが来た。

 

 11月、上京した母と2年ぶりに会った。母はネット依存専門の外来がある久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)に相談したと明かした。ゲームをやめろとは言わなかった。「生きてるだけで十分。何年かかってもいいから、大学は卒業してほしいと思っている」

 

 母が自分のことを思い、言葉を選んでいることがよくわかった。

 

 翌15年1月、男性はセンターに電話した。「母からネット依存の傾向があると言われた」と伝え、受診の予約を取った。センターのサイトにあったネット依存のスクリーニングテストを受けてみた。結果は「すぐに治療の必要がある」だった。驚きはなかった。

 

 2月上旬、初めてセンターへ行った。最寄りのバス停に降りると、海が広がっていた。「わぁ、久しぶりに見るなぁ」。少し気分が軽くなった。

 

 主治医になった樋口進(ひぐちすすむ)院長(62)は問診票を見て「ゲームのランクは今、いくつですか」と尋ねた。

 

 「先生はゲームのことも知っているんだ」。ゲーム漬けをただ叱るのではなく、穏やかな表情で話を聞く樋口さんに信頼を寄せた。

 

 次の診療日に体力検査をした。肺年齢は40~50代、骨年齢は30代という結果だった。

 

気持ち打ち明け、転機に

 大学を休学して2年近くゲーム漬けの生活だった東京都内の男性(23)は2015年2月、久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)のネット依存専門外来を受診した。

 

 臨床心理士の三原聡子(みはらさとこ)さん(45)によるカウンセリングを受けたのが転機になった。男性が言葉を選んで話すのを、三原さんはせかさず耳を傾けてくれた。

 

 ネットゲームにのめり込む生活からさかのぼり、大学へ行く意味が見いだせなかったこと、さらに中学時代に友達だと思っていた同級生に物を隠され、悪口を言われた経験にも及んだ。「それから、人を信用しなくなりました」。秘めていた気持ちを初めて話した。

 

 自宅に帰り、高校時代のサッカー部の仲間に、無料通話アプリのLINEでメッセージを送った。「実は、ネット依存になって……」。手が震えていた。

 

 「大丈夫か?」「今度、飲みに行こう」。気遣う返信が続いた。

 

 その夜、ゲーム仲間にもメッセージを送った。「これから忙しくなるので、ゲームをやめます」

 

 週に1度、集団の治療プログラムを受けるためにセンターに通った。午前中は卓球やバドミントンなどで汗を流し、午後は参加者同士でテーマを決めて話し合う。現実世界でコミュニケーションの機会をつくり、ネット以外にも目を向ける。最終的にネットを適度に使うようになることを目指す。

 

 中高生の参加も多く、初めてで不安そうな患者に男性は積極的に話しかけた。「三原さんのような、何でも話せる心理士になれたら」

 

 臨床心理士になるには専門の大学院に進む必要がある。男性は15年春に復学し、毎日、最前列で授業を聞いた。つまらないと思っていた授業が次第に面白くなった。

 

 1年後、大学の成績は学科の中で1位になった。この春、大学を卒業し、今後は大学院を目指して勉強を続ける。センターでの自身の治療は終えたが、今もボランティアとして通っている。

 

 今年初め、ゲーム機器をすべて処分した。母から「よくここまで頑張ったね」と声をかけられた。「遠回りしたけれど、こもっていた2年も無駄じゃなかったと思いたい」。決して非難せず、静かに見守ってくれた母に感謝している。

 

情報編 過度な注意、逆効果も

 「ネット依存」はゲームやSNSに夢中になるあまり長時間使い続けて、学校に遅刻したり成績が下がったりするなど、生活に支障が出ることをいう。世界保健機関(WHO)が定める疾病分類(ICD)で2018年に改訂される11版には「ゲーム障害」という定義を加える議論が進んでいる。

 

 厚生労働省研究班の調査では、ネットの「病的使用」とされた中高生は約8%で、全国の中高生の数で計算すると約51万人にのぼる。休日に5時間以上使う人は中学生で約14%、高校生では約20%を占める。男性はゲーム、女性はSNSを使う時間が多いという。

 

 ネット依存の専門診療をする大阪市立大学の片上素久(かたがみもとひさ)講師は「依存の背景には現実の世界で自分の存在が認められないなどの困難があり、ネットに『逃避』している場合が多い」と指摘する。連載で紹介した東京都の男性(23)も大学入学を機に上京したが、したいことが見つからず「ネットには自分の居場所があった」と振り返る。

 

 片上さんによると、特に中高生の場合、夏休みにネットにはまり、休み明けに通学できなくなるケースが多いという。「学校の友人関係や勉強についていけず、現実逃避の結果、ネットにはまる。思春期特有の問題で、親の過度な注意は逆効果で、親から指摘されると、さらにネットにはまって悪循環に陥りやすい」という。

 

 ネット依存専門外来がある久里浜医療センターの樋口進院長は「まずは本人の気持ちに寄り添うことが大切」と指摘する。子どもたちと信頼関係を築いたうえで、治療に通い続けてもらうことを重視する。センターが独自に開発した治療プログラムは、現実社会でコミュニケーションをはかる訓練をしながら、ネット以外の楽しみを見つけることを目指す。

 

 同センターは3カ月に1度、家族のワークショップも開く。本人が受診していない場合でも参加できる。サイト(http://www.kurihama-med.jp別ウインドウで開きます)にスクリーニングテストを公開、全国の治療施設の一覧も掲載されている。

 

 樋口さんはネット依存の予防策として「夕食の時間など、家族でネットを使わない時間を決めましょう。この時間は保護者も使用を控えて」と助言する。

 

ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

 

<アピタル:患者を生きる・依存症>

 

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(宮島祐美)