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 今日は3月14日、ホワイトデーですね。ちょうど1ヶ月前の2月14日のバレンタインデーに米国内科学会が公表した腰痛治療に関するガイドラインの興味深い記述について、今回は見ていきたいと思います。

 そのガイドラインでは、腰痛治療に関して3つの推奨(Recommendation)を出しています。

Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Ann Intern Med 2017 Feb 14

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28192789別ウインドウで開きます

 少し長くなりますが、一つずつみていきましょう。

◎推奨1:急性または亜急性の腰痛を有する患者の大部分が治療に関係なく時間の経過とともに改善することを考えると、臨床医および患者は、浅部の温熱療法(中等度の質のエビデンス)、マッサージ、鍼治療、脊椎マニピュレーション(低い質のエビデンス)による非薬物治療を選択すべきである。もし、薬物治療が望まれる場合、臨床医および患者は、非ステロイド系抗炎症薬または筋弛緩薬を選択すべきである(中等度の質のエビデンス)。 (グレード:強い推奨)

 

◎推奨2:慢性腰痛に対して、臨床医および患者は、運動、集学的リハビリ、鍼治療、マインドフルネスベースのストレス軽減(中等度の質のエビデンス)、太極拳、ヨガ、モーターコントロールエクササイズ、漸進的リラクゼーション、筋電図バイオフィードバック、低出力レーザー治療、オペラント療法、認知行動療法、脊椎マニピュレーション(低い質のエビデンス)による非薬物治療をまずは選択すべきである (グレード:強い推奨)

 

◎推奨3:慢性腰痛患者で非薬物治療による効果が不十分であった場合、臨床医および患者は、非ステロイド性抗炎症薬による薬物治療を第一選択薬、そしてトラマドールまたはデュロキセチンを第二選択薬として考慮する。オピオイドについては、臨床医は、前述の治療に効果が得られなかった場合に その潜在的な利益が個々の患者のリスクを上回り、既知のリスクと現実的な利益について十分に話し合いをした後にのみ選択すべきである。 (グレード:弱い推薦、中等度の質のエビデンス)

 個人的には、腰痛患者に対して、まずは薬剤を用いない治療法(非薬物治療)を試すことが推奨されていることに驚きを感じました。また、非薬物治療の中に、鍼(はり)治療が含まれている点も興味深いですね。

 

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、日本では鍼灸師は国家資格になります。また、下記のような特定の疾患については健康保険が適用されます。

 ・神経痛

 ・リウマチ

 ・頚腕症候群

 ・五十肩

 ・腰痛症

 ・頚椎捻挫後遺症

 健康保険の取扱手続きについては、公益財団法人日本鍼灸師会のホームページなどが参考になります。

公益財団法人日本鍼灸師会:健康保険取り扱い(http://www.harikyu.or.jp/general/insurance.html別ウインドウで開きます

 なお、鍼灸治療でポイントなる「ツボ(経穴:けいけつ)」は、人の体に361個あります。これは、国によってバラツキのあった経穴の場所を、世界保健機関(WHO)が中心となってとりまとめ、2006年に統一したという経緯があります。ただ、この経穴を刺激する鍼の種類(太さなど)は、いまだに国によって異なるようです。一般的に日本で使われている鍼は非常に細く、刺すときに痛みが少ないと言われています。実際、私自身も鍼治療を受けたことがありますが、ほとんど痛みは感じませんでした。

 話がそれてしまいましたが、冒頭で紹介した米国内科学会の腰痛ガイドラインにおいて、鍼治療の効果を評価する際に対象となった臨床試験の報告論文は、海外、特に中国で行われたものが多いようです。日本でも鍼治療を用いたランダム化比較試験が行われているのですが、日本語で書かれた論文のためか、今回紹介したガイドラインには採用されていないようです。

 ですが、日本に住んでいる人であれば、基本的に日本で鍼治療を受けるわけですから、日本の鍼治療の効果を検証した論文の内容は知りたいところです。

 宣伝になってしまいますが、厚生労働省の委託事業として私自身が参画して作成している「『統合医療』情報発信サイト」(http://www.ejim.ncgg.go.jp/別ウインドウで開きます)では、日本人を対象とした日本の鍼治療のランダム化比較試験の結果を取りまとめたページがあります。

写真・図版

 

 今回のテーマにもなっている腰痛に関するランダム化比較試験も実施されており、効果を認めたとする論文が確認できます。

 なお、厚生労働省の「平成26年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、日本には鍼灸師が約11万人就業していて、鍼灸をおこなう施術所は6万カ所以上(「鍼灸をおこなう施術所」と「按摩・マッサージ・指圧並びに鍼灸をおこなう施術所」の合計)あります。

せっかくこれだけのリソースがあるから、というわけではないのですが、腰痛で悩んでいる人は、鍼治療も治療の選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。

 ただ、もちろん手放しに鍼治療をおすすめしているわけではありません。鍼治療にも頻度は少ないものの副作用があります。

代表的なものとしては、目眩(めまい)、ふらつき、疲労感、倦怠感、眠気などがあります。

また、鍼を刺しますので、血液を固まりにくくする薬を飲んでいる人は出血などに注意が必要です。抗癌剤治療をおこなっていて白血球が少なくなっている場合も感染のリスクがありますので避けるべきでしょう。

 どのような治療でも同じなのですが、リスクとベネフィットをよく吟味して、理解・納得した上で、治療選択の意思決定をしていただけたらと思います。

<アピタル:これって効きますか?・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/kiku/(アピタル・大野智)

アピタル・大野智

アピタル・大野智(おおの・さとし) 島根大学・教授

島根大学医学部附属病院臨床研究センター・教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大学医学部)卒。同大学第二外科(消化器外科)入局。補完代替医療や健康食品に詳しく、厚生労働省「『統合医療』情報発信サイト」の作成に取り組むほか、内閣府消費者委員会専門委員(特定保健用食品の審査)も務める。

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