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 15歳から30代後半を指すAYA世代。この世代でがん治療を経験した人たちの就労状況や支援は、どうなっているのか。中高年に比べ、身近に同じAYA世代のがん患者が少ないこともあり、就学や就労で悩んでも解決の糸口を見つけられない人たちがいます。

▼就労は世代間によって意味や重みづけが異なる

▼就労は「セルフ・エスティーム」(自尊感情や自己肯定感)の課題

▼病気の「オキドコロ」を考え、発信力を活かす

 

●AYA世代ってどの世代?

 皆さんはAYA(アヤ)世代という言葉を聞いたことはありますか?

 AYA世代は、英語表記で「Adolescent and Young Adult」といい、その頭文字をとって「AYA」と呼ばれています。一般的には「思春期・若年成人」とも言われます。

 前回の記事「小児がん経験者の就労に壁が・・・」(http://www.asahi.com/articles/SDI201702229609.html)で紹介した小児がんは、15歳以下の患者さんの病気を指しますが、AYA世代は、15歳から39歳までの患者さんのことを言います(ESMO:欧州臨床腫瘍学会の定義では15歳から35歳)。

 

 この世代のがんは、小児がんに多く発生する白血病や骨肉腫などのがんと、成人に発生する乳がんや大腸がん、精巣腫瘍などが混在しており、小児科、あるいは、成人患者のがんを診療する科で治療を受けるケースに分かれます。このような医療環境上の難しさや、患者数が少ないことなどがあり、治療方法の開発は総じて遅れており、治療成績の改善が急務になっています。

 私自身もAYA世代で告知を受けましたが、がんの大きさは3センチ近くになっていたことなどもあり、さかのぼれば、がんの始まりは高校生時代ぐらいになるのではないかと思っています。仲間の中には、告知時期はAYAを越えていても、進行の度合いから考えると「AYA」のときに始まったと思われる方もいます。しかし、「社会の中で生きる」を考える上では、「その年代に告知があるかどうか」が重視されます。

 

 AYA世代は、心理的にも、社会的にも、成長する中で「人生を歩む一歩の歩幅が少し大きい」時期です。また、社会生活を送る上では様々な制度のはざまにあります。例えば、就学については、高校生、大学生、大学院生など、年齢をまたぎます。選挙権は18歳を境に変わります。結婚や出産、妊孕性(にんようせい、子どもを産む機能)は男女でも、年齢でも違いがあります。就労は、社会経験を積む前に告知があることと、社会経験を積んでいる最中での告知に分かれます。

 

 40代、50代の人であれば、周囲にがん患者やがん治療にかかわる人がいるでしょうが、AYA世代は、自分の親も病気と縁遠い年齢なので、悩みや 不安を打ち明けられるサポーターが少なく、自分のモデルになるような人や情報を見つけにくいのが現状です。

 

 私も、同世代の仲間とはなかなか巡り会うことができませんでしたし、悩みや不安を共有できる人も周囲にはいませんでした。それが、いま、私が患者支援活動を行っている原点になっています。今でも忘れられないのは、同じがんの患者さんから「お若いのに、お可哀想」と言われたときの衝撃です。ピア(仲間)はピアを傷つけることもあり、世代や家族構成の違いによる相談ニーズをマッチングすることや、サポーターもしっかりとしたトレーニングを積むことが大切になります。

 

●AYA世代がん経験者の就労問題

 では「働く」という視点からみたときにはどのような課題があるのでしょうか?

 

 私たちの団体(一般社団法人CSRプロジェクト:http://workingsurvivors.org/別ウインドウで開きます)が2010年に患者調査(回答:855人)を行いました。このデータをもとに、診断時に仕事をもっていた患者さん584人を抜き出し、再解析を行いました。

 

 がん診断後の仕事の変化を、40歳以降の人と40歳未満の人で分けてみたのが図1です。「現在も同じ会社・配属先で勤務」は40歳以降の人で26%、40歳未満の人では44%となっているほか、「依願退職」をした人は40歳以降で23%が、40歳未満で16%いました。「仕事が継続できているか」という視点だけでみると、それほど大きな世代間の差はないように見えますが、休業・休職中が多いことや、自営業の数の違いが影響しているのかもしれません。

写真・図版

 

 そこで、さらに詳しくみるために、個人事業主(60人)を年齢層別にみたのが図2になります。20~29歳までの20代は、診断時に就労していた人の数が14人と少ないこともあり、はっきりと言うことはできませんが、他の年齢層と比べると、診断前後で働き方を変更した人が多いと推測できます。

 公務員を初めとした中途採用や新規採用枠は30歳から35歳で設定されているケースが多いので、この年齢を境にして「キャリアの変更のしやすさ」が変化するのかもしれません。また、がんと就労は、年齢というよりは、雇用形態や企業規模、企業風土による違いの方が、就労継続に与える影響が大きいのかもしれません。このあたりは、他の研究の成果にも委ねたいと思います。

写真・図版

 

 では経済的な状況はどうでしょうか?

 がん罹患が家計や生活へ及ぼした影響について「影響があった」と回答した人の割合は、年齢層別にみてもそれほど大きな差が見られませんでした(図3)。国民皆保険制度や高額療養費制度は、治療継続にも、生活を送る上でも大きな支えになっていることがうかがえます。

写真・図版

 

●大学の就職支援室など、教育関係者はもっと意識をもって

 気になるのは、AYA世代の「学生」の支援状況です。一般的に大学には就職支援室(キャリア支援室とも呼ばれています)があり、就職説明会の開催、キャリアカウンセラーによる就職・進路相談、求人情報の公開などが行われています。

 私たちの団体で行っている電話相談には、AYA世代の患者さんからも相談を受けることがありますが、治療のために留年した人や治療で体力が低下している人などは、教育機関からの支援がもう少しあればと思うことがあります。これは高校生でも同じことが言えます。

 就学は、その後の人生、つまり、職業選択や収入、社会保障、結婚などに大きな影響を与えます。教育現場は病気を抱えた学生の生活や就職、アイデンティティ構築への支援についても関心を持ってほしいと思います。

 

●「働くこと」はセルフ・エスティーム

 家族、親子、友人、将来への不安、進学、就労、収入、結婚、出産など、AYA世代の課題は多岐に渡ります。その中での就労の意味は、就労継続できているかどうかという結果ではなく、セルフ・エスティームとしての課題に突き当たるのではないかと思います。

 日本人の平均寿命を考えた時、病気をするまでに生きた年齢より、病気をした後の時間の方がはるかに長いのがAYA世代。人生の中で、病気になったことの「意味」をみつけ、「がんのオキドコロ」を考えることが大切です。

 「お若いのにお可哀想」ではなく、「お若いからできることがある」し、「病気には意味がある」と私は信じています。

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アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。